第75話 マルコス平野の戦い①
***カゴリア騎士団副団長***
「副団長、突撃隊形完了しました」
「うむ。全て任せる」
「はい」
私は形ばかりの確認をして、今一度状況を確認する。
戦場はマルコス平野。
周囲は見渡す限り平野で、伏兵がいないことは確認済み。
遠くには山などは確認できるが、そこから兵士が来たとしても、こちらに到着する前に離脱したり迎え撃つ準備はできるだろう。
こちらはカゴリア騎士団の騎馬2000。
対して、相手はグレイル軍歩兵7500に、騎馬500というところか。
数では負けているけれど、質では圧倒的にこちらが勝っている。
こちらの陣形は鋒矢と呼ばれる矢のような陣形。
応用は効かないが、突破力は随一だ。
対して敵は鶴翼の陣を敷いている。
相手が我々を馬鹿にしているのか、それとも、何か策があるのか。
当然ながら後者だろう。
我々がこの戦場に来るまで、何度斥候を放っても撃退され、この場の状況を知ることはできなかった。
それに、今もよくわからないところに騎馬がおいてあり、合図を送っている。
「少数の部隊を広げて正面から突撃させよ。敵とぶつからなくてもいい。ぶつかる寸前で帰らせろ」
「は!」
部下は即座に反応し、50人の部隊を広げて突撃させる。
我々はカゴリア騎士団。
この国で最も優秀で、最も強力な部隊。
それがなぜ彼らと戦わねばならないのか。
理解に苦しむが、主に忠誠を誓っている我々としてはただ武器を手に取るだけだ。
斥候がてら放った部隊が接敵するまでは、周囲の確認も怠らない。
どこからどのような罠が仕掛けられるのか分からないからだ。
しかし、今のところは特にない。
そして、100人の部隊が敵にぶつかる直前、敵は地面に置いていた槍を持って
「なるほど、それがあいつらの策か」
我々の周囲……というよりも、遠くで何かやっている騎馬はただの目くらまし。
鶴翼の陣で我々の足を止め、そのまま包囲して削り切ろうという判断だろう。
100人の部隊のおかげで正面には敵の落とし穴などの罠が張っていないことも十分にわかった。
これなら奴らがどこに罠を仕掛けていようが、我々には関係ない。
そのまま
偵察に出ていた騎士達を戻し、後衛につける。
「よぉし! 後は突撃するだけだ! 行くぞ!」
「おおおおお!!!!」
どんな相手だとしても、戦うとなったら我々の士気は即座に上がる。
後は敵を刻むだけ。
「われら最強のカゴリア騎士団相手は、たかだか8000で止められないことを教えてやれ! 全軍突撃!」
私の合図で、全軍が同時に突撃を開始する。
「槍を持て! 迎え撃て!」
敵の指揮官がそう叫ぶけれど、敵の兵士達はかなり逃げ腰になっている。
槍を持ってこちらに向けた。
ギリギリ逃げない理性は残っているらしい。
「だが……」
我々の突撃を受けきれる部隊などこの国には存在しない。
それを証明するかのように我々の突撃は簡単に敵を切り裂いた。
「うわああああ!!!???」
「強い! 強すぎる!?」
「後は敵本陣だけだ! 進め!」
正面に残るのは100メートルほど先の敵本陣のみ。
ぱっと見でも100人を超える程度しかいない。
後はあそこを潰して大将を倒すだけだ。
敵の本陣は慌てていて、すぐにでも逃げ出そうとしているが遅い。
「我々を見くびった報い、受けてもらう!?」
次の瞬間に、突然の浮遊感を味わう。
「なん!?」
ドジャアァ!!!
私は宙に投げ出され、気が付くと地面に投げ出されていた。
「ヒヒィーン!?」
「なんだこれは!?」
「落とし穴か!?」
その言葉で私は今どうなっているのか悟る。
はめられた。
敵の鶴翼の陣は本来は敵の突撃を受け止め、そのまま包囲させる陣形。
だが、それは敵の罠で、私達に突破させるためだったのか。
突破した我々は本陣を潰すのを餌にされた形だ。
敵本体と敵本陣の間に落とし穴が掘られていた。
広さは横に1キロメートル、縦に50メートル、高さは2メートルといったところだろうか。
普通に一人で落ちたとしたら問題はない。
だが、これは2000人からなる部隊が突撃してきている状態。
「止まれ! 落とし穴だ!」
「無理です副長! 後ろからうわぁ!」
「くっ! 全員前進せよ! 落とし穴が奴ら最後のあがきだ!」
私はそう言って兵士を鼓舞して、馬を置き去りにして足を前に進める。
ただ、そうしている間にも味方は足を止めることなく突っ込んでくる。
落とし穴の中には、兵士と馬の死体で道が出来上がっていく。
「急いで敵陣を突破する! 止まるな!」
それから私達が落とし穴のヘリに手をかけようとすると、
「ぐあ!」
「勝手に出てこられたら困るんだよなぁ!」
「騎士様達はいつも馬上で高いところから見ておいででしょう。 たまには低みの見物もいかがですかな!」
「貴様ら!」
敵本陣から出てきた兵士達は、事前に準備してあったのか、我々が登れないように槍で突いて落とすか殺しにくる。
そうしている間にも、後ろからは味方が、そして、敵陣後方にいた奴らは落とし穴の周囲に群がって脱出する隙が一切なくなる。
「このままでは……だが、まだだ、我々の死体で道を作り、それを乗り越えていければ、本陣に届く」
カゴリア騎士団は最強。
その自負と共に、覚悟も背負っている。
決して負けないと。
そのためならば、自分の命すら簡単に投げ出せると。
味方の死体が積み上がり、それは道になっていく。
後から来る味方は上を走り、敵本陣に届いた者がいた。
「やれ!」
私は叫ぶ。
たとえこれだけ被害が出ようとも、勝てればそれでいいのだと。
ズバァ!!!
しかし、敵陣に突撃しようとした味方は馬ごと斬り飛ばされた。
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