第66話 メア王女

 俺の前にはメア王女がいる。

 美しい金髪を背中に流し、碧眼は俺のよりもいっそう澄んでいて綺麗だ。

 まとっているドレスも彼女の瞳と合わせるかのように美しい水色で、各所に意匠が施してあって素晴らしい。

 彼女の顔も体も非の打ちどころがないほど美しく、王国一と称えられている。


 そして、俺から見ても納得できるほどに美しい。

 ただ、アーシャやシエラも負けてはないような……いや、今は違う。

 メア王女の言っている意味を理解しないといけないのだ。


「ん?」


 ただ、俺はどれだけ考えても、メア王女が何を言っているのは理解できなかった。


 ゲームでは確かこの王女救出イベントはあった。

 もちろん、本編が始まってからでレックスの時だけれど。

 そして、その時にも婚約を申し込まれるなんてイベントまではいかなかった気がする。


 王女を他の国から守りつつ、色々とあって……ということならあったはずだ。


 いや、それよりも……。


「……」

「……」


 俺は背中に付きつけられる「誰よその女」とでも言うべき視線が怖い。

 王女って言ったのに。


 アーシャが持っている弓矢には力が入っているし、シエラの持つ杖には魔力がめぐっていて、どちらもすぐに攻撃できそうだ。


「王女殿下。きっと怖い目にあって動揺されているのでしょう。我々が護衛しますから、一度休まれては?」

「ありがとうございます。護衛してくださるのですね。ではどんな時も護衛をお願いします」

「………………」


 この言葉、きっと間違えたら何かが飛んでくる気がする。


「護衛の隊長は誰だ?」

「私だ」


 そう言って進みでてきたのは、暗殺者5人を相手に抑えていた女騎士、名をミリィというらしい。

 茶髪を後ろでまとめ、身体は白い鎧で守っている。

 今は返り血で白と赤色だけれど。


「姫様のことを任せる。行き先はアンドレアの町に行き、グレイロードを目指すということで問題ないか?」

「感謝する。それでお願いしたい」

「分かった。俺達は全員で周囲を警戒する。姫様の周囲は任せる」

「勿論だ」


 ふー。

 後ろから圧力が少し減った気がする。

 そう思ったのもつかの間、俺の手がそっと握られる。


「ユマ様。わたくしは心配なのです。この様に襲われて、本当に心の底から怖かった。ですが、ユマ様がいてくださればわたくしに怖い物はありません。ぜひ、もっとお近くで守っていただけませんか?」


 ゾクッ!


 背筋を何かが通り抜けたような気がする。


 これは……姫様のスキルか何かだったか……?

 それとも後ろの2人のあれか?


 えーと、姫様のステータスは確か……。


名前:メア・ライル・バントレティ・ノウェン

統率:27

武力:15

知力:86

政治:94

魅力:88

魔法:30

特技:魅了、駆け引き、交渉、求心、王の風格


 とかで、かなりのやり手だったはず。

 まぁ、今はまだここまでのステータスはないはずだけれど、ゆくゆくは素晴らしい交渉役になってくれるであろう。


 でも、今は……。


「とにかく。一度父上の所に戻りましょう。俺の身体は領地の為につかわなければいけませんから」

「あら、わたくしはこれでも王女ですわよ? 王族との婚姻ほどいいことはないのではなくって?」

「ですが、俺が決めることではありません」

「ではベイリーズ様がいいと言えば婚約をして下さるのですね?」


 押しが強い……。

 物理的に迫ってくるシエラとは別のタイプだ。


 ちゃんと正面からも来るけれど、外堀も確実に埋めてこようとするタイプ。


 どうしよう……。


「その話はいずれ。今は殿下の安全が先です」

「……分かりましたわ。でも、一つだけ」

「なんでしょう?」

「メア……と呼んでください」

「殿下は殿下です」

「呼んでくださるまでこの手は放しませんわ」

「メア殿下。急いでください」


 もう面倒になってさくっと呼んだ。


 すると、彼女は可愛らしく笑顔を浮かべて馬車に戻る。


「分かりましたわ! ユマ様!」


 クソ可愛いな畜生。


 ということで、我々は急いでアンドレアの町に戻る。

 吹き飛んでいた御者もなんとか手綱は握れるとのことで、俺達は全員で向かう。


 ただし、両サイドの圧力は上がっていた。


「アーシャにシエラ? その……馬が近くないか? 危ないぞ?」

「…………」

「ダーリン? ぽっとでの女が出て来たからちょっとねー」

「いや……仕方ないだろ……見捨てる選択肢はないし」

「…………」

「まぁ……分かってはいるわよ。それに王女様だしねー。ダーリンの魅力に気付くのもそうだし、仲良くしておかないといけないかしらね」

「なんの話をしているんだ……」


 と、そんなことを話ながら、俺達はアンドレアの町に戻った。

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