第68話 ミリィ視点 してほしかった奴

***ミリィ視点***


 作戦の概要が決まり、私達はそれぞれ配置につく。


 私は最上階にある姫様の部屋の前で待ち構え、他の護衛は同じ最上階か、外で敵を待ち受ける。


 そして、敵はこないまま時刻は刻一刻と過ぎて行き、深夜2時くらい。


「敵襲!」

「姫様! 敵です! そのままお待ちください!」


 私は部屋の中に向かってそう叫び、剣を抜く。


 自分でも何をやっているんだと思わなくもないけれど、これは必要なことだ。


 外での剣戟は聞こえるが、いつこちらに来るとも限らない。

 最大限に警戒をする。


「抜かれました!」


 下の騎士達から声が聞こえ、私は剣を持つ手に力が入った。


 それから30秒もしない内に、黒ずくめの男3人が現れる。


「早い!?」


 彼らは阿吽の呼吸で1人が私と切り結び、残りの2人が部屋に飛び込む。

 護衛の騎士等関係ない。

 目的はただ一人と割り切った行動だ。


 だが、


「1人で私に勝てると思うな!」

「……」


 相手は何も言わず、ただ時間稼ぎに徹する。


 このままでは姫様が……という訳がない。


 バガァン!!!


「!?」

「!」


 いきなり姫様の部屋から大きな音がして、敵の注意が削がれる。

 その瞬間、私は敵を切り裂いた。


「ぐっ……」


 奴はすぐに動かなくなった。


 私は急いで姫様の部屋に入る。


「逃げ道も作り、囮とは……やるじゃないか」

「本物はどこに行った?」

「くくく、さぁなぁ。自分達で探せよ」


 部屋の中にはユマ様と、暗殺者の2人が向かい合っていた。


 先ほどの大きな音はユマ様の魔法だったらしく、窓の方は数人が通れそうなほど大きく切り裂かれていた。


「私も助太刀を!」

「来るな!」

「!」


 なぜ。

 そう思うと、彼は説明してくれた。


「こいつらの武器には毒が塗られている。お前の実力では相打ちになるかもしれん。そこで他の邪魔が来ないか見ておいてくれ」


 彼はそう言いながらも、毒の塗られたナイフの2人を相手に互角にやり合っている。


「…………」

「…………」

「なるほど、それぞれ強いがそこまで連携は良くないな? 基本は単独で行動するからか? ほら、そっちががら空きだぞ」

「!」


 ユマ様は指導でもするように、敵の攻撃を華麗に避け、敵の武器を飛ばしていく。

 もしかすると敵を生け捕りにしたいのかもしれない。


「!」

「!!」

「どうした? そんなものか?」


 ターリイの2人はこのままではらちが明かないと思ったのか、手信号で何か合図をする。


 そして、2人同時にユマ様に襲い掛かった。


「両サイドから挟むか。なるほどな。だが」

「!」

「がっ!」


 しかし、ユマ様の右側の方の敵が少し距離を開けすぎた。

 ユマ様はその隙を見逃すことなく、左の敵に躍りかかりケリを入れる。


 敵は壁に背を打ち付け、ピクリとも動けない。


「ふむ。脆すぎるな」

「貴様!」


 敵が少しだけ感情を出し、言葉を発してユマ様に襲い掛かる。


「剣筋がブレているぞ? 暗殺者なのに大事な仲間だったか?」

「!」

「隙が出来たな」


 そして、次の瞬間には敵の首は飛んでいた。


 私は2人が動かなくなったのを確認した後、彼に近付く。


「捕らえるのは1人でいいのか?」

「ん? いや、こいつも殺すぞ」

「ではなぜ時間をかけていたんだ?」


 ユマ様はまだ首がある方に近付いていく。

 彼は私を手招きする。


 チョイチョイ。


「?」


 何でかは分からないけれど、私は彼に近付く。


 壁のすぐ隣は大穴が開いていて、ユマ様が魔法で開けたのだろう。

 そこから敵が逃げなくてよかった。


 そう思ったら、ユマ様が敵の首を刎ねた。


「!」


 そして、なぜか私は彼に片手でお姫様抱っこをされていた。


「!!??」


 ドオォォォン!!!


 意味が理解できる間もなく宿の下で爆発音がした。

 そのまま宿は音を立てて崩れる最中、ユマ様は開けた穴から飛び出す。


 建物は高さ5階。

 普通に死ねる高さに肝が冷える。


「ひゃ」

「しっかり捕まって口を閉じていろ」


 私は必死にユマ様に抱きつき、目を閉じて無事を祈る。


 しかし、一向に地面に着地した感触がない。


「あー! それあたしがして欲しかった奴!」

「私も」

「わたくしにこそ相応しくありませんか?」

「???」


 私は目を開けて周囲を見ると、そこは夜空の上だった。

 私はユマ様に抱えられ、正面には、メア様、アーシャ様、シエラ様が宙に浮いている。


「あ……」

「最初に話しただろう? 殿下達は上に逃がすと」

「私も上に行くとは思っていませんでした……」

「まぁ、俺も敵が本当にあそこまでやってくるとは思ってなかったからな。少し驚いたよ」

「それよりも捕まえたわよー。万が一を考えて地面近くに置いているけど」

「ああ、それで問題ない」

「どういうことだ?」


 今回の作戦は、メア様を囮に使ってターリイの数をできるだけ減らそう。

 という話だったはずだ。


 まずはメア様がいる部屋にアーシャ様、シエラ様、ユマ様を置いておき、合図があり次第壁を壊す。

 それからアーシャ様とシエラ様の魔法で姿を隠しつつ、メア様を上空に逃がす。


 後は敵を倒していくという流れだと思ったのだが……。


「ああ、必要ないから言わなかっただけ……というか、余計なことを考えて欲しくなかったから言わなかっただけだ。前回の戦いで爆発魔法を使ってきたやつがいたのだろう?」

「そうだ」

「だが、そういう魔法を使うやつを捕まえておきたかったんだ」

「確かに、前回は逃げられたんだったか?」


 途中から戦闘に参加しなくなっていた。

 というのが正しいかもしれないが。


「だが、そんな危険な奴はどうしても捕まえるか殺したかった。だから、罠を張った」

「この宿か?」

「そうだ。客全員を追い出し、俺達が最上階に陣取る。そして、この建物を爆破すれば、死ぬかもしれない状態を作れば、奴は出てくるかもしれないと思った」

「どうして?」

「安全を確保しながら殺せるなら出てくるだろうと思ってな。シエラを空に上がらせたのも、上からアーシャと協力して捕らえるためだ。魔法陣を起動するには本人が近くにいないといけないだろう?」

「そうだな……」


 魔法陣、それは紙など魔法陣を描き、魔法を使える者が自身の魔法を込めたもの。

 本人が魔力を流せば起動できるという物。

 ただ、魔法陣の近くに本人がいなければならないことや、威力が通常の半分位になるという理由から使われることはそう多くない。


「という訳で、これでターリイのそれなりの数は殺すか捕らえることができたはずだ。警戒は解かないが、当分はこのままでいいだろう」

「ああ、助かった。私達だけでは恐らく守り切れなかっただろう」

「これまで守ってきたんだ。自信を持て」


 そう言ってくれるユマ様の顔は近い。


「か、感謝する」


 私はそう返すので精いっぱいで、彼の凛々しい顔を直視できなかった。


 ちなみに、敵は20数名のほとんどを討ち取った。

 下でわが護衛達とユマ様の護衛が協力してくれた結果だった。


 相性もとてもいいのではないだろうか。

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