第64話 ファルコ

「さて、それでは聞かせてもらおうか」


 執務室らしき部屋の奥に案内された俺達は、ソファに座って長と先ほど叫んだ彼と向かい合った。


「その前に先ほどはこのこの馬鹿が申し訳ありません。ユマ様にあのような言葉使いをするなど……」

「だって問題ないって言っただろうが! だからおれはちゃんと言ってやったんだ!」

「気をつけろと言っただろうが! 普通の貴族なら難癖をつけて処刑されることもあるのだぞ!」

「だって!」


 ゴスン!


 長は叫ぶ彼の頭に拳を落とした。


 俺は彼をなだめるように話す。


「まぁ、いいではないか。それで、治水工事ということで問題が起きているのだったな?」

「はい。実はこの情報は上げていて、上の方も対処をしようとしているのですが、簡単には解決できない問題なのです」

「解決できない問題?」

「はい。実は……」


 ということで、彼の話をまとめると。

 このアンドレア町は大きな川の水を農地に引いて使っている。

 だが、その水を引いている川がだいぶ古くなっていて、いつ壊れてもおかしくないという。

 その川がが壊れると、この農地一帯に甚大な影響を及ぼす。

 だが、今現在も絶賛使用中であり、部分的に修理もできないということらしい。


「なるほど、それで、解決方法はないと」

「ええ……」


 俺と長がそうやっていると、彼の隣にいた者が再び叫ぶ。


「だからおれならなんとかできるって言ってるだろ!」

「なに?」

「おれは色々と本を読んで勉強したんだ! 他の国で使われているのを使えば直せる!」


 本当か……? と思いつつも、彼の顔にピンとくる、犯人ではないが。

 さらに、そういえばこのイベント……と思い彼の名を聞く。


「お前、名は?」

「おれはファルコ! おれなら直せるんだ!」


 ゴスン!


「……」

「いってぇ……なんでそんな何度も殴るんだよ……」

「お前がユマ様相手に無礼を働くからだ。ユマ様、この度は愚息が本当に申し訳ありません。こやつが勉強熱心なのは事実でして、ですのでどうかご寛大な処置を……」

「分かった。ではファルコと言ったか?」

「は、はい……」

「お前に任せる。今回の治水工事の件、見事に修理して見せろ」

「いいのか!」


 ファルコは喜んで立ち上がろうとして、


 ゴスン!


 頭に拳を落とされていてた。


 ちょっと笑ってしまいそうになった。


 でも、その件を抜きにしても、ファルコに任せて問題はないはず。


 彼のステータスは確かこんな感じ。


名前:ファルコ

統率:50

武力:38

知力:73

政治:32

魅力:45

魔法:29

特技:工兵、工作、築城


 という感じで、能力値としては低いが、工作兵としてとても役に立つ。


 ただこちらから正面突破をするだけではない。

 彼がいたら敵を罠にはめて、被害を出すことなく勝つことだってできるようになる。


 やば……なんでもっと探しに行かなかったのだろう。

 というか、こんな場所にいたなんて……。

 いっそのこと王都とか、もっと優秀な者がいる場所に行こうか。

 本気でそう思ってしまう。


「こほん。さて、ファルコ」

「は、はい」

「今回の治水工事をお前に任せる。これはユマ・グレイルとしての指示だ。いいな?」

「はい! 絶対にやり遂げてみせ……みせます!」


 長の拳を見て彼は言葉を変える。

 ちゃんと学習は出来るようだ。


「よし、ではその話をしに館に行く。ついてこい」

「わかっ……わかりました」

「ただ、一つ要望がある」

「要望?」

「ああ、ファルコ。今回の治水工事が終わったら俺の元に来い」

「ユマ様の元に……おれは兵士としても適性は全くないぜ?」

「お前には工兵部隊の指揮を任せたいのだ」

「まじか……いいのか? おれなんかで」

「ああ、お前に任せたい。だが、今回の治水工事を完璧に済ませてみせろ。話はそれからだ」


 俺の言葉に、彼は大きく頷く。


「任せてくれよ! 治水工事もいいけど、城とかも作ってみたいと思ってたんだよな!」

「ああ、楽しみにしている」


 ということで、俺は彼らを連れて屋敷に戻り、話を通す。

 

「期待しててくれよな!」

「ああ、早く来い……と言いたいところだが、ちゃんとやってから来い」

「当然だ! 完璧にしてからくるぜ!」


 ということをやって、俺達はアンドレアの町を後にした。


 今日も俺は馬に乗ってハルバードの素振りをしながら進む。


 そうしていると、アーシャが聞いてくる。


「ユマ様はあの人ができるって知っていたの?」

「ん? んーなんとなく勘でな」

「なるほど、流石ユマ様」

「はは、たまたまだ」


 そんな風に次は一体誰と出会うのだろう。

 もう能力が高いやつか……それともこれから伸ばすやつかと期待に胸を膨らませてハルバードを振っていると、戦闘音が聞こえた気がする。


 確認のためにアーシャを見ると、彼女はすでに弓矢を手にとり、俺と同じ方を警戒している。


 彼女の目は聞いている。

 どうすると。


「当然助けに行く。いいな?」


 コクリ。


 彼女は頷いて返事をする。


「お前達! 領地を荒らす奴等かもしれない! 行くぞ!」

「おお!」


 俺達は音のする方に向かう。


「シエラ! 飛んで偵察に行ってくれ!」

「わかったわ!」


 シエラはすぐに答えてくれて、偵察のために空に上がってくれた。

 こういう時に風魔法使いは本当に便利だな。


 そんなことを思っていると、シエラが急いで戻ってきて叫ぶ。


「馬車が襲われている! しかもその馬車! 王家の紋章が付いてるわ!」

「王家の紋章……だと」


 俺はそう漏らすことしか出来なかった。

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