第63話 アンドレアの町

 俺達はそれから1週間だけグレイロードにいることになった。

 俺の顔見せということで相手側の準備などもあるから……ということだからだ。

 向こうが準備でき次第、俺達は領内を半時計周りに出発する。


 グレイル領はダイヤモンドのような形をしており、グレイロードは中央から右下よりに存在している。

 そこから半時計周りに巡っていくという形だ。


 ただ、今回のメンバーはいつもと違う。

 俺、アーシャ、シエラに護衛のメンバーという形だ。

 シュウは諜報関係が忙しく、動けないとのことだった。


「そんなにも大変なのか?」

「はい。今までは防諜に力を入れすぎていましたが、それでは後手になり過ぎるかもしれません。ですので、少々他の領地に向かわせる数を増やそうかと」

「確かに、それは必要ではあるか」

「はい。急進派もかなり優秀な諜報部隊を抱えています。どこまでできるか分かりませんが、できるだけ情報を集めようと思います」


 その話をしていて、思ったことがある。


「そう言えば、ジェクトラン男爵領で捕らえたやつらはどうしている? 何か情報は吐いたか?」

「いえ、何もしゃべりません。これ以上やると死んでしまいそうですので、加減がなんとも……」

「そうか……分かった。それでは諜報部隊のことは任せる」

「はい」


 ということで、シュウはグレイロードに居残りだ。


 俺達は領内を見て回るために移動をするが、俺は馬車ではなく馬に乗って道を進む。


 これは馬に乗りながら武器を振る練習でもあって、実戦で使えたとはいえ、もっと修練を積んでおきたい。


 アーシャとシエラは馬車に乗れと目では訴えていたけれど、口にはしていなかった。


 そんなことをしながら俺達は最初の町に到着した。


 馬車からアーシャとシエラが降りてきて、それぞれ自分の馬に乗って俺の隣に並ぶ。


「この町ってなんて町―?」

「ここはアンドレア、農業が盛んな町だ」

「へぇ、確かに美味しそうな匂いが結構するわね」


 小麦が有名な産地で、その小麦を使ったパン屋がかなり多い。

 なので、町中に入るとその香りがすごく漂ってくる。


「今回出迎えはないの?」


 そう聞いてくるのはアーシャだ。


「なーに? 凱旋にハマっちゃった?」

「ユマ様の顔見せって聞いたから」

「あーそういえばそうね。どうなのダーリン?」


 俺を挟んで会話していた2人に、俺はちゃんと答える。


「戦争で勝ったわけでもないし、そうそうそんなことはしないさ。それよりも、各町のトップ達との顔見せの方が重要なんだ」

「なるほど」


 ということで、俺達は早速アンドレアを管理する屋敷に向かう。


 そこは結構な大きさで、俺は早速挨拶を済ませる。


 町のトップは特に語ることのないしっかりとした人だった。

 父上がちゃんと考えて選んでいるだけあって問題はない。


 なので、町人達にもあっておこうと思い、こちらから向かった。


 最初護衛に止められたけれど、俺がそうそう殺されるわけはない。

 というか、シュウが防諜などもしてくれているのだ。

 問題はないだろう。


 ということで、俺が町役場に入ると、とても驚いた顔をされた。


「これは……次期領主様? このような場所にいかがなされましたか?」

「何、困ったことはないかと思ってな」


 まぁ、ここまで強引に来た理由は実はある。

 ゲーム中、この農業が盛んな町の治水工事で不手際があり、民衆の感情が悪化するということがあるのだ。

 なので、もしもそれが今起きるのであれば、潰しておきたい。


 役場の長は40代後半くらい。

 きっちりとした服を着ていて、ちょび髭が似合っている。

 彼は困ったような顔で答える。


「いえ、領主様に至っては素晴らしい治世を賜っております。これ以上求めること等ございません」


 そうとても礼儀正しく感謝を述べてくれる。


 父上の治世が素晴らしいと褒められているようでうれしいが、役場の中につまらなさそうにしている者もいた。


「そうか。では……」


 俺はそう言って、つまらなさそうにしている者の前に立つ。


「君」

「な……なんだ……いえ、なんでしょうか」

「何か困っていることはないか?」

「! ……言っても聞いてくれないだろ」

「それは内容を聞くまでは分からない。だが、真剣にこの町のことを考えているのであれば、どのような無礼を言ったとしてもこの場では不問にする」

「本当だな?」

「誓おう」


 俺がそう言うと、彼は俺に詰め寄って叫ぶ。


「なら、治水工事はいつやってくれるんだ! そろそろ限界だってずっと言ってるのに! どうしてその補修に予算を割かない!? 壊れても知らないぞ!」

「……詳しい話を聞かせてくれるか?」


 俺がそう言うと、長も諦めたのか奥の部屋へと案内してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る