第51話 様々な状況の練兵

 ジェクトラン領から帰って来て1週間。

 あちらは特に問題も起きておらず、シュウからの報告でもネイトは真面目にやっているそうだ。


「後はもう任せてもいいな?」

「そのように思います。ユマ様が心配されるようなことはそうそうないかと」

「よし、ではもうこの話はシュウに任せる。俺は俺で訓練をするとしよう」

「練兵ですか? もう十分に強いと思うのですが……」


 シュウの言葉に、俺は首を横に振って答える。


「今のままでは足りないんだ」

「足りない?」

「ああ、様々な戦場での戦闘経験がな」

「はぁ」

「もっと多くの戦場を想定した訓練をしたいんだ」


 これはどういうことかと言うと、『ルーナファンタジア』はこの大陸を舞台にした戦略ゲーム。

 そして、その土地特有の気候や条件があるのだ。

 砂漠、浜辺、海上、渓谷、夜、濃霧等々、戦場の条件は様々だ。

 グレイル領では森や山、平野など基本的な場所での練兵はできる。

 それもこれも主人公に滅ぼされた後の基本的な領地になるため、必要な物は揃っているからだ。


 だが、これから先はどうなるかわからない。

 俺が住むこのノウェン国は内陸国なので浜辺や海上での争いはないかもしれない。

 だが、これから先にどうなるかまではわからない。

 なので、出来ることをしておきたいのだ。


「なるほど、そういうことですか、しかし、兵達を連れて移動するのは難しいように思います。それに、そういった場所はクルーラー伯爵家の領土近くになりますよね? そういった所に兵を送るのはいたずらに相手を刺激することになるかと」

「隣の領地も隣国がちょっかいをかけていて怪しいと聞くからな。ピリピリしているだろう」

「そうですね。先日も戦闘に発展したと報告がありましたし、何か仕掛けますか?」

「中立派だからこちらに引き込むように……か? 戦力はそれなりに強かったのでは無かったか?」


 今話しているのはグレイル領から南にあるクルーラー伯爵という人の領地の話だ。

 そこは中立派で、国境沿いに領土を持つ。

 そうなると他の急進派の様に隣国と領土問題を起こしそうだけれど、二つ名持ちの将軍を擁していてかなり強力な軍隊を持っているので、相手国はあまり戦闘を起こしてこない。

 だからこそ、急進派ではなく中立派に属している訳だが……。


「もしかして、戦力が衰えているのか?」

「そのようです。先代から軍事力に力を注いできたつけとでも言いましょうか。経済は悪化しているようです」

「それは……ピンチでありチャンスか」

「はい」


 このまま行けばクルーラー伯爵は急進派になびくかもしれない。

 しかし、グレイル領は結構豊かだ、それによる支援をする。


 そのことをちらつかせて話を通せば、彼らを穏健派に寝返らせる、もしくは中立派にいながらこちらの味方に引き込めるかもしれない。


「父上に報告に行ってくれるか?」

「はい。お任せください」

「必要があれば俺が行ってもいい。そちらの方は任せたぞ」

「お任せください」


 シュウはそう言って頭を下げて、父上の元に向かう。


「と、俺は俺でやっておかないとな」


 俺は練兵場に行き、以前武芸大会で仲間になった男と話をする。

 彼はトーマスと言い魔法で霧を発生させ、視界を奪ってから相手の命を狩り取るという者。


「その霧を発生させる魔法で濃霧下の状況を作って訓練をしてくれないか?」

「ユマ様が仰るのであれば行いますが、そこまで大規模な魔法はできません。それでもよろしいですか?」

「具体的には何人くらい囲える?」

「100メートル四方くらいでしょうか」

「それくらいなら十分だな。早速やってもいいか?」

「ええ、濃霧下に慣れておくと夜の戦闘も少しは良くなりますからね。流石ユマ様です」

「ああ」


 あれ? それなら夜にやった方がいいんじゃね?  と思ったけれど、夜にばっかり訓練をするのもそれはそれで大変ということを思って考えをあらためた。


「よし! それでは濃霧下での戦闘訓練をやるぞ! その前にそうなった時の行動をしっかりと確認しておけ!」


 ということで、それぞれの指揮官にキチンと話をさせて、それから俺は片方の部隊を指揮して戦闘訓練を始める。

 ちなみに敵の指揮官はヴァルガスだ。


「ユマ様、手加減してやって下さいよ。ユマ様が出て来られたらすぐに戦いは終わってしまいますからな」

「俺の訓練もしたいんだがなぁ」

「部下を育てることも必要なのはご存じでしょう?」

「分かっている」


 ということで、早速濃霧を作ってもらい、いざ訓練を開始する。

 しかし、これが想像以上に難しかった。

 綿密な連携を取れないのは当然として、不意の味方同士での同士討ちなどが多発。


 敵と出会う頃に味方が7割まで減っていることすらあった。


「ユマ様! 敵が全く見えません! というか、隣にいる味方も怪しいくらいです!」

「それが訓練だ!」


 と、ここで気合でやれと言ってもいいのだが、こういう時は……。


「決めた暗号があっただろう! それを使え! まずは斬り結べ!」

「分かりました!」


 兵士達は不意をつくよりも先に相手と斬り結び、敵か味方かを確認させることにした。

 斬り結んだ相手に「山」と言い、相手が「川」と返せばそれは味方だ。

 何も言えないなら敵ということで攻撃する。

 不意打ちができないのは辛いけれど、それで味方を倒す可能性を下げられるならいい。

 それに、俺の兵士達は強い。

 多少のハンデがあっても、問題ないくらいだろう。


「ヴァルガス副騎士団長を押しているぞ! このまま行け行け!」


 相手は混乱し、こちらはただゆっくりと進む。

 そのお陰で騎士が相手ではあるけれど、兵士だけでも十分に相手を圧倒することができた。

 ただ、濃霧下での戦いは想像以上の難しさを体感出来たのは良かった。


「これは……中々ないだろうが、やっておいた方がいいな」

「ですね。ユマ様が出ずともにボコられるとは……騎士達の訓練ももっとしておかなければなりません」

「ああ、練度は十分あるが、もっとやれそうな気もするな。ついでに俺ももっと成長できることがあればいいのだが……」


 ここ最近は兵士の訓練に力を注いでいることもあって、中々自分の実力が上がることができていない。

 まぁ、戦略ゲーだから自分が強くなるよりも領土を強くするとか、兵士を鍛えることの方が優先されるのは分かるのだけれど……。

 いざという時のために自分も強くなっておきたい。

 俺がそんなことを思っていると、ヴァルガスが恐る恐る聞いてくる。


「あの……それであれば、一つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「武器は剣しか使われないのですか?」

「!?」


 そう言われて、俺の全身に電流が走る。

 最強になると思っていた。

 そして、剣ではかなりの実力を持っているという自負はある。

 だけど、それ以外の武器ということに、自分でそういうことをするという発想になっていなかったのだ。

 ルークのハンマー、一般的な槍、戦斧、なぎなた等、様々な武器がある。


「ユマ様であれば、というか、基本は馬上で戦うことになると思います。その際、剣ではリーチに問題があるのではと思っていました」

「……その通りだ。どんな武器がいいと思う?」


 俺は、ヴァルガスにそう聞く。

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