第46話 シュウ視点 独壇場
***シュウ視点***
「すごい……」
僕はユマ様の行い全てに感激していた。
ユマ様は今回の騒動の元凶を潰しに行くと言っていた。
だから、今回は僕も知らない情報網を構築していて、そしてそれを潰しに……端的に言うと殺しに行くのだと思っていた。
確かにそれができれば終わる。
首領をこんな場で見せしめに殺せば、それは分かりやすい制裁として機能するだろう。
だが、そんなことをしたら必ず
しかし、ユマ様は僕の考えを越え、その敵すらも説得し味方に加える。
それが出来れば文官の問題も解決し、この土地の者達の支持も受けるだろう。
そんなことを……ユマ様は恐らくグレイル領を出る時には考えていたに違いない。
どこまで見通せるのだろう。
どうやったらそんな先のことまで知ることができるのだろうか。
この場にいる者達はみな開いた口が塞がらず、じっと舞台の上の行く末を見守っている。
唯一アーシャはユマ様なら当然だというような自信ありげな目を舞台に向けていた。
「そ、そんなことできる訳ないだろう! 俺は今回の騒乱を起こしている張本人だぞ!」
「だからといって人的被害が出ている訳ではない。そうならないようにこうしてわざわざ集めているんだろう?」
「それは……」
「よって、貴様はジェクトランには忠誠があるが、民達に被害が起きて欲しくない。と思っているのだろう?」
「…………」
「そのように民達を想い、忠誠に
さっきまでは周囲が敵だらけで、血を見るかもしれないと思っていた。
そんな自分を殴りたい。
ネイトはどう言ったらいいのか悩んでいたが、すぐに怒鳴り返す。
「そんなことを言って! どうせ俺を秘密裏に暗殺するつもりだろうが!」
「だったらこんなお前の仲間が沢山いるところでやると思うか? 貴様の家とか鉱山とかいくらでもやり様はある」
「だが……だが、そうだ。働かせているということにして、洗脳魔法で俺を操るつもりだろう!」
「仕事が終わったら帰らせてやる。遅刻はするなよ」
「しない!」
「じゃあ問題はないな?」
「俺は……俺には鉱山の仕事がある」
ネイトはなんとしても止めたいのか、かなり苦い顔で言う。
ユマ様は堂々とした様子で答える。
「鉱山は今大分枯れかけていると言っただろう? 恐らくあと数年で枯れるはず。だから全ての鉱山労働者が必要になる訳ではない。その者達の働き口も考えなければならない。鉱山がなくなったら即首、あとは自分でなんとかしろ……という訳にはいかないだろ?」
「それは……そうだが……」
「だから、順次減らしていく必要があるのと同時に、仕事の
「………………」
もう完全にユマ様の独壇場だ。
ネイトは何も言い返せず、周囲の者達も「え? ユマ様ってそこまで考えていた下さったの? ついていっていいかも?」と思っているような表情をしている。
「ネイト。お前達の力が必要だ。力を貸せ」
ユマ様はそう言って右手を差し出す。
ネイトはその手を見たり、伸ばそうをしたりを繰り返したあと、その手を握った。
「よろしくお願いします」
「ああ、これからよろしく頼む」
「わっ!」
ネイトがユマ様の手を両手で握り、頭を深く下げる。
周囲の者達も歓声を上げていた。
「流石ユマ様」
「ええ、アーシャもそう思いますか」
「思わない人間はバカ」
「ふふ、それはあるかもしれませんね。しかし……」
ユマ様が本気になってこうなるのだとしたら、自分は必要なのだろうか。
僕はユマ様のために必死に働いてきた。
でも、ユマ様にそれが必要だったのだろうか。
ユマ様なら、別に僕がいなくても上手くやるのではないか。
そんなように思ってしまうのだ。
「では、詳しい話は明日にするとしよう。明日、館に来い。質問は?」
「ふ、服装とか……」
「別にない。必要な物はこちらで用意する」
「……分かった」
「よし、では他の者達にも伝えておけ。グレイル領はお前達に嘘もついていないし、害する気もない。その証拠にネイトを雇う。ネイトだけで不安なら何人か追加でも雇う。だからお前達はお前達のするべきことをしろ」
「はい!」
周囲の者達はユマ様に返事をした。
「よし、では解散!」
ユマ様の号令で騒ぎを起こしていた者達は我先にと店の外に向かう。
町の者達に今回の
そうなると、本当に僕が来た意味は……。
1人悩んでいると、ユマ様はいつの間にか舞台を降りていて、僕の前にいた。
「シュウ。いいか?」
「ユマ様……お疲れ様です。あのようなことが出来るとは……自分を恥じ入るばかりです」
「恥じる必要などないさ。それよりも、任せるぞ?」
「? 何をでしょうか?」
ユマ様がいれば僕がするようなことなんて……。
「明日以降のネイトに仕事を教えること。それに、鉱山にも視察に行く。その下見などがあるだろう? シュウに任せたい」
「……僕で……いいのでしょうか?」
「お前だから任せるんだ。頼むぞ?」
「……はい!」
ユマ様は僕にそう言って頼ってくれる。
1人で落ち込んでいる場合ではない。
僕はユマ様の力になると決めたのだ。
何があってもいいように、僕は最善を尽くす。
ユマ様のために。
******
***???***
まずい。
このままでは必ずジェクトラン領はグレイルの手に落ちる。
それは何としてでも阻止しなければならない。
俺はユマが解散を命じたのにあわせて店を出て、仲間達の元に向かう。
「やばい。ユマが突然現れてネイトを味方に引き込んだ」
「なんだと……今日来たばかりではないのか?」
「そうだ。なぜか分かってたように集会する店を見つけ、今回の首謀者であるネイトに狙いをつけた。まるで知っていたかのようだ」
「クソ……このままではまずいな……」
「ああ、どうする?」
その場の者達はしばらく黙っていたあとに、仲間の1人が口を開く。
「奴は鉱山には行くか?」
「どうだろうな。恐らく行くと思うが……」
「なら……そこで決める」
「あれを使うのか? しかしそれは我々にも損害が」
「生かす方が損害がデカい。他に方法はないだろう?」
「……ああ。やるしかないか」
ユマを殺す。
俺達はそう覚悟を決めた。
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