第71話 宣戦布告
「どういう事だ? 使者殿。詳しい説明を要求する」
真っ先に我に返り、言葉を発したのは父上だった。
しかし、使者は彼に背を向ける。
「詳しく知りたいなら貴様らがカゴリア領に来い。これが主からのお言葉だ。それ以外にない」
「な……!」
何という横暴。
何という傲慢。
カゴリア公爵とはここまでの奴だったか?
そんなことを思っていると、使者はスタスタと帰っていく。
そんな時に、使者はメア殿下の前で止まり、跪く。
「?」
「殿下。カゴリア公爵様よりお言葉を承っております。必ず迎えに行くと」
「必要ないとお伝えなさい」
「……再び参ります」
使者は一方的にそう言うと、スタスタと部屋を出て行く。
「これは……どうしたら……」
シャレにならない。
カゴリア公爵は雑魚で勝負にすらならないカスだけれど、カゴリア騎士団が出てきたらやばい。
あいつらを正面戦闘で倒すことはかなり厳しく、こちらもかなり兵士を減らされるだろう。
そもそもなんでこんなことに……。
俺が考えていると、メア殿下が口を開く。
「ユマ様」
「どうした? メア殿下」
「カゴリア公爵……いえ、カゴリア騎士団との戦闘はまずい……ですわよね?」
「そう……ですね。普通に考えたら避けたいかと」
「なるほど……」
彼女はそう言って少し下を向いて考える。
どうしたのか。
声をかけようと思ったら、彼女は俺を見て言う。
「さきほどのお話、なかったことにして下さいませんか?」
「……メア殿下。どういうことですか?」
「わたくしの過信でなければですが、カゴリア公爵の狙いはわたくしなのです」
「殿下の?」
「ええ、彼はわたくしに何度も婚約を申し込んできました。それを断っていたのですが、彼は諦めていなかった。里帰りのために王都に行きたい。それは許してくださいましたが、グレイル領にきた事で、わたくしがユマ様と婚約させまいと宣戦布告をしたのだと思います」
「そんな理由で……?」
「ええ、カゴリア公爵とはそういうお方でした」
まじでふざけんなあのカスと叫びそうになった。
穏健派と中立派で争っても何もいいことなんてない。
急進派のためにやっているのかと思ってしまうほどだ。
メア殿下はそれから静々と頭を下げる。
「ユマ様に皆さま。先日は助けていただいてありがとうございました。この御恩は忘れません。すぐにでもわたくしはカゴリア公爵領に向かいます」
「待て」
「ユマ様?」
俺は彼女の手を取り、それを止める。
彼女の言う通りで、彼女が言えば確かにその通りかもしれない。
でも、本当に彼女が行ったから攻められないかどうかはわからない。
それに、まずは話をするべきだ。
後は……婚約をしてもいいと言った相手が自分を生贄にするようなやり方を俺は許せない。
「メア殿下。まずはカゴリア公爵と話をしてからだ。それからでも遅くない」
「ですが……」
「俺がお前を守ってやる」
「……」
「だから任せておけ。必ずなんとかしてみせる」
俺は彼女にそう言って、引き留めた。
「……分かりました。ですが、本当に怪しくなったら差し出してください。お願いいたします」
「そんなことはさせない。まずは……あのカスと話に行くぞ」
俺はそう言って、カゴリア公爵領に行くメンバーを話し合う。
殿下をゴードンに任せて部屋に送り、俺、父上、シュウ、アーシャ、シエラの5人でだ。
「シュウ」
「はい」
「話し合いに行くが、先日殿下の護衛で工作員を集めたな?」
「はい。あ、それでご報告がありまして、鉱山で捕らえたやつらが口を割りました」
「ほう?」
「敵の組織の名前はターリイ。ヘルシュ公爵直属の諜報組織だそうです」
「規模は?」
「情報工作員は50~以上で、詳しいことは分かりません。ただ、暗殺などの戦闘員は30人以上はいます」
「なるほど、戦闘員は先日ほとんど殺した」
「へ……」
俺の言葉に、シュウは目をぱちぱちとさせている。
「殿下を襲ったやつらがターリイだった。お前の部隊の諜報員も万が一の護衛に回したため報告にはいけなくて悪かったな」
「いえ……ですが……いえ、流石です。ユマ様。そいつらの排除にどうしようか迷っていた所ですので……」
「いいさ。それで、こちらの諜報員を俺の護衛と共に連れていき、カゴリア公爵領で工作をさせるぞ」
「はい。敵の戦闘員が排除出来たのであれば、こちらもかなりやりやすくなるかと思います」
「ああ、カゴリア公爵領で何をさせるかは相手の領内を見て回ってからだな」
俺の言葉に、シュウは驚く。
「ユマ様自ら行かれるのですか?」
「当然だ。俺が行かずに誰が行く」
「それは……」
父上の体調はあまりよくない。
今でこそ仕事をしているが、数日寝込んだりしている。
「ということで俺が行く。アーシャとシエラにも頼みたいことがあるから来てもらう。いいな?」
「当然」
「いいわよー」
「助かる。人数は最小限でいい。最悪戦闘になってそのまま脱出の可能性もあるからな」
俺達は無事に返したけれど、宣戦布告をしてきた使者の首を斬るなんてことは普通にある。
だから、俺達もその危険性は考えておかねばならないのだ。
まぁ……カゴリア騎士団を使って力を証明し、殿下にいいところを見せたい。
そう思っているのだから、暗殺は流石にしないと思うが。
「分かった」
「オッケー」
「シュウはここに残れ。カゴリア公爵領に来ない諜報員達を使って急進派の領内の物資の動きを追え」
「それは……」
「ああ、カゴリア公爵が動くなら、それに乗じて他の奴等が動く可能性もある。注意を払っておけ」
「分かりました」
ということで、俺達はできる限りの準備をして、カゴリア公爵領に向かった。
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