第56話 秘密の抜け穴

 俺とヴォルク殿の戦力合わせて200人で国境へと向かう。


「なぁ……本当にいきなり参戦するのか?」


 俺は隣で馬に乗るヴォルク殿に話しかける。


「当然だ。これ以上あの形式の訓練をしてはワシが死んでしまいかねん。寝ていた時も昔死んだじいさんが川の向こうで手を振っておった」

「渡らなくてよかったな」

「いや、渡って軽く話して帰ってきた」

「帰ってこれるんだ……」

「じいさんとは思えないほどかなり強く手を引かれたのでな。じいさんごと連れて帰ってきたわ!」


 俺は思わず周囲を見てしまう。

 でも、どこにもそんな影はない。


「ばあっはっは! 心配するな!」

「そういう訳ではないんだが……」


 そんなことを話しながら、俺達は国境へと進む。


 国境は大きな渓谷を境に別れていて、それぞれ山に陣を張ってのにらみ合いとなる。

 しかもそれなりに木々が多く、普通の弓兵では力にならない。

 だが、渓谷の中央には当然川が流れている。

 なので、よりにらみ合いになりやすい上に守りやすい。

 

 それに、こちらはかなり兵力が強化されている。

 なので、そうそう相手は勝てないはずだ。


 ということを一応聞いてはいるが、状況は変わっているかもしれない。


「今の戦況はどうなんだ?」

「うん? そちらの弓兵はやはり流石だな。かなり押していると聞いている。だが、やはり場所が場所なだけに決定打にはなっていない」

「兵力差は?」

「こちらは5000にそちらの弓兵が2000の7000。相手は4000以上ということしかわかっていないな」

「森の中に布陣ってそもそもどうなんだ?」

「まぁ、普通はしないな。陣形はほぼ組めんし、遭遇戦のようになるから戦況が把握しにくく、進撃や後退の判断も難しい。そのせいで敵を逃がしやすく損害が増えやすい。一撃離脱を前提にしていれば問題ないが……それでは決定的なダメージを与えるのは難しいだろう」

「だよな」


 ゲーム上でも森林を戦場にした戦いはかなりギャンブル性が強かった。

 平地であれば被害がどれだけ出るかがある程度わかるけれど、森林だとその振れ幅がかなり大きくなるのだ。

 できれば平地で戦うようにしたい。


「だが、それでも攻めて来た」

「ああ、何かがあるのかもしれん。だから、こちらから早々に潰す」

「? どういうことだ?」


 まるでいきなり勝てる秘策があるような言い方だ。


「ただ我々が兵力強化をしただけだと思ったのか? ちゃんと周辺の地理を研究しつくすためにやっている。そして、その過程で相手側の方へ出る秘密の道も見つけてあるのだ」

「本当か!?」

「ああ、そのための我々だ」

「もしかしてこの200の数は……」

「そう。敵陣を強襲するための秘密部隊だ」


 実戦とはそういうことか……。

 ただ、


「こんなことができるなら、俺達の協力は必要なかったのではないか?」

「そんな毎回使えるわけではない。普通にしていたら敵も本陣を警戒している。強襲も成功する訳ではない」

「なら」

「だが、お前達、アルクスの弓兵がいれば、敵も魔法部隊やその護衛を前に出さざるを得ない。そして空いた本陣に切り込むのだ」

「なるほど」


 そういう理由で呼ばれたのか。

 まぁ、ハルバードの使い方としてはだいぶ上達はしたと思うので、それはそれでいい。


「よし、ではこちらだ」

「わかった。すぐに後ろをつけるのか?」

「後半日あればいけるだろう」

「シュウ。今の情報を伝えておいてくれ」


 俺はシュウにそう指示を出す。

 けれど、シュウはそうしなかった。


「既に伝えてあります」

「なに?」

「ユマ様が訓練しておられる間にその話は聞いていましたので」

「なるほど、そうだったか」

「はい」

「ただ、シュウは戻って何かあった時に兵の手助けをしてくれ」

「……そうですね。僕がいても力にはなれないでしょうから」

「いつも頼りにしている。お前のできることをやってくれ」

「わかりました」


 ということで、シュウとその護衛数人と別れてヴォルクの進む獣道を行く。

 正直これは道なのか? と思われるようなところだ。


「っ!?」

「どうかしたか?」

「いや……なんとなく気配が……」


 誰かに見られているような気がしたが、気のせいか?


「後2時間もしたら敵まですぐだ。準備をしておけよ」

「わかった」


*******


***セイレン将軍視点***


「かかったか?」

「ええ、あちらの情報通りこちらの背後に繋がる道を進んでいるそうです」

「まさか本当にあるとはな。前任者は何をしていたのか……」

「それは巧妙に隠されていたとしかわかりません。何か魔法か……それとも魔獣の影響か」

「では仕方ないな。報告は?」

「配置にはついているので、すぐにでも」

「よし、すぐにやれ」

「は!」


 副官はそう言ってすぐに指示を出す。


 副官が指示を出し終わったのを確認して戻ってくる彼に、俺は話しかける。


「……これまで何度もノウェン国の奴らには辛酸しんさんを舐めさせられてきたからな。今日こそは必ず目にもの見せてくれる」

「ええ。ヴォルクもいい歳です。そろそろ墓標の準備も必要なことでしょう」

「そうだ。そのために俺達は8000もの軍勢を連れてきたのだからな」


 俺は副官とそのような話をして、森の中に隠している兵士達を見る。


 前線には4000しか置いていない。

 敵の弓兵が出てきて、被害が出ているのであれば、それはそれで好都合だ。

 敵が勝っていると思って侵攻してきた時が好機だから。


 この数の軍勢はノウェン国の情報がなかったとしても、自力で落とすために連れてきた兵士達だ。


 だが、奴らからの情報があり、戦力差も勝っている。

 敵国の指揮官断岩鬼神を討ち取り、そのままの勢いで領土を奪い取る。


 そう俺が考えていると、副官が口を開く。


「惜しむらくはこれが将軍の考えた策であればよかったのですが」

「必要ないさ。俺は戦斧を振っている方が性に合う。それに、あのヴォルクを殺せるのだ。それくらいは我慢する」

「そうですね」


 そのタイミングで、俺達の後方で戦の声が上がった。

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