第45話 元凶のいる場所
「「元凶のいる場所?」」
シュウとアーシャの声が重なった。
「そうだ。ここがそのはずだ」
俺はそう言って、目の前の酒場に入る。
「グレイルの侵略者共を許すな! 我々ジェクトランの民はジェクトラン男爵の元、常に協力し、支え合い、発展してきた! それをグレイルの侵略者共が奪い、今まさに発展したこの町を奪おうとしている! そのようなことが許されるのか!? 否! 許される訳がない! 我々が努力し、汗を流し、作り上げてきたこの大事なジェクトラン領をグレイルの侵略者共には決して渡すことなどない!」
「そうだ! グレイルの侵略者共を殺せ!」
「奴等に正義の鉄槌を!」
酒場の中は今日見た中で一番熱い熱気で満たされていた。
後ろから入ってきた俺達に気づく様子もない。
店は結構広く、さらにその店の中には100人くらいギュウギュウになるまで入っている。
しかし、彼らは熱狂しているようで、奥の少し高い壇上に立っている男に向かっていた。
そこに立って高らかに演説している男こそ、今回の代表であるネイトである。
見た目は金髪碧眼で、見た目もそれなりにいい。
彼は若いながらも聡明で、鉱山労働者をまとめていた。
その流れでユマに敵対する勢力にそそのかされたり助力をされて、ユマに反旗を翻すのだ。
その敵対する勢力というのは、ゲームでは急進派、中立派、国内不穏分子、他国勢力と割とどこか特定することはできない糞仕様である。
そんな場所であることを2人に教えたのだ。
「ユ……危険です!」
「危ない。この数で密度だと援護できない!」
シュウとアーシャが俺に警告を送ってくれる。
でも、俺はそんなことは百も承知だ。
危険があることは十分に分かっている。
でも、こうでもしていかないとユマのルートはどうなるかわからないのだ。
こうしている間にも、グレイル領の方で問題が発生しているかもしれない。
それを止めるためにも、目の前の問題は即時解決していくべきだ。
「心配するな。俺が話す」
「話す?」
「どういうこと?」
俺は足に魔力を込め、一息で飛んでネイトの側に着地する。
一瞬の静寂、熱狂していた者達も、扇動していたネイトでさえも驚いて動きが止まった。
その瞬間に、俺はフードをとって素顔を
「さて、君が今ジェクトラン領……いや、グレイル領で謀反を起こそうとしている首謀者かな?」
「な……だ……誰だお前は!」
「ユマ・グレイル」
「…………は…………な……貴様……貴様がレックス様を殺した奴か!」
ネイトが叫ぶと、それに呼応するように多くの者達が俺の死を求める。
「殺せ!」
「その命で代価を払わせろ!」
「レックス様は素晴らしい領主になるはずだったのだ!」
「我々の未来を奪った奴を殺せ!」
壇上の下では民衆が酒瓶や拳を突き上げる。
でも、目の前のネイトはある程度冷静で、民衆を落ち着けるように叫ぶ。
「待て! お前達落ち着け! ここで殺しては我々もこいつらと同じではないか!」
「しかし! 血は血でしか洗うことは出来ない!」
「そうだ! 奴等に我々の覚悟を知らしめなければレックス様は浮かばれない!」
口々にそう叫び、中には武器をとるためか、どこかにかけていく連中もいた。
俺はちらりとシュウ達を見ると、シュウは険しい目つきで、アーシャは今にも弓矢をとって撃ち抜きそうな目をしている。
「ま、待て! 待つんだ! 奴は俺達の敵だ! だが、こうしてわざわざ出て来たんだ! 話せば分かるかもしれない!」
「だが!」
「それでも奴は!」
「っ!」
熱狂している奴に向けて、俺は殺気を放つ。
「…………」
「…………」
「……こ、殺せ!」
そのほとんどは俺の殺気で口を開けなくなっていた。
でも、叫ぶ奴がいる。
奴はある程度訓練を受けたどこかの兵士かもしれないだけれど、俺がにらむと慌てて目をそらす。
「さて、静かになったな。これで話ができる」
「……貴様。俺達を殺す気か」
「そんなつもりがあるなら最初から殺している。違うと分かっているから話し合おうとしたのではないのか?」
「ちゃんと言葉にしなければ伝わらないだろう」
「ほう」
これはそうだ。
俺が殺気をぶつけて、先ほどの熱狂を止めた。
そして、俺は殺す気がないことを知っているが、それは相手は違うのだ。
そして、それをちゃんと言葉にして殺さないと言う。
民衆にそう伝えることが大切である、とネイトは言ったのだ。
意外と頭が回ると思った。
それにこれなら使えると。
ついでに彼に聞くことにした。
「では、どうして俺がここに来たと思う?」
「どうして……? 俺を殺しに……ではないだろう。そうするつもりだったら最初にやっているはずだ」
「だろうな。ではどうして?」
「どうして……? 俺達の要求を聞いてくれる気になったのか?」
「それはない」
ちなみに、彼らの要求とはジェクトラン男爵の復権と領地の返還。
決して認められるものではない。
俺の言葉に、ネイトは睨みつけて問う。
「ならばなんだ。それ以外に俺達が止まることはないぞ」
「では、この町が血で染まってもか?」
「血で……」
「そうだ。貴様らがどう思っているか知らんが、レックス・ジェクトランは確実に我が領土のバメラルの村を襲った。そして、そこにいた者達を攫い、兵士を殺した。これは揺るぎない事実だ」
俺はそうはっきりと断言する。
「レックス様がそのようなことをする訳ないだろうが! 貴様らがジェクトラン領を手に入れるためにやったに決まっている!」
「それこそあり得ない。俺達グレイル領がお前達を手に入れる理由がない」
「鉱山を見つけたのだろうが! 我々技術者を手に入れ、鉱山を保有する我々を潰す。違うか!」
「違う。こちらの鉱山に関してはジェクトラン領から技術者を雇い入れるつもりではあったし、お前達の鉱山もそろそろ枯れかけているという情報も得ていた。事実、そのことはお前達鉱山労働者が一番知っていたんじゃないのか?」
「それは……」
そう言って言い
「更に言ってやろうか。我がグレイル領は国内でも上位に入るほど豊かさを誇る。なのに貴様らとわざわざ戦争を起こすほどのメリットは存在しない」
「……」
「国内の治安が安定しないとはいえ、こちらから攻めることのデメリットは大きい。穏健派である我々が外領に攻め入る。その意味も……お前なら分かるな?」
「……ああ」
穏健派であるグレイル家が率先して攻め込めば、それこそ急進派にそれ見たことかと攻める口実を与えることになるし、穏健派の味方からは裏切り者として扱われる。
つまり、本当にジェクトラン領を攻めるメリットがないのだ。
デメリットを考えればマイナスと言っていい。
「それにこちらから攻めたらこの町が戦場になっているのではないか? だが、ジェクトラン領とグレイル領の境い目で争いになった。つまり、貴様らが軍を展開していたことにもなるな?」
「……そうやって言葉でやりこめたいから出て来たのか」
ネイトはそう言って納得していない目で睨んで来る。
「違う。俺は思うのだ。貴様らを選択を間違えたが、それは知らなかったからだ」
「知らなかった?」
「そう、そう言ったことを知らなかった。なら知ればいい」
「話が見えてこないぞ」
「俺の部下になって働け。それなら俺が言っていることも理解できるはずだ」
「は……はぁ!?」
俺の提案に、ネイトは目を剥いて驚いていた。
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