第69話 それぞれの視点

***カゴリア公爵視点***


「メア様がグレイル領に連れていかれた!?」


 僕は思わずイスから転げ落ちそうになりながら聞き返した。


「はっ! メア様は王都に帰る途中で何者かの襲撃にあったらしく、そのまま逃げるようにグレイル領へ向かったとのことです」

「それで、メア様はご無事なのか!?」

「はい。襲撃者を撃退し、大事ないと」

「そうか……それは良かった。我が愛しの君に何かあったら耐えられんからな……」


 僕はイスに背を預けてどかっと座り直す。


「しかし……なぜ実家に帰ると言ってグレイル領に行ったのであろうか? 我がカゴリア公爵領の方が栄えているはず……」


 僕はそのことを確認するため、自身の部屋を見回す。


 一流の家具に一流の調度品、部屋の中全てが一流の物で溢れている。


 部屋の中をここまで華麗に、美しく出来る貴族はそう多くない。


 なのになぜメア様は出て行かれてしまったのだろうか。

 僕にはわからない。


「お前はどう思う?」


 自分で考えても分からないので、報告にきた部下に尋ねてみる。

 僕で分からないのだから、聞いても無駄だとは思うがたまには下々の言葉も聞くべきか。


「そうですな……。王都が想像以上に危険だった……かもしれません」

「危険だった?」

「ええ、王都には急進派の手が伸びております。陛下も力を尽くしてはいるようですが、外交なども考えなければならず、足元を見ている余裕がないとか」

「と言っても第1王子がいるではないか」

「その第1王子は急進派に取り込まれているそうです」

「なんと……ならば我らが主をお救いするべきではないか?」


 陛下がお困りならば我が騎士団をもって支援するべきだ。


 しかし、部下は止める。


「お待ちください。騎士団を王城に向かわせたらそれこそ反逆罪ととらえられてしまいます」

「僕がそんなことをするはずないじゃないか」

「相手がどう受けるかにもよるのです」

「そうか……」


 自分が力になれることはないと言われて落胆する。


「であれば、グレイル領はどうだ?」

「どう……とは?」

「あそこは穏健派だろう。戦力も少ないのではないか? そんな所にメア様がいるのは危ないように思える」

「いえ、あそこは優秀な人材を取り込み、次期領主のユマ・グレイルもかなり優秀と聞きます。戦いに関してもかなりの力を持つでしょう」

「いや、そんな場所にいるよりは我が領の方がいいだろう」

「どうするおつもりですか?」

「迎えに行く」


 僕はやはり賢い。

 そう確信していた。


 美しいメア様に見合うのは僕だけ。

 僕だけが彼女の隣に立つことを許される。


******


 王都、ヘルシュ公爵の執務室。

 質実剛健、そう言われてもおかしくない部屋に、ただ一人、ヘルシュ公爵はいた。

 彼はイスに背を預け、呪詛のようにつぶやく。


「クソが……手塩にかけて育てたターリイが壊滅だと……? ユマ・グレイルめ。そもそもなぜ奴等との戦闘になどなるのだ」


 彼がそう漏らすと、どこからともなくゆらりと影が現れた。


「王女暗殺の命を受けたためです」

「だからと言ってグレイル領に行くとは思わないだろうが!」

「しかしご命令故、本来であれば王都内で行おうと思っていたのですが、急遽目的地が変わったらしく……。修正の指示を出してギリギリで襲って終わらせるつもりだったのです」

「それが失敗したと」

「面目ありません」


 ヘルシュ公爵はこいつも処刑しようかと思う。

 が、それは出来ないと首を振る。


「何人残っている」

「戦闘員は3人です。それ以外は殺されるか捕まりました。上から強い順に5人目まで死んでいます」

「爆破魔法を使えるあいつもか? 必ず生きて帰る奴だったのだろう?」

「誘い出された所を捕らえられました」

「なら死んだと考えていいな……」

「はい。自死していることでしょう」

「クソ……諜報は行えるのか?」

「工作員はそこまで被害がないので問題ありません。ただ、新しい領地に向かうには戦闘員が足りません」


 影のような男は淡々と報告する。


「では穏健派の切り崩しはどうなっている?」

「グレイル領主が手を差し伸べている関係もあって無理ですね。工作を仕掛けてもグレイルの工作員が潰してきますし、成功してもグレイル領が豊かなのでその支援ですぐ元に戻されます。やるだけ無駄かと」

「クソ……どうなっているんだ。あいつらは……」

「分かりかねます。ある時からユマ・グレイルが変わったという話がありました。それからの彼はまるで別人のようですね」

「忌々しい。あのまま脳筋でいればさっさと終わっていたものを……」


 ヘルシュ公爵は悩んでいる所に、影の男がさらに聞く。


「それでは王女の件はどうしますか? 必要とあれば私が行きますが」

「ダメだ。お前まで失ったらターリイは終わりだ。今はなんとしても戦力の回復に努めよ」

「私が負けるほどの相手ですか?」

「可能性の話だ。それとも、絶対に勝てるという保証でもあるのか?」

「……ありません」

「ならば大人しくしておけ。何か朗報はないのか……」


 そう言った次の時には、影の男が消えていた。

 すぐに戻ってくると、彼は言う。


「いい報告があります」

「ほう。聞かせてみろ」


 ヘルシュ公爵は期待せずに聞くけれど、影の話を聞いた彼はおき上がった笑う。


「なるほど、それはいい報告だな。馬鹿にも使いようはある」

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