第59話 呼応してくれれば

「このまま敵を斬り抜けるぞ!」


 シエラの魔法で敵を焼き、武芸大会で仲間になった仲間にシエラの邪魔をする魔法使いを殺させた。

 そして、敵将らしき男を真っ二つにして、俺は後ろに続く味方に声をかける。


 ただ、これからどうするか。

 敵の頭は潰したが、まだ完全にこちらが優勢という訳ではない。

 この辺りには敵がいて包囲される可能性もあるし、後ろにいる敵が突破される危険性もある。


 であれば、今は脱出を優先した方がいいだろう。


「まずはヴォルク殿の騎士達の回収か」


 命を懸けて止めてくれている者達を見捨てることはでない。


「仲間の救出に向かう! 全員続け!」

「おお!」


 俺達は敵陣を斬り裂き頭を潰した。

 側近達もほとんどを倒して数人だけは捕虜にした。


 頭のいない敵など恐れるに足りない。

 敵をそのままにして洞窟に戻る。


 洞窟の入口はかなり狭いため、数人対数人の戦闘にしかなっていない。

 だが、けが人も多く無傷な者はヴォルク殿くらいしかいなかった。


「ヴォルク殿! 撤退する!」

「な! なぜ戻ってきた! そのまま敵陣を切り裂いて戻ることもできただろう!?」

「あなた方を見殺しにはしない! 戻るぞ! 急げ!」

「くっ……後悔しても知らんからな!」

「シエラ! その穴を魔法で塞いでくれ!」

「分かったわ~」


 それから俺は彼らを回収して、クルーラー軍と向かい合っている敵の背を目指す。

 強襲するといっても、敵の戦力は想像以上に多い。

 そして、こちらの数で戦えるのは100人を切っている。


 だから今俺達ができることは脱出だ。

 ここで荒らしたとしても、いずれ敵兵に囲まれてしまう。


 ただ、もし……クルーラー伯爵の軍が動いてくれれば……。


「わああああああああ!!!」

「何事だ!?」


 両軍がにらみ合っている方から、突如として喚声かんせいが聞こえる。


「ちょっと見てくるわ。手綱よろしく」

「ああ」


 シエラがそう言って魔法で空高く跳び上がる。


 それから30秒ほどで彼女は降りてきて、俺の後ろに座った。


「なんで俺の……いや、いい。何があった?」

「クルーラー伯爵の軍が前進を開始してたわね。シュウが指揮官の隣にいたから、確かだと思うわ」

「それは……流石だな。では俺達も方針を変えるか」


 俺は後ろを振り返り、味方に伝えていくように指示をする。


「味方が俺達に呼応して前進を始めた! このまま敵陣後方を荒らしていくぞ!」

「おお!」

「ばぁっはっは! ワシの軍のはずなんだがなぁ」

「悪い。だが、勝てるならやってもいいだろう?」

「指揮権を渡すと言ったのだ。貴様の好きにするがいい。ワシは指示通り突っ込む方が元々好きだからな」


 ヴォルク殿の許可も貰ったので、敵の後方をこれでもかと狩り取っていく。

 その時に指揮官はなるべく優先的に狙う。


「シエラ。その……自分の馬に戻らないのか?」

「んー? 自分で手綱を持ちながら魔法を操るのって大変なのよねー。だからお願い♡」

「……そういうことなら」

「ありがとー!」


 彼女はそう言って抱きついてくる。

 ちなみに背中は鎧で守られているので何かが当たったとかはあまり分からない。

 残念ではない。

 決して、決して残念ではない。

 俺のことを信じて欲しい。


 そうして敵陣を荒らしている間に、味方の兵士達と合流した。

 その中にはシュウがいた。


「シュウ! もう来れたのか!」

「ユマ様ならやってくださると思っていましたから! 敵兵は壊滅させてあります!」

「よし! ではこのまま残敵掃討だ! だが、まだ奥に2000以上はいるはずだ! 警戒しろ!」

「そのことならすでに情報を得ています! 敵の戦力はこちらに4000! 奥に伏兵として4000が伏せてあります!」

「ならそのうち1000は潰した! それと敵将も狩っておいた!」

「流石です! ではこのまま前進して勝利を決定づけましょう! ユマ様! お願いいたします!」


 そう言われて、俺は少し考えてから、ヴォルク殿に向き直る。


「ヴォルク殿。指揮権をあなたにお返しする」

「何? この戦を決定つけたという名が欲しくないのか?」

「俺がそこまで出しゃばれば兵士達からの反感を買うだろう。いくらヴォルク殿がいいと言ったとしても、自分の所の将軍の力になりたいだろうからな」

「……感謝する。この恩はいずれ」

「利子付きで返してくれ」

「ばあっはっはっは! そうだな! そうするためにも、ワシ等の力も見せんといかんなぁ!」


 それから、俺達はケガをした兵士達を後ろに送り、俺やシエラ、シュウ達少数を連れてヴォルク殿と共に敵兵を掃討する。

 といっても、俺達の出番はほとんどなかった。


 ヴォルク殿は地の利があるからか、敵兵を容易に狩っていき、あっという間に敵を壊滅させていた。

 その手並みは流石としか言いようがない。


「これなら後ろをつかなくても勝てたんじゃないのか?」

「そうした方が兵士の消耗は少ないのでな」

「……まぁ、そうだな」


 倒した兵士は2000を超え、捕虜にした兵士は2000を超える。

 残りの敵は命からがらに逃げて行った。



 戦場での残敵掃討が終わり、俺達は町に戻る。


 そこでは結構な人達が出迎えてくれた。


「ヴォルク将軍!」

「我らが守護神!」

「待っていました!」

「最強の軍神だー!」

「ヴォルク将軍のおかげで今日も無事に生きられます!」

「あなたのおかげで平和です!」


 多くの声がヴォルク殿を褒めたたえる。


 俺はその声を、ヴォルク殿の隣で聞いていた。


 なんで隣……とも思うけれど、彼たっての希望でこうなったのだ。


 彼は民達に慣れた様子で手を振り返している。


「ユマ殿」

「どうした?」

「この歓声はワシへのものではない。貴殿へのものだぞ」

「そんなことはない」

「いや、ワシだけでは死んでいたであろう。貴殿がいたからこそ、彼らの声は届くのだ」

「……」

「そして、今後何かあった時はワシ等に連絡をくれ。そうすれば貴殿らの力となることをここに誓う」

「ヴォルク殿……」


 俺がそう言って彼を見ると、すぐにニカリと笑って俺の肩を組む。


「さ、分かったら手を振り返してやってやれ」

「ああ」


 ということで、俺が手を振り返すと、それだけでも歓声が大きくなった気がした。


 それから俺達は訓練が終わったことも含めて、終戦のことも終わらせて領地の帰路についた。

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