第65話 メア王女視点 馬車襲撃
***メア視点***
わたくしはメア、ノウェン国第2王女。
カゴリア公爵の結婚しろアピールが面倒だったので、実家に帰る振りをしてグレイル領に向かっていた。
カゴリア領は結構盗賊が出始めていて、かなり危うかった。
なんとか無事に抜け出し、それから王家の領地は父が治めているだけあってしっかりとしている。
そして、これからグレイル領に入る所だった。
「やっとグレイル領ね。結構遠かったわ」
「と言っても5日しか経っていませんよ」
「だって馬車に乗っているだけって暇なんだもの。また盗賊でも出ないかしら」
「滅多なこと言わないでください。姫様の護衛をするのは我々なのですから」
「ミリィ達なら守ってくれるって信じてるわよ」
「当然です」
まぁ、わたくしの騎士達なのだから当たり前だが、これはこれで重たいなと思ったりしないこともない。
でも、小さい頃からずっと一緒にいるから、気持ちは友人と言ったところか。
まぁ……絶対に言うことはないけれど。
この身は国のために好きでもない誰かと結婚をしなければならない。
でも、できることなら、少なくとも尊敬できる相手であっては欲しい。
カゴリア公爵などではない、しっかりとした……できればかっこよく……若くて……イケメンで……。
「警戒!」
「!」
1人で妄想をしようとしていると、外の騎士が叫ぶ。
「何事!?」
「伏せていてください!」
わたくしはミリィに強引に床に伏せられる。
次の瞬間、近くの地面が爆発した。
ドォォン!!!
「火魔法!? それとも爆発魔法か!?」
「ねぇ! グレイル領って安全なんじゃなかったの!?」
「まだ王領内です! メア様! 伏せていてください!」
「え、ええ」
護衛の騎士達と馬車は走り続ける。
ミリィは御者と何か話すと、わたくしに教えてくれる。
「このまま走ってグレイル領に逃げます。その方が村も近いですし、方向転換する隙もなくせます」
「でも、ずっと背を狙われるのではなくて?」
「何人かが足止めに残ります」
「そんな! それでは!」
「我々はあなたの為に命を尽くします。後悔はありません」
「……任せました」
わたくしはそう言うだけにとどめる。
「姫様を守るために奴らをここで足止めしろ!」
「はっ!」
ミリィが窓を開け、他の騎士達に命令をする。
彼女達は一切ためらうことなく馬の足音が消えた。
「……姫様。床に伏せていてください。この馬車も狙われるかもしれません」
「馬車も?」
「ええ、敵の狙いは姫様で、先ほどの攻撃からも殺す気のように感じました。ですので、馬車が横転する可能性もあります。だから伏せていてください」
「ミリィは?」
「私も出て戦います。私が出たら扉を閉めて伏せていてください。この馬車は特別製。そう簡単には壊せません。いいですか?」
「そんな……」
わたくしの返事を待つこともなく、彼女は馬車から飛び出る。
彼女の姿を見ようと窓から外を見ると、外には全身黒ずくめの人達が馬でわたくし達を追いかけていた。
護衛は敵の一人を斬り倒し、その馬を奪う。
「姫様には近づけさせん! 来るならこい!」
彼女はそう言って敵を斬りまくっていく。
しかし、数が多い。
護衛は強くとも、徐々に傷を増やしていく。
そして次の瞬間、
ドゥン!!!
「きゃー!!!???」
乗っていた馬車が跳ね上がる。
そして、馬車は地面に着地するが、御者が飛ばされてしまったか、車輪が壊れてしまったのか馬車は動かない。
「いや……なんで……なんで……」
こんな目に。
ずっと一緒にいたミリィは敵に囲まれていて、動けないわたくしもこのままでは……。
「!」
わたくしは黙ってただ外を見ていることしかできない。
気が付けば、黒ずくめの男がわたくしの目の前に立っていた。
「あ……」
扉を閉めていない。
思いだして、手を伸ばしてももう遅い。
扉はゆっくりと、世界の時間がゆっくりになったように開いていく。
わたくしはこのまま死ぬ。
そう思った時、新しい声が聞こえた。
「斬り飛ばせ!」
「!?」
次の瞬間には目の前の男の首が飛んだ。
わたくしはそれを呆然と見ることしかできない。
そんなわたくしの前に、
「え……」
「大丈夫か! おい! 聞こえているのか!」
「あ……えっと……わたくしの騎士が! 後ろの方で戦っています! 助けてください!」
わたくしがそう叫ぶと、素敵な彼は後ろを振り向いて叫ぶ。
「シエラ! 最速で道を進んで騎士を助けてやれ!」
「オッケー!」
「アーシャと半数も念のために行け!」
「了解」
「はっ!」
かっこいい彼の言葉で彼らは即座に動き、わたくし達が来た道を進んでくれる。
「扉を閉めて待っていろ! 敵を斬ってから話は聞く!」
バン!
彼はそう言って扉を閉めたけれど、わたくしはずっと彼に視線を注いだまま動けなかった。
でも、彼の動きは早すぎてほとんど目で追えない。
辛うじて、彼がハルバードを振ると敵が両断されていくのが見えただけだ。
それも、馬車の死角になったら見えなくなる。
ああ、もっと……もっとその素敵なお姿を見せてくれないだろうか。
しかし、彼は周囲で敵を斬り続け、敵がいなくなっても警戒して馬車を守ってくれる。
それから奥に行った半数が、護衛の騎士を全員連れて戻ってきた。
「あなた達!」
わたくしは思わず馬車を飛び出す。
「姫様! よくぞご無事で!」
「この方々が助けて下さったのです。本当に……助かりました」
わたくしは彼に向ってそう言う。
彼は馬から降りて、ゆっくりと近付いてきた。
「大丈夫ですか? 姫様」
はて、会ったことはあるのだろうかと思ったけれど、そんなことはどうでもいい。
「お名前を伺ってもよろしいですか?」
「俺はユマ・グレイルと申します」
「なるほど……グレイル……ベイリーズ・グレイルの息子ですね?」
「はい。その通りです」
「分かりました。では、わたくしと婚約しましょう」
わたくしはするりと口からそんなことを言ってしまっていた。
「ん?」
ただ、正面にいる彼は目を丸くして、驚いていた。
その顔は少しだけ可愛らしいと思えた。
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