第43話 ジェクトラン男爵領
「町中に入ったら敵意ある目が増えたな」
「ええ、バメラル男爵が難儀しているのも分かりますね」
俺達……俺とシュウ、そしてアーシャを乗せた馬車はジェクトラン領の町に入っていた。
道中は特に何事もなく平和だったのだけれど、町に入った途端に石でも投げてきそうな雰囲気を向けられていた。
「貫いとく?」
「アーシャ、石を投げられても射るのはなしだ。殺す気があったら止めるために射るくらいはいいが、けがをさせないようにしてくれないか?」
「……」
「そんな不満そうな顔をしないでくれ」
「分かった」
すごく不服そうに頷いてくれた。
でもなんでそんなに弓で貫きたいのだろうか。
バメラルの村を襲われたことを未だに根に持っているということだろうか。
確かに、アルクスの里も同じような目にあったばかりだ。
なら、そうなっても仕方ないかもしれない。
俺が考えている間に馬車は進み、ジェクトラン元領主の館に到着する。
「やっとついたか。身体を動かしていないから訓練でもしたい気分だ」
「今からやる?」
「流石に今からはダメだ。じいとジェクトラン領の相談をしなければならないからな」
「そう……」
「だが、あとでやろう。それならいいか? アーシャ」
「うん!」
ちょっと嬉しそうなアーシャと後で訓練をする約束をして、俺達は館に入る。
待っていた執事達の案内で、俺はじい……バメラル男爵が執務をしている部屋に入った。
「ユマ様! あなたが来て下さったのですか?」
「バメラル男爵、そのままでかまわないぞ」
俺達が入るとすぐさま立ち上がった男爵を、俺は手で制して座らせる。
「ありがとうございます。この老体には中々動くのは辛くてですな。とと、ユマ様達はお好きな場所にお座りください」
「失礼する」
「失礼いたします」
「失礼します」
と、俺達3人は思い思いの場所に座る。
案内してくれた執事は部屋の外で待つようだった。
「それでバメラル男爵、早速だが現状を聞いてもいいか?」
「はい。といっても、連絡を送ったあれから変わったことはそう大してありませぬ」
「そうなのか?」
「ええ、民衆達は所々で徒党を組んでジェクトラン男爵に領地を返せ……そう叫びます」
「被害は?」
「ありません」
バメラル男爵はきっぱりと否定する。
「こんなことがあったら何かありそうなものだが……」
「民衆達もユマ様の武勇を知っているのか、その配下の兵士達に手を出そうとしたり、石を投げようとする者はいません。ただ、声は常に上げ続けていて、いつその均衡が崩れるかもわからない状況です」
「兵士達が治安維持をしているからか? それとも統率をとっている者がいるからか?」
「……どちらともだとは思われます。兵士達は大人しく仕事をこなしています。武力行使はしないように言っていますので、そのおかげというのはあるかと。統率をとっている者についてですが、いるようですが誰かということはまだ判明していません」
バメラル男爵はそう言って詳しく説明してくれる。
「なるほどな。だが、確実にいるのだな?」
「ええ……大変申し訳ありません。兵士は言うことを聞きますが、ジェクトラン領の文官達がかなり非協力的でして、効率もとても悪いのです。そちらに割く時間がありませんでした……」
「仕方ないさ」
彼はバメラル村の再建もやっている。
本当は他の部下にやらせても良かったのかもしれないが、父上が彼が適任だと考えたからだ。
因みに俺も同じように思う。
いきなりこんな風に領土が増えるとは思っていなかったし、そんな過剰に雇っていた訳ではないからだ。
まぁ、こうやって無理をさせているからこそ、父上も自分でジェクトラン領に行くと言い出した。
そして、俺もバメラル男爵を助けたいと思い、来たということもある。
「シュウ、お前が集めた情報を聞いてもいいか?」
「かしこまりました」
シュウはそう言って立ち上がり、鞄から手帳を取り出す。
「まず、今回の首謀者はネイト。鉱山で働く出世頭ですね」
「何!? すでに把握していたと?」
シュウは淡々と言うが、男爵は驚いて目をむいていた。
「ええ、色々と手の者を使って調べていましたので、彼は基本的には鉱山での仕事に従事しながら、夜は様々な酒場で集会を開き、ジェクトラン男爵がいかに良かったか。そして、帰ってきてもらうために協力を要請しているようです」
「なるほど、今はどこにいるのか分かるか?」
「鉱山かもしれませんが、会おうとしても周囲の者が
「ふむ……」
であれば、まぁ……あれが出来るか。
ある程度解決の見込みをつけた俺は、男爵に聞く。
「バメラル男爵、何か他に困っていることはあるか?」
「そうですな……先ほど言ったように、文官の数が足りませぬ。元からいたもの達を仕方なく使っていますが、できればちゃんと働く者を送っていただきたいです」
「文官が足りない……彼らと話してみたのか?」
「話しました。当然です。しかし、これでも普通にやっている。ということを言いながらも、前ジェクトラン領主を思っての発言であったように感じられました。とても尊敬されていたようですな」
確かに、ストーリーが始まった時にはユマの父同様死んでいたけれど、優秀な人だった筈だ。
その時の従者はいるかと思ったが、前ジェクトラン領主を探して職を辞してしまったらしい。
レックスも死んで、前領主も居なくなった。
となれば、確かにここに居続ける必要もないか。
「分かった。しかし、首になることが怖くはないのだろうか?」
「分かりません。しっかりと働いた者は前回以上の待遇を約束すると話したのですが……」
「むぅ……何かあるのかもしれんな。他に困っていることはないか?」
「いえ、それくらいです」
「よし……分かった。では情報収集に行くぞ」
「? すでにシュウがしていたのではないですか?」
「ああ、していたさ。だが、自分達で歩き、その空気を感じるべきではあると思ってな」
俺の言葉に男爵は驚くが、シュウとアーシャは特に驚く様子はなかった。
「ということで、変装をして、町へ行くぞ」
「かしこまりました」
「うん」
ということで、俺達は変装をして、町へと出掛ける。
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