第50話 国を支える者として

***ベイリーズ視点***


 私はベイリーズ・グレイル、ユマの父である。

 今は議会に出席をしていて、やっと長かった会議が終わりかけていた。


「さて、本日の議題はこれくらいでしょう。それでは、また」


 ということで会議は終了し、私は帰ろうとする。


「少々よろしいでしょうか」

「……なんだ?」


 相手は国王の執事だった。

 彼が話しかけてきたということは、国王が私に用があるということに他ならない。


 だが、こんな大っぴらに……とも思ってしまう。

 会議室には他の貴族も残っているし、聞き耳を立てているのも分かる。

 国王を軽く睨むが、彼はこちらを見もしない。


「来ていただけますか」

「分かった」


 しかし、こんな大っぴらにやらなければならないほど、何かが起きているということか。

 ならば、行かないという選択肢はない。


 私は立ち上がり、彼が案内する部屋に入った。

 王宮の応接室で、国王といつも話をする場所だ。


 私が待つこと10分、国王が部屋に入ってきた。


「待たせたな」

「陛下……一体何があったというのですか?」


 私と陛下の間に無用なやり取りなど不用。

 さっさと本題に入る。


「ああ、それがな……ベイリーズ、お前、息子を王にする気はないか?」

「はぁ?」


 いくら国王とはいえ、話を飛ばし過ぎていた。



「なるほど……」


 それから話を聞くと、ある程度納得できる物だった。


 今現在、国王には3人の子供がいる。

 第1王子、第1王女、第2王女だ。

 このうち、王子は中立派から嫁を迎え、次期国王として様々な政務に関わっている。

 そして、第1王女は政治的な理由で急進派との仲を取り持とうとして、ヘルシュ公爵の息子に嫁いでいた。

 第2王女に関してはほとんど情報もなく、誰とも婚約をしていない。


 ここまではいい。

 現状説明だったから。

 だが……。


「陛下と王子が狙われている……というのは本当ですか?」

「事実だ。現に、先日王宮の毒見役が2人死んだ」

「王宮にも!?」

「ああ、誰がどうやったのか調べさせているが、簡単にわからないから苦労している」

「分からない等と……」

「いいのだ。国の王として生まれ、国のために死んでいくことに後悔はない。だが、もし……このまま余や王子が殺されれば、次の主権は急進派に行ってしまう」

「第1王女を即位させよ……ということですか」

「ああ、そうなった時のために、第2王女をユマと婚姻させてくれ。余らにもしものことがあった時、この国を任せるのはそなたらをおいて他にないと思う。遺言も残しておく」


 そういう国王の目は本気だった。

 彼にとって、自身や家族というのは、国を存続させるための装置でしかない。


 この国が他国よりも豊かであるのは、彼の功績が大きい。

 彼はこの国を富ませ、優秀な騎士団や兵士達を作り出す土台になった。

 その結果、その有り余った力が自身にむいている。

 彼は国を富ませることができたが、身内の敵対する者に強く当たるということは出来ない人だった。


 それは人として見れば素晴らしいかもしれないが、王としては、不足する所がある。

 誰かそれを支えることが出来ればよかったのだけれど、彼の周囲にそれをすることが出来る者はいなかった。


「しかしなぜユマなのだ。中立派にはいないのか」

「おらん。あ奴らは所詮風見鶏か無能。優勢な方につくことしか出来ぬ。自分の生活を守るので精一杯だ」

「他に信頼できる者はいないのか……」

「お前を最も信頼している。その身体がまともであれば、宰相に据えている」

「……それは……どうしようもない」


 自身の命が長くないことは知っている。

 後何年だろうか、少なくとも十年は確実に生きられない。


 だから国王を側で補佐することをせず、自領に籠って豊かにさせ続けてきたのだけれど……。


「ああ、だから、早めに決めてしまいたい。何か起きてからでは遅いのだ」

「そこまでか……?」

「ああ、だから婚約だけでもしておいてくれ。頼む」


 そう言って国王は頭を下げる。


 しかし、それに頷くことなどできない。


「悪いが断らせてもらう」

「ベイリーズ!」

「……許してくれ。その道は……血塗られた道しか残されなくなる」

「……」


 ユマが王女と婚約し、王女が即位を目指す。

 そうなったら、確実にヘルシュ公爵とぶつかる。

 いや、ほかの急進派や、中立派も巻き込んでの戦争になるだろう。


 だが、その道を私が決める訳にはいかない。

 ユマ自身が選び取った道であるならいいが、最後まで見てやれるかわからない私が決めてしまうべきではないのだ。

 大事な息子に、血まみれの道を進ませることなど、親としてできる訳がない。


 これは……父としてのわがまま。


 ユマにはシュウ、アーシャやシエラと逃げるという選択肢をとってもいいかもしれないと思う。


 むしろ、そうしてくれた方が、彼にとっては幸せなのではないか……とも。


 私の言葉に、国王はゆっくりとソファの背もたれに背を預ける。

 それからぽつりとつぶやく。


「親に……なったのだな」

「ああ、俺は……グレイル領主である前に、ユマの父なのだ」

「……悪かった。聞かなかったことにしてくれ」

「いや、私こそすまない」


 私がそういうと、彼は雰囲気を変えるように口調を変える。


「まぁ、下の王女は才はある。それに自由奔放でな……。誰も御しきれん。婚約を決めたと言っても素直に聞く子ではないからな」

「それなら一度会わせるくらいはしてもいいかもしれないな」

「今はできんが……そのうちな」

「そうだな……そのうち……と思っている間に、色々と問題が起きる」

「それはすまん」

「陛下のせいではないです」


 国王は仕事をキチンとこなしている。

 国を富ませるという目的を持ち、それを着実にこなしているのだ。


「そう言ってもらえると少しは心が軽くなる」

「ええ、では一度帰ります。何かあればグレイル領に来てください」

「それはできん。王がいるからこそ王都なのだ。譲れんさ」

「ですか」


 王が逃げたなどという話になったら……ということもあるのだろう。

 そうなった時、逃げた王にこの国を任せられるのか。

 もっと強い者が必要になるのではないか。


 そんな風に国が向かわねばいいが……。


「何事もなければよいのですが」

「水面下では動いているだろう。今は……まだな」

「……ええ」


 その激動の時代を自分は見れるのだろうか。

 ユマに全てを託してしまうのか。


 自分では分らなかった。

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