第70話 折角の覚悟
俺達はメア王女を連れてグレイロードに戻ってきた。
「父上に緊急の要件がある。最優先で通してもらってくれ」
「かしこまりました」
出迎えてくれたゴードンに俺はそう言って、メア王女を連れて父上の部屋に向かう。
ゴードンが走って父上の元に行ってくれたおかげで、俺達は待たされることなく会うことができた。
メンバーは俺、父上、メア殿下、シュウ、アーシャ、シエラにゴードンだ。
父上はメア王女をじっと見つめ、少し視線を落とす。
「父上?」
「ユマ、賢いお前のことだ。彼女をここに連れてくることの意味が分からないお前ではあるまい?」
「……いえ、父上に相談しようと思って連れてきました」
「では、お前はどう思っているのだ?」
「どう……とは? 俺はノウェン国のいち貴族ですので、王族が困っていたら助けます」
「そういう意味ではないんだが……」
「どういうことですか?」
俺は訳が分からずに聞く。
「いや……そうか……陛下の心の中までは普通は知らないか」
「?」
「私が悪かった。気にする必要はない」
なんのことだろう。
でも、気軽に流していい話ではない気がする。
「父上? 話してくださいませんか?」
父上はじっくりと考えた後に、答える。
「陛下から、お前とメア様で婚約をしてくれないかと打診があった」
「!」
俺は信じられない言葉に目を見開く。
そんなイベントはゲームではなかった。
というか、国王は大体その息子共々暗殺されているからだ。
俺としても助けに行く。
という選択肢がない訳ではない。
けれど、俺が通っているルートはユマ・グレイルのルート。
少しでも想定外のことをしたら死の沼に引きずり込まれるかもしれない。
王族を助けに王都へ!
字面はかっこいいが、それで俺が暗殺されてしまっては意味がない。
かといって俺が兵士を連れて行けば、謀反と取られてそのまま反逆者にされないとも限らない。
部下に黙って攫ってきたら?
王族をさらったなど、無条件で国賊扱いになるだろう。
王族を助けるというのは、ほとんどが悪手につながってしまう行為だった。
ただ、今回のメア王女は問題がない。
彼女自身が望んでいるし、国王陛下がそれを認めてくだされば、ちゃんとした行いとして認められるからだ。
「そうだったのですか……」
「ああ、すまなかった」
「いえ……そんなことはありません」
父上は俺のことを思って言ってくれたのだと思う。
俺が王族と関係を持ったら、この後の騒乱の中心に嫌でも引きずり込まれる。
そんなことをしたくなくて、いや、そうなって欲しくないからこそ、そう言ったのだろう。
でも、父上は一つだけ間違えている。
「父上。父上が許してくれるのであれば、今回の話をお受けしたいと思います」
俺の覚悟はとっくに決まっている。
このユマ・グレイルの身体に入り、ユマ・グレイルとして生きてきて、この領地で多くの者と共に過ごしてきた。
その大事な者達を見捨てることは決してできない。
俺がここから逃げれば、この領地は確実に焼かれる。
アルクスの里は報復のため、グレイル領は豊かさを奪うために。
俺は決してそのようなことは認められない。
身体が、魂がそれをさせないために、この戦乱を生き抜くと決めているのだから。
そのためには、王族を立てる必要性は必ず出てくるのだ。
ゲームのユマルートでは、ヘルシュ公爵の息子の嫁を奪って正当性を出す必要があった。
それをしないといずれ反乱で内側から崩壊する。
でも、ここで王家と繋がれるのであれば、話が変わる。
俺も……グレイル領のみんな、仲間たちも生き残れるのだ。
選ばない選択肢はない。
俺は父上をまっすぐに見て答えると、彼はゆっくりと目を閉じてから再び目を開ける。
「……そうか。分かった。覚悟が足りていないのは私の方だった」
「いえ、父上の優しさは分かっています」
「……立派に育ったのだな。分かった。メア殿下。あなたもよろしいですな?」
父上はそう言って覚悟を決めてくれた。
メア殿下を見る眼はとても力強い。
「ええ、こちらからお願いしますわ」
「分かった。それでは2人のこん……」
ドンドンドン!!!
父上がそう言おうとした所で、扉が強くノックされる。
「誰だ!」
折角の覚悟を……という感じで父上が叫ぶ。
「緊急の案件です! カゴリア公爵の使者が来ています!」
「カゴリア……? なぜ今更来るのだ。まぁよい。お通しせよ」
「はい!」
そう言って俺達に目配せをする。
俺達は壁際に退き、使者が入ってくるのを待つ。
入ってきたのは公爵の使者だけあって、かなりこちらを下に見てくる奴だった。
その護衛はカゴリア騎士団の者で、国内最強と言われるだけあってとても強そうだ。
後で少し訓練させてもらえないだろうか。
使者は俺達を
それから、父上の前に行き、口を開く。
「グレイル侯爵。カゴリア公爵様はあなた方に宣戦布告させていただきます」
その言葉に、俺達は誰一人として、反応できる者はいなかった。
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