第67話 王女が来た理由

 俺達はすぐにアンドレアの町に戻ってきて、一番安全な宿を貸し切った。


 ちょっと強引な手を使ったけれど、王女の安全を考えたら必要なことだ。


 それから俺達は宿の一室に集まり、話をする。


 メンバーは俺、アーシャ、シエラ、王女、ミリィの5人だ。


「それでは、現状確認と行こうか。王女殿下はなぜそんな少数でグレイル領を来ていたんだ?」

「ユマ様に会うためですわ」

「は? いえ、失礼。あの……真面目なお話なのですが」

「わたくしは大変真面目です」

「……ミリィ殿だったか? 説明してくれるか?」


 俺が頭を抱えて彼女に聞くと、彼女は申し訳なさそうに答える。


「はい……といっても、我々も詳しくは知らないのです。元々、陛下のご命令で我々はカゴリア公爵の屋敷で匿ってもらっていました」

「カゴリア公爵の? なぜ?」

「それは……王都が今王族にとっても危険な場所だからです」

「王都は陛下のおひざ元ではないのか?」

「はい。その通りです。しかし、今や急進派の手がどこまで伸びているのかわかりません。よって、メア様は陛下が安心して任せられるカゴリア公爵の元へと身を寄せました」


 その話も初耳だ。

 ゲーム開始時点では確か王都にいた気がする。

 ただ、王都のどこかに隠れている、という感じで、逃げていることは確かだったはず。

 王都に行った時に助けるイベントもあったからだ。


 今回のように逃げてくるのはごく低確率であった気はするけれど……。


 ミリィは更に話を続ける。


「しかし、カゴリア公爵は代替わりしました」

「……ああ。今回のは……あれだったか?」

「……ええ。その……先代が優秀過ぎたかもしれませんが、今回は……」


 ゲームのカゴリア公爵はステータスを出す必要もないくらいカスだった。

 彼が敵にいてくれたら逆に嬉しいというレベル。

 ただ彼が率いている騎士団はちょっとシャレにならないほどに強い。

 王国最強と言われるほどだ。


「それが嫌で出て来たと?」

「……それもありますが、今カゴリア公爵領は少し荒れ始めていますので」

「……鉄が入ってこないんだったか」

「はい。あそこは騎士団の強さを鉄の消費で支えている領地ですので、その鉄を止められたらかなり厳しいのでしょう。他の領地から鉄を買うのにかなりの資金を使うのと、公爵自身の遊びでの浪費が原因ですね。まさか必要な支出を削ってまで宝石を買う等とは思いませんでした」


 鉄の消費……? と訳が分からなくなるかもしれないが、ゲーム上では鉄や小麦等を消費して部隊を維持することができる隊長というか、魔法の使い手という者が存在した。

 部隊の維持にコストは高くなるが、その一方で強力な能力を有する部隊として重宝もされる。


 カゴリア公爵領の騎士団にはその魔法持ちがいたはず。


 ミリィは更に話を続ける。


「それらのことが重なりメア様が実家に帰ると言って出たのですが……。途中でその行き先を変更しまして……」

「それがここだったと?」

「はい……」


 そんな気分で変えるなんて……。

 と思う自分もいる一方で、先見の明があるなとも思う。


 カゴリア公爵領は確か直属の騎士団を除いて兵力が終わっている。

 今はまだ浪費で済んでいるが、そのうち直属の騎士団を生かす代わりに、兵士達が色々と犠牲になる政策を打ち、兵士達の反乱を誘ってそれを騎士団が沈めるという中々なイベントがあったはずだ。

 まぁ……話を聞くと急進派の手が伸びているような気がするけれど。


「それで、ここまで逃げてきた理由は?」

「グレイル領主様は陛下の信頼も厚いでしょう? さらに、先のクルーラー伯爵領の戦いでもユマ様は戦果を挙げられたとか。ならばグレイル領が最も安全ではないかと姫様は考えられたのです」

「なるほどな」


 父上が治世をしっかりしていて領地は安定しているし、シュウが防諜もやってくれているので暗殺者も安心。

 しかも後継者の俺が戦果を挙げられるほどに優秀なら行かない手はない……というこか。

 自分で言うのもあれだが、それだけの戦果は挙げているから将来有望と見られてもおかしくないだろう。

 となれば王女が自身の安全を考えた時、グレイル領に来てもおかしくはないか。


「なるほど……だが、さっきの奴等はなんだ? ターリイにでも狙われているのか?」

「ご存じなのですか!?」

「あ……ああ……名前だけだがな」


 ターリイ、それはこの国唯一と言ってもいい暗殺組織だ。

 全身黒ずくめがトレードマークで、確かどうやっても仲間にはならないヘルシュ公爵お抱えの組織。

 もちろん公爵はそんな存在を認めてはいないけれど、確かに存在する。

 個人でも武力の高いキャラが何体かいた。

 そいつらに何度優秀なキャラが暗殺されたことか。

 もし会ったら根こそぎぶっ殺してやると密かに決意を固めていた相手だ。


「なるほど……そこまで知っておいでとは……素晴らしい」

「ん?」


 あれ? なんかミリィの目がちょっと変わったような……。


「失礼しました。流石ユマ様です。自領にこもりながらもそこまで調べがついているとは……」

「あ、ああ。それで、殿下の安全だったな」

「はい。ユマ様にお任せすれば我々もうまく使ってくださると信じています。どのようにでも命令をしてください」


 あれ、なんで、なんで俺が命令する話になってるの。

 君達は普通に姫様を守ってくれればいいだけなのに。


 コンコンッコンコン。


 俺が何か言う前に、部屋がノックされる。


 このシグナルは味方だ。


「入れ」

「いいのですか?」

「味方だ」


 ガチャリと入ってきたのは、確かシュウの所の副官だった。


「どうした?」

「先ほど怪しい連中が多数侵入したのを確認。排除の為に兵士を集めていますが明日まではかかります。ですので、今夜だけは何とかユマ様、王女様の兵だけでお守りいただきたくご報告に来ました」

「なるほど、今夜だけ守れば問題はないのだな?」

「はい。明日には必ず」

「分かった。では今夜はここで敵を迎え撃とう」


 俺がそう言うと、アーシャとシエラは楽しそうに頷く。


「実力の差を教える」

「最近魔法がたくさん使えて楽しいわ~」


 そんな2人を見て、ミリィが口を開く。


「その……目的は護衛ということをお忘れなく」


 それから俺達は今夜の王女様の護衛計画を話す。


「えー」

「あたし達つまんないじゃない」

「目的は護衛だと言っただろう。そうした方が、確実だ」


 ということで、2人をなんとか納得させ、夜になった。

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