第55話 ハルバード訓練
「ヴォルク様。これはとんだ失礼を」
「ばっはっは! 気にするでない! そもそもワシに勝った貴様がそのような態度をとるな! ワシに勝ったのだから堂々をしていろ!」
「しかし……」
「いいから普通にせい! 敬語もいらん!」
「……分かった。では普通に話すがこれでいいのか?」
俺がちょっとおっかなびっくりそう言うと、彼はニカリと笑う。
「そうだ。それでいい」
「とりあえず聞きたいのが、どうしてこんなことを?」
道の真ん中でいきなり戦いを申し込まれた方の身にもなって欲しい。
「ワシが教えてやるのだ。ワシのやり方に従ってもらう。ま、負けてしまったんだがのう!」
負けたのに楽しそうに笑う人だ。
裏表のない、真っ直ぐな人だと感じた。
「しかし、俺がハルバードを持っていたら負けていただろう」
「そんな言葉は戦場では通じんよ。さて、時間もない、すぐに案内するとしよう」
「あ、ああ」
彼はそう言って背を向け、ついてこいとばかりに馬を進めた。
俺達は彼の後を続くと、町から少し離れた場所に案内される。
大きな建物と、広い練兵場がある場所だった。
「お主らはこの建物を使ってもらう。何人かは近くの館に行ってもいいがどうする?」
「俺はここでいい」
「では使い方は後で兵士達……いや、そこの軍師っぽそうな奴にしておこう」
彼はそう言ってシュウを指名する。
「僕ですか? 構いません」
「うむ。では荷物を置き次第、訓練と行こうか。ワシの精鋭100人も連れてきているでな。みっちりと訓練をしようではないか」
「頼む」
ということで、荷物等を置いてすぐに練兵場に集まると、ヴォルクの兵士……いや、騎士100人が勢ぞろいしていた。
その先頭にいたヴォルクは俺に声をかける。
「ユマ。お主はワシと特別訓練。他の兵士はワシの騎士達と訓練。問題はあるか?」
「ない」
「話が早くて助かる。ではハルバードと馬を持ってついてこい」
「ああ」
俺はヴォルクにハルバードの使い方を習うことになった。
と言っても彼の指導はスパルタというか、実戦的な指導でしかなかった。
ずっと1対1の模擬戦を続けていたのだ。
鎧などもずっと着たまま、体力の続く限り永遠に一騎打ちをし続けた。
夜になったらお付きの兵士にかがり火を
途中、俺達よりも馬が疲れて立てなくなり、交換をしたくらいだ。
ただ、その代わりと言ってはなんだけれど、彼との訓練は飛躍的に俺の実力を上げてくれた。
最初の1日は負けに負け続けた。
剣では勝てたけれど、使い慣れないハルバードではやはり相手に分がある。
ハルバードはとても奥が深い武器で、ただ3つの特徴をを使えばいいというだけではない。
斬る、突く、引っ掛けるということをちゃんと把握し、物にしなければならないのだ。
それらの動きをフェイントに使い、本命の相手の武器を奪い去る。
奪い取ると見せかけて突く。
突くと見せかけて隙を誘い、相手が攻め時と思ったらそれを逆手に取るなどなど。
武器自体にも重量があり、攻撃力などは上がる代わりに剣よりも使い勝手が下がる感じだろうか。
だけれど、使えば使うほど、手になじんでいくのが分かる。
丸2日はぶっ通しでハルバードで斬り合い、最後の方では互角くらいには持ち込めるようになっていた。
まだまだこれから。
精神が高ぶり、もっと戦わせろ思っている所に、シュウが割って入った。
「ユマ様! そろそろ休まれてください! ヴォルク様もお疲れでしょう!?」
「そんなことはない。ヴォルク殿はまだまだやれるだろう!」
俺は自分の目が
「む、むぅ……流石に……歳には勝てん。そろそろ寝かせてくれ」
「………………そうか」
「一度部屋に戻る……」
しかし、ヴォルクはハルバードを杖のように使い、かなりフラフラしていた。
そしてそのままお付きの兵士に肩を支えられながら、部屋に戻って行く。
それを見送った後、近くにいたシエラが口を開いた。
「ユマ様。あたしもあんな感じの言葉言いたいんだけど?」
「シエラ? なんの話だ?」
「そろそろ寝かせてくれって……」
シエラはそう言いながらもじもじとしている。
俺はその姿を見て何かが抜けていくのを感じ、ついでに眠気が襲ってくる。
「シエラ、そろそろ俺も寝かせてくれ」
「あたしが言いたいって言ったんだけど!? なんでユマ様が言うの!?」
「悪い……シュウ。後のことは任せた」
「はい。ゆっくりとお休みください」
俺はシュウにそう言い残し、自室へと向かう。
「ちょっと、ユマ様? 流石にひどくない?」
「シエラ……悪い。戦う気が抜けたら疲れがどっと出てな」
「そ、なら手伝うわよ」
「一人で寝れるぞ?」
「その様子だと鎧を取るのもきつそうでしょ? 手伝ってあげる」
そう言われて今も鎧をしていることを思いだした。
更に、彼女の言う通り1人で脱ぐ元気もない。
俺は彼女と部屋に戻り、手伝ってもらって鎧を脱いでベッドに倒れる。
「もう……寝る……」
「ふふ、今襲っても抵抗されない?」
「おやすみ……」
俺はそう言って眠ろうとすると、とても柔らかい何かに包まれた。
そして、そのまま俺は眠りについた。
「もう……頑張り過ぎよ……。そんなに頑張られてたら……あたしも手を出すに出せないじゃない」
翌日、俺が目を覚ますと、目の前の視界が半分暗かった。
「これは……?」
「あ、起きた?」
「シエラ?」
視界の向こうから声がして、その半分隠れていたものが何か分かる。
「そうよ。ユマ様ずっと寝ていたんだもん。足しびれちゃった」
「あ、ああ。悪い。今起きる」
「いいわよ。これはこれで見ごたえあったしね?」
シエラのそんな言い方にちょっと心を動かされる。
それに、俺が寝ている間、なぜかわざわざ膝枕をしてくれていたらしい。
ベッドがあるのにどうして……と思うけれど、敵の国境が近いから護衛のためにいてくれたのだろう。
「悪い。起きる」
俺はそう言って起き上がった時に、とても柔らかい物に目の前を塞がれる。
「シエラ!?」
「ふふ、そんなに焦らなくてもいいのよ? エルランド様はきっと寝ているだろうし、ね? 少しくらいあたしにもご褒美を……」
シエラがそう言って俺の身体に手を伸ばそうとする。
その時、扉がバン! と音を立てて開いた。
俺とシエラは反射的に跳び上がった。
「さぁユマ殿! 次の訓練! 実践での訓練をに行くぞ!」
部屋に入ってきたのはヴォルク殿。
タイミングがいいのか悪いのか。
少しだけ分からなかった。
「おっと、後1時間後にした方が良かったか?」
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