第44話 ジェクトラン領を歩く

 俺達3人は変装してジェクトランの町へと出掛けた。

 といってもシュウの護衛が数人は散らばっているけれど。


 空は明るく、いい天気だ。

 町中は活気があって、天気のよさに応えるようだった。


「かなり活気はあるんだな」

「その様ですね」


 兵士達が見回りなどもしてくれていて、表立ってグレイル領を非難する奴らはいない。

 町中に響くのは、鉄を叩く音や、何かやらかした弟子を叱る親方達の怒声。


 俺達が来ているのは町の中でも鍛冶屋や鉄工屋、細工職人等がいる通りだ。


 この町ではグレイルの人間が鉄を求めてジェクトラン領を攻めた。

 そうゲームでは思われていたはずだが、その時のイベントと同じだろう。


 ただ、レックスと戦った時と同じように、どこかでゲームと違う箇所があるかもしれない。

 それだけは注意して進もうと思う。


「シュウは何か気になる物はあるか?」

「そうですね。やはり鉄工業で栄えているだけあって鉄の質がいいですね。グレイル領でも同じような物が取れて、それを加工できるかと思うと、収益で何をしようか迷ってしまいます」


 シュウはそう言って、目がお金になりかけている。

 ただ、理性はあるからか、お金に一瞬変わりすぐに元に戻るを繰り返している感じだ。


「発展させてくれるのであれば、なんでもいい」

「それはたまりませんね……。今から部屋に帰って色々と考えたいところです」

「後にしてくれ」


 せっかくここまで来たのに、それを後回しにするなんてことはできない。

 今はとにかくこの騒動を終わらせることが大事だ。


 そう思っていたのだけれど、アーシャがじっとアクセサリーを見ていた。


「……」

「アーシャ?」

「なんでもない」


 俺が声をかけると、彼女はすぐに視線を逸らしてこちらに歩いてきた。


「今のが気になったのか?」

「なんでもない」

「……」


 アーシャはそう言ってスタスタと歩き出そうとする。


 俺はその手をとった。


「……何?」

「少しだけ見て回るか」

「いいの?」

「ああ、少しは時間があるだろう。それに、自分達の領地がどんなものかちゃんと目で見ておかないとな」

「それなら他の町も見たら?」

「それは……なぁ……」


 訓練が楽しかったし、政務が忙しくて他の所にいけなかったとは言えない。


 俺が言えないでいると、シュウが言葉を引き継ぐ。

 

「ユマ様は実際に目で見ずとも他の町のこと等把握している。それに、必要な情報は私が報告していますよ」

「……そっか。ユマ様なら当然だった。ごめん」

「普通はそう考えるのが当たり前ですから、ですが、相手が違いますよ」

「ユマ様ごめん」

「………………気にするな」


 なんでそんな俺に対して評価が高いんだ……。

 こちらはいつも背中からうたれないようにドキドキしているというのに。


「それじゃあ、見て回るの?」


 アーシャは上目使いで聞いてくる。

 その目はとても期待しているようで、薄っすらと見える目は可愛らしい。


「ああ、そうしよう」

「分かった」

「シュウも実際に目で見るのもいいだろう?」

「わかりました。ユマ様が言うのであれば」

「そんな気を張るな。シュウ、少しは肩の力を抜け」


 俺はそう言って彼の肩を揉む。


 ここ最近の彼は自分を追い込むかのように仕事に打ち込み続けていた。

 恐らくレックスが攻めてくることを予見できなかったことに対して、後悔しているのだろう。


「ユマ様……」

「シュウ、俺はお前を信頼している。だから、次も任せる」

「ユマ様……はい。命を賭して成し遂げてみせます」

「いや、今は適当に遊ぶぞ」

「はい! 命を賭して遊びます!」

「なんだそれは」


 ということになったけれど、俺達は遊ぶ。


 まずは鉄の質の確認ということで、アクセサリーを見て回る。


「これは……こんな質のいい物が普通に売っているとは」

「とっても綺麗」

「ああ、この技術はグレイル領での欲しいな」


 小さな宝石が細かく埋めこまれた指輪、丁寧に細工が施された腕輪、美しい装飾で中の物はなんだろうと期待させられるロケット。

 見る物全てがとても素晴らしく、技術の高さを感じさせてくれる。


「ですね。技術者も移してもいいかもしれません」

「鉄が取れたらそうしてもいいかもしれないな」

「ええ、今の内に誰がいいのか考えておかなければ……密偵を……」

「いや、それはあとでいいだろう……」


 今はこれから始まる戦乱のために鉄を取り、武器を作ったりするためにつかわなければならなくなるだろう。

 ただ、その製鉄技術や装飾は武器以外を作る際には役に立つかもしれない。


 そんなことを考えながらシュウと話していると、ふとアーシャが気になってそちらの方を見る。


「……」


 彼女はじっと一つのアクセサリーを見ていた。


「それで、シュウは他に気になっている特産品はあるか?」

「ええ、この辺りは……」


 などと話をしていく。


 そうやってある程度この辺りを見て回ったあと、食事をした。


「結構美味しかったな」

「ですね。ジェクトラン領主は……いえ、なんでもありません」

「いいさ。それは真実だろうから」


 ジェクトラン男爵は優秀だった。

 それは間違いない。

 領地を発展させ、これだけの技術力を身に着けた者が多くいるのだから。


 だからこそ、今この町の発展した者達の牙が俺達に向きかけている。


 いや、今はそれはそれでおいておこう。

 俺はアーシャに身体を向ける。

 

「アーシャ」

「何?」


 俺はアーシャに買ったアクセサリーを渡す。


 彼女はそれをじっと見つめ、それから俺とそれを交互に見る。


「これは?」

「さっき真剣にそのロケットを見ていただろう? アーシャに似合うと思って」

「買ってくれたの?」

「ああ、要らなかったか?」


 俺がそう言って手を差し出す。


 彼女はサッと俺からロケットを隠すように背中に回した。


「もらう。もうわたしの物」

「ああ、その通りだ。時々でもつけてくれると嬉しい」


 ちゃんと好感度を上げて撃たれないようにする。

 これは本当に大事だろう。


「うん……大事にする。一生大事にする」

「はは、そこまで大事……にしてくれると嬉しいかも」


 途中で殺意の籠った目を向けられ、俺は言葉を変える。

 大事にしなくてもいいと言うのはダメなのか。


「うん。大事にする」

「さて、ということで、シュウももういいか?」

「はい。ありがとうございます」

「よし、それじゃあそろそろ……行くか」


 俺はそう言って空を見る。

 すると、すでに空は暗くなっていて、酒場では結構な人々が楽しんでいる。

 まぁ……その声にグレイル領を貶める声もあるけれど。


「行くとは?」

「行けばわかる」


 俺は2人にそう言って町中を歩き、目的の酒場を目指す。

 結構歩くと、シュウが声をかけてくる。


「あの……どこに向かっているのでしょうか?」

「ついてくれば分かる」


 俺はそう言って、めちゃくちゃ冷汗をかいていた。


 なぜなら目的の店名は分かるのに、その店の場所がわからないのだ。

 それなのについてこいとか言ってしまったせいで、引くに引けなくなってしまった。


 俺はそれから裏町の中を適当に歩く。


「おいおい、兄ちゃん達、こんな所になんの用だ?」


 ザッ。


 見るからにガラの悪そうなのが話しかけてきた。

 すぐにアーシャが俺の前に立つ。


 俺は彼女の肩に手を置き、下がらせる。


「アーシャ、シュウと一緒に少し離れていてくれ」

「でも」

「俺がこんな雑魚に負けると思うか?」

「ううん。分かった」


 アーシャとシュウはすぐに離れた。


 俺はそれに内心ガッツポーズをしながら、彼らに話しかける。


「なぁ、『天秤の測り手の夢』という酒場を探しているんだが、教えてくれないか?」

「てめぇ……何でその場所を……」

「何。少々用があってな」

「生かして帰さねぇぞ。間違ってきたんなら帰してやろうと思ったが……許さねぇ」

「できるものならやってみろ」




「戻ったぞ」


 俺は軽く身体に教えてあげた奴を連れて、アーシャ達の元に向かう。


「さ、軽く終わったから行くぞ」

「さっきから行くって……どこに行くの?」


 ちょっと不審がっているアーシャに、俺はまぁいいかと思って答える。


「何って、今回の元凶のいる場所だ」

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