第53話 クルーラー伯爵家
俺がなぜかクルーラー伯爵の元に行くのか。
そのことについて話すと、今の情勢から話をしなければならないそうだ。
父上とシュウは相談の上、クルーラー伯爵の元に使者を送った。
すると、相手は喜びそれに同意してくれたが、同時に違った要求もしてきた。
簡単に言うと、国境でちょっかいを出している敵国の掃討に付き合って欲しいので戦力を出してくれということ。
それと、こちらの代表者と俺を会わせろ、ということのようだった。
2人はそれでいいと考えていたものの、キチンと俺に同意を得るために一度保留にしたらしい。
俺は父上の元に向かった。
俺が父上の部屋に行くと、結構な数の人がいた。
父上にゴードン、騎士団長、副騎士団長、アーシャ、シエラにアルクスの弓兵団の指揮官だ。
「父上、それは必要なことですか?」
確かにチャンスではあると思ったが、経済支援に戦力を送るのはやりすぎな気がする。
そのためにグレイル領の民の血が流れるのは考えなければならないだろう。
父上は最近また少し痩せたみたいで、ゆっくりと頷く。
「ああ、必要だ。お前も分かっているだろう。これからこの国がどうなるかわからない。少しでも味方を作っておかなければならないと」
「ですが、クルーラー伯爵家は軍事力に力を注いだのですよ? なのにこちらに援軍を求めるというのは存在意義がないのでは?」
「そう思うのも無理はないがな。もしそれでクルーラー伯爵家が落ちたらどうする?」
「そこまで力を失っているのですか?」
俺は驚いて父上を凝視する。
ゲーム序盤での勢力図を思いだすけれど、確かに中立派は結構ボロボロだった。
だからって落ちることはないと思うけれど……。
いや、違う。
通常のゲームモードよりも敵が強いと考えていくべきだ。
俺が行動を開始しないと、ヘタをしたら本当にクルーラー伯爵家が落ちてしまう可能性もあるのかもしれない。
そのことを裏付けるように、父上が口を開く。
「相手国の将軍クラスが出張ってきているらしい。秘密裏にだがな」
「なんと……」
「領内も経済的な問題で悪い雰囲気が漂っていて、多くの兵士を国境に出すことは出来ないとのことだ。そのせいもあって兵士を出してくれと言ってきている。もちろん、それで敵を討ち滅ぼしたあかつきには穏健派に合流してもいいし、中立派だが私達の意見に賛成することも構わないと言ってきている」
「口約束でしかないではないですか……」
「だが、我が領内は安定している。アルクスの弓兵団の力を使っても問題はあるまい。売り方としてはいいと思わないか?」
「……そうですね。その通りです」
分かっていた。
この話を受けた方がいいことは。
でも、血が流れるということに、民達の血が流れることに、つい思ってしまう。
これはこの身体の持ち主の想いに他ならない。
だが、決めたのなら、すぐに行動をしよう。
「では、すぐにでも出立を?」
「ああ、送る部隊は決まっている。アルクスの弓兵団にユマ直下の兵団を出す」
「自分の?」
「ああ、クルーラー伯爵家にはあの将軍がいる。ハルバードの使い手でこの国一と言われてあの男が。ついでに習ってくるといい」
「ありがとうございます」
つまり、アルクスの弓兵団を支援に使い、俺の部隊はあくまで練兵ということなのだろう。
力を貸すと言いつつしっかりとしているあたり、流石父上だ。
ただ、ハルバード使いなんていたっけな? まぁいい。
ということで話がまとまりかけているところで、アーシャが口を開く。
「それなら、わたしはユマ様と」
「いえ、アーシャには弓兵団と一緒に行動していただきます」
「……なんで」
アーシャがシュウを睨みつける。
「ナーヴァ様より兵を指揮する訓練をしろ。ついて行って自分の経験にしろとお達しです」
「……分かった」
アーシャは不満そうだったけれど、渋々頷く。
「じゃあ代わりにあたしがユマ様にお供しようかしら。いざって時に役に立つからね」
「お願いします」
シュウの言葉に、アーシャは絶望したような目をしている。
シエラは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「アーシャ? 前回あたしは行けなかったんだからおあいこでしょ?」
「……」
アーシャはシエラの言葉にムスッとしていた。
それから1日で準備を終わらせ、すぐに出立する。
数は俺の兵団が100人、アルクスの弓兵団が2000人だ。
数としてはそこまでではないが、精鋭ばかりなので問題ないはず。
補給に関してはある程度は自分達で持って行く。
数が少ないので常備している食料で問題無かった。
今後、食料も順次領地から送られてくることになっている。
味方の領地しかないので、補給に関しては問題ないだろう。
「それでは行くぞ! 出立!」
俺達は隣の領地、クルーラー伯爵家に向かう。
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