第76話 マルコス平野の戦い②

「ふぅ……やはり手ごわいな……」


 罠を仕掛け、実際にはまった。

 でも、敵はそんなことは関係ないとばかりに突っ込んでくる。


 騎士達は全く恐れることをせず、ただ俺達本陣を刻もうとしているのだ。


 そんな最強の騎士団相手では並みの兵士では相手にもならない。


 俺がこうして先頭で戦うしかない。

 でも、俺一人で戦い続けるのは現実的ではないので、次の手を打つ。


「出てこい!」

「おおおお!!!!!」


 一緒にクルーラー伯爵家に行った兵士達100人が本陣から出てくる。

 そして、俺の横に並び、穴から這い出てくる敵を倒していく。


「るがああああ!!!!」


 ルークのハンマーが敵を馬ごと吹き飛ばす。


「少しだけならいいですよね?」


 トーマスは霧の魔法を使って敵の視界を奪って倒している。


「おぬしにはこっちの方がいいでさぁ」


 ムゲシは武器を変えながら器用に戦っている。


 みんながみんな自分の持ち場を守り、必死に敵の突撃を止めていた。


「みんなやるじゃないか……」

「ユマ様。敵を倒しながらやっているユマ様がそれを言っても……」


 そう俺の後ろで言ってくるのはシュウだ。

 前方の鶴翼の陣を指揮していて、敵をここにはめ込んでくれた大事な存在。


「いや、そうでもないさ。それに、想像していたよりももろいな」

「そうですね。防御魔法はどんなものかと思っていましたが、これならちょっと硬い適度ですね。策も上手くはまってよかったです」

「この落とし穴を掘るだけで時間を使ってしまったからな……」

「工兵部隊も作っておくべきかもしれませんね」

「この戦いが終わったらな」


 俺がそう言いながら出てくる奴らをハルバードで斬り伏せる。


「ですがもう勝っています。僕がここに来ることができている時点で」

「まぁな。しかし、工作員も使って全力で隠してよかった」

「ですね。代わりにカゴリア公爵領の動きが分からないのは残念ですが」


 この周囲に工作員の大多数を使ったので、カゴリア公爵領からはほとんどを引かせていた。


 時間を与えられるなら工作員は役に立つが、すぐに結果がほしいということであれば使えない。


「だが、これで勝てれば問題ない。終わり次第送ればいいからな」

「ですね」


 敵の突撃を止め、後は落とし穴の周囲で敵を囲んでいる。

 数でも勝っている俺達が負ける要素はない。


「ここまでやっておければ、降伏勧告をしてもいいか」

「ですね。ここまで圧倒的ならすぐに……」


 シュウが言葉を途中で止める。


 それは、とてつもないドラの音が響いたからだ。


 ジャーン! ジャーン! ジャーン!


「なんだ!?」


 俺は目の前の敵に注意を払いながらも、音がする方を見る。

 この音はとてもよくない。

 本当にとてもよくない音だという警鐘がガンガン頭の中で鳴り響いていた。


 音のする場所には新しい軍団がいた。

 遠目にも騎馬は3000近く、歩兵も5000ほどいて、嫌な予感が当たっていた気がしてくる。


「シュウ。あんなところに部隊は伏せてあるか?」

「いえ……そんなことはしていません。それよりも、あの旗は……」


 その騎馬が掲げている旗は、カゴリア騎士団のものだった。


「わああああああああああああ!!!!!!」


 俺達がそれを認識すると同時に、敵が突撃をしてくる。


 距離自体は結構ある。

 だが、それも騎馬の速度であれば、20分もあれば到着する。


「これは……これはやばいです」

「ああ……どうするか」


 なぜこんな所に追加のカゴリア騎士団がいるのかとか。

 それをどうして察知できなかったのかとか。

 そんな理由は今はどうでもいい。


 いまこの状況、敵を囲んでいる最中ではあるが、このままでは敵に攻撃されてしまう。

 そうなったらあの最強で名高いカゴリア騎士団。

 受け止め切れないから即刻迎撃態勢を整えるべき。


 だが、戦闘は始まってそこまで経っていないとはいえ、敵の騎馬500は確実に倒している。

 それに、敵の騎馬2000を確実にここで倒しておきたいという欲目もあった。


 だが、合流され、5000対4500にされたら圧倒的な質で勝てるものも勝てない。

 ほんの少しだけ逡巡しゅんじゅんした後、俺は決断した。


「包囲を解け! すぐに陣形整えろ! シュウ! ここの味方をまとめておけ!」

「ユマ様は!?」

「反対側の味方を急いで回収してくる!」

「危険です!」

「助けねば数で押し負ける!」

「わかりました!」


 俺は急いで本陣に戻って馬に乗り、敵が来る方の味方をまとめ上げていく。

 最初は鶴翼の陣を敷いていたが、敵を決して逃がさないように落とし穴を囲うような形で兵士達は配置されていた。

 だからこそ、敵が来るまでになんとかこちら側に逃がすことができる。


「集まれ! 集まって反対側に行くぞ! 至急だ!」

「ユマ様!? 包囲して勝っているのではないですか!?」

「問答をしている時間はない! 急げ!」

「了解しました! お前達! 各隊長に伝令を急げ! 敵はもういい! 反対側に行くぞ!」


 現場指揮官達はとても優秀で、すぐに行動に移してくれた。


 それらを俺がまとめあげて、敵の騎士団を放置してすぐに落とし穴の反対側に戻る。

 落とし穴にはまった敵をある程度倒してはいるが、すべて落ちている訳ではない。

 残った敵は敵で落ちた味方を救助していて、こちらどころではなく後ろを襲われることもなかった。


 敵がこのまま敵を救助されたら振り出しに戻ってやり直しか。


「ユマ様! こちら! まとめ終わりました!」

「こちらも終わった! 後は敵が救助に来たタイミングでこちらから仕掛けるぞ! 敵が救助と戦闘で迷っている間に囲んでいく!」

「おおおおお!!!!!」


 あいつらのやっていることは戦力の分散に他ならない。

 俺達を騙すつもりがあったなら、戦端を開かずに待っておくという手もあったのだ。

 そうしたら開幕から8000対10000でシャレにはならなかっただろう。


 まぁ……その際はあの3000も合わせた5000が、同じように落とし穴にはまった可能性もあった訳なんだけれども。


 そう考えている間にも、敵は俺達の反対側に近づいてくる。


「そろそろ敵と合流するぞ!」


 落とし穴周囲の敵は指揮系統の立て直しに躍起になっていて、すぐには戦線には復帰できない。

 途中からは落とし穴に入らず止まるようになったけれど、それでも復帰には時間がかかる。


 突っ込んでくる敵は速度を落とすか、そう思ったところで、味方の救助には動かなかった。

 奴らは進路を左に取り、味方を避ける形で俺達の方に向かってくる。


「これは……たまらないな」


 俺は口元が上がっていくのが分かった。

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