第48話 アーシャ視点 今一番楽しい時間

***アーシャ視点***


「どうしてわたしだけ……」


 ユマ様はシュウやその他大勢を連れて鉱山に潜ってしまった。


 シュウに頼まれたとはいえ、自分だけ外の見張りとはどういうことなのだろうか。


「まぁ……ユマ様の為ならやるけど」


 わたしはそう思いつつも、鉱山の入り口が大体見渡せる木の上に陣取り、気配を消して見張りを続ける。

 周囲は森で、身を隠して何かをするには十分な場所だ。

 一層気を引き締めねばならないだろう。


 周囲に労働者の気配はない。

 ユマ様が見学をするということで、シュウが事前に人が入れないようにしていたらしい。


 なので、今鉱山に近づく者は誰であろうと許されない。

 もしもいた場合は射貫いていいとシュウに言われていた。


 しかし、そんなことをしようとする者を探っているけれど、全然いない。


 一度犬が通りがかった位で、そこに打つのは流石に問題だ。


「暇だな……」


 それ以外に気配はほとんどない。

 なので、先日もらった大切な物を首元から取り出す。


「ふふ……」


 それはユマ様がわたしに買ってくれたロケットで、とても綺麗な模様が入っている。

 中に何を入れるのかまだ決めていないけれど、何を入れようか考えている時が今一番楽しい。


「何がいいかな……」


 ユマ様と一緒に絵とか描いてもらえないかな……でもこんな小さいのには入らないか……。

 なら、ユマ様の髪の毛とかちょっともらって入れておこうか、でもそれは嫌がられたりしないかな。

 一緒に戦った矢じりとかどうだろうか、でも見てすぐに分かりやすい物がいい。


 何を入れようかずっと迷っていて、未だに決まらない。

 でも、この迷っている時間が最近はお気に入りだった。


「ん」


 楽しい時間を過ごしていると、周囲に人の気配がする。

 彼らは4人くらいいるけれど、鉱山に近づく気配はないらしい。


 わたしはバレないように隠蔽魔法で気配を消し、声がギリギリ聞こえるくらいの距離まで近づく。


「どうだ?」

「連絡があった。もうやってもいいはずだ」

「分かった」

「?」


 何をしようとしているのか、そう思って奴等の方を覗こうとした瞬間、奴らの1人が手に持っていた紙に魔力を流した。


 ズズゥン!


「!?」


 鉱山の方で大きな音がした。


 これは……もしかして……。


「へへ、これで奴等は生き埋めだ。さっさとずらかるぞ」


 わたしは気配を消したまま、弓を手に取って矢を番える。

 そのまま奴等の足元に向けて、4本の矢を連続して放つ。


「がっ!」

「いでぇ!」

「なんだ!?」

「矢!?」


 わたしはそのまま奴等に近づき、無言でアゴを蹴り抜いて意識を狩り取っていく。


「なんだおまうご!?」

「やんのあへぁ!」

「ころすむぅん……」


 3人の意識を狩り取り、残り1人の腹には蹴りを入れて地面に倒す。


「な、なんだてぐあぁ!」


 片足は矢で地面に縫われている。

 でも、残りは自由になっているので、残りもキチンと動けないように地面に縫い付けた。


「い、いてえ……な、なんだてめぇ! 俺達を誰だと思っている!」

「誰? 言ってみて?」


 そこでわたしはやっと口を開く。

 今すぐにユマ様を助けに行きたいが、きっとユマ様なら大丈夫だと信じている。

 わたしがやることは行きたいその気持ちを我慢して何かをした奴等の尋問が優先だ。


「お、俺達は国王様に仕える隠密部隊だぞ!」

「その国王様の隠密部隊がなんでこんなところで?」

「ユマ・グレイルが謀反を起こしたとして内偵していたのだ!」

「ならなんで生き埋めにしたの?」

「そ、それは……」

「それは?」


 わたしは嘘を許さないと思って目の前の奴を見つめているが、こいつはそれに怯む様子はない。

 手足を撃ち抜かれているのに、かなり冷静な様子を見ると覚悟が決まっているようだ。


 これまでの話も嘘かもしれない。


「国王様の逆鱗に触れたのだ!」

「なんの?」

「第二王女がユマを気にしていると言うのだ! 始末しておかねばならん!」

「だからってなぜ殺す?」

「………………」


 今回の話は適当かどうかわからない。

 本当と嘘が入り混じっている? それともそう感じるだけで、実際は本当に全部適当だったりするのだろうか?


 今のが本当だったら……。

 うーん、わたしにはちょっと難しい。

 後でシュウにでも任せよう。


「ごすぅ!?」


 わたしは面倒になったので、寝ている奴のアゴを蹴り抜いて意識を飛ばした。


「さて、残りの3人も縫っておくか」


 わたしは逃げられないように、残り全員も矢で手足と地面を縫っておく。


「一度館に戻るべきか」


 そう考えていると、鉱山の方で地面が動く気配がした。


「?」


 わたしは気配を消し、木の上に登って様子を伺う。

 すると、そこから中に入っていた連中が全員出てきた。


 その中には当然、ユマ様がいた。

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