第72話 カゴリア公爵

「やぁ。よく来てくれたね」


 俺達はカゴリア公爵の屋敷に来ていた。

 公爵と会うメンバーは以前決めた通り俺、アーシャ、シエラの3人。

 他の護衛達は邪魔になる可能性もあるので、屋敷の外に置いている。


 人質に取られた場合はその扱いをしないとして、切り捨てると伝えてある。

 当然、そのことに同意した者のみを連れてきていた。


 そうなったらカゴリア公爵の首を刎ねてやるけれど。


「ご招待、感謝いたします。カゴリア公爵様」


 カゴリア公爵の部屋は華美の一言に尽きた。


 ソファやテーブルにも宝石があしらわれていて、仕事をするのに絶対に適していない。


 彼本人もそれを表しているように、巻き毛の金髪、瞳は濃い青色だ。

 指には指輪をこれでもかと付けているし、服も重たくないのか? と思われるほどに宝石をじゃらじゃらと付けている。

 ぱっとみナルシストのようにしか見えない。


 そんな彼の後ろには騎士団の護衛4人が一列に並んで整列していた。

 彼らの俺を見る目は鋭い。


「気にしないでくれ。君達を呼んだのはほかでもない。この僕の優しさなのだから」

「優しさ……?」


 宣戦布告をしておいて……か?


 でも、詳しく知りたければ聞いてこいという顔をしている。

 なので、俺は彼に尋ねた。


「そもそもどうして宣戦布告などをされたのですか? 我々の関係は悪くなかったと思うのですが?」

「簡単だよ。僕が強いということを証明するために君達と戦うことが必要だったのさ」

「……カゴリア騎士団は王国一強いのでは?」

「そう。そうなんだ。僕の騎士団は強い。でも、メア殿下はそれが分からなかったようでね。君達の所に行ったんだろう?」

「それは……どうなんでしょうか」


 俺はそのあたりのことがよくわからないので濁した。


「そうなのだ。そうでしかないんだよ。彼女の不満はそこにしかないみたいだからね」

「はぁ」

「だからこそ、我が騎士団が君達と戦って下し、目に見える成果が必要なのだよ」

「……一つお聞きしたい。そんなことの為にグレイル領を攻めるのですか?」


 俺の問いに、公爵は眉を寄せて俺の方を見る。


「そんなこと……? これは僕が最高に美しいメア殿下を得るために必要なことなんだよ。それがそんなことだなんて……。全く、メア殿下はなんでこんな奴の所に行ったのだろうか。理解に苦しむね」

「公爵閣下。そんなことの為に騎士団の人間が死ぬことになったとしても、いいと考えているのですか?」

「だからそんなことではないと言っているだろう! 君は分かっていない! メア殿下の美しさを! あの方はどの領地、いや、どの国も取り合う存在だ!」

「あ……そん……」


 俺は言葉を失ってしまう。


 まさか本当にそんなことのために攻めるなんて信じられない。

 いっそ……急進派に攻めろと言われていて、その流れで適当に言ってるのではないか。

 そう思ってしまうほどだ。


「公爵閣下。急進派と手を組んだ……という訳ではありませんね?」

「急進派……? なぜ今奴等の名が出るのだ。僕はあんな奴等と手を組むことなどないよ。僕は国王陛下の盾であり剣だからね」

「その大事な剣をここで使うのですか?」

「僕とメア殿下が結ぶ方が大事だよ。そうなれば中立派はより一層結束が高まるからね」


 こいつは……本当にこいつは何を見ているのだろうか。


 そこら中で戦争が起きていて、たまたま騎士団が強いから何も起きていない。


「お前は何も見えていない」

「……僕が誰か分かっていて言っているのかな?」

「分からないと思うのか? お前の頭はそこまで使えないのか?」

「なんだと?」


 俺の言葉に、背後のアーシャとシエラもビクっとしていた。


 そして、正面にいる公爵は怒りをにじませて俺を見返す。


「次期侯爵だったか……たかが侯爵の分際で、しかもまだ侯爵にもなっていない。そんな分際で僕になんと言った? 敬意を知らないのか?」

「敬意とは支払われるべき相手に払われるものだ。貴様は赤子に敬語を使うか?」


 俺の言葉に、彼は血が上ったのか顔は真っ赤に染まる。


「貴様……僕を誰だと」

「カゴリア公爵だろう? ああ、最期の……と付けておいた方がいいか?」

「!」


 彼は俺に向かって手を振る。


 すると、一瞬で彼の背後にいた騎士達が俺に向かってきた。


 俺は瞬時に右に移動して、1人ずつ床に投げ飛ばしていく。


 相手は鎧をまとっていて遅いが、俺は普通の服なので速度は圧倒的な差が出た。

 彼らを床に引き倒し、動けないのを確認してから、ゆっくりとカゴリア公爵に近付いていく。


 彼は慌てて跳びあがり、部屋の奥の方に逃げ出した。


「ひ、ひぃ!」

「どこに逃げる気だ? カゴリア公爵?」

「だ、誰か! 誰か助けてくれ!」

「そんな暇はないぞ?」


 俺は彼の首根っこを掴み、近くにあったイスに座らせる。


「た、助けて……」

「殺しはしないさ。お前に危害を加えることもない。グレイルの名誉のためにな」

「ほ、ほんと……?」

「ああ、だが覚悟しておくことだ。お前がグレイル領を攻めるなら、それ相応の代償を払うことになる。話は終わりだ」


 俺は涙をぽろぽろとこぼす彼をその場に残して背を向ける。


 驚いた顔のアーシャとシエラを連れて、公爵の部屋から出た。

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