2章
第42話 ジェクトラン領へ
「お呼びですか、父上」
レックスとの、ジェクトラン領との騒動から2ヵ月。
俺は父に呼ばれて執務室にきた。
父は執務室の中で仕事をしていて、今日はシュウはいないようだ。
「良くきたユマ。少し相談があってな」
「相談ですか?」
「実は今ジェクトラン領の治安がかなり悪化していてな。今度私が確認をしてこようと思う。だからその間にお前にこちらの……グレイル領を任せたいと思うのだが、どうだ?」
「治安が悪化ですか? 兵士などの内、問題ない者達は解放して治安維持に当たらせているのでは?」
「当たらせてそれなのだ。そうでなかったらすでに激発しているかもしれん。だから私が行って早急に解決してこよう。その間、グレイル領をお前に任せたい」
「……」
父のこの話は普通なら受けていいと思う。
いずれ俺が継ぐとはいえ、父上というずっとグレイル領を運営してきた人が、俺のやり方を確認してくれるというのだ。
俺が万が一にも失敗してしまった時には後から助けてくれるだろう。
だが、今回のことはダメだ。
「父上。ジェクトラン領の治安維持ですが、俺が行きます」
あえて断定したのには、理由がある。
「理由は?」
「放置しては危険な可能性があります」
「危険……? たかが男爵領でか?」
「北部での問題もかなり伸びたではありませんか。問題が起き始めた今、俺が解決に向かいたいのです」
「なるほど、そこまで言うのであればユマに任せよう」
「ありがとうございます」
俺はホッとする。
なにせこの治安維持を適当にするとグレイル領が滅びる可能性がある。
これはゲームであったイベントの1つだ。
細かく説明すると、ジェクトラン領では反対運動が起きている。
グレイル領にジェクトラン領が接収されるということに、ジェクトランの民達は怒っているからだ。
前ジェクトラン男爵は民衆に好かれていた。
だから、今回レックスがこちらを攻めてきたことだって、俺達が手を回してそう仕向けたのではないか、という話が広まっているのだ。
そして、それを放置すると、ジェクトランと隣り合っている領地が攻めてきたりして、グレイル領自体の力が弱まってそのまま死に繋がる気が抜けないイベントなのだ。
主人公を倒してすぐにこうなるとはユマのルートは本当に油断できない。
一応こうならないようにじい等にジェクトラン領を任せていたけれど、それでも起きてしまうとは……。
俺はそう思っていると、父上は話を続ける。
「ただ気をつけろ、どうにもきな臭い話が聞こえてくる」
「きな臭い話とは?」
「その治安を脅かしているのは民衆だが、それを扇動している存在がいるらしいのだ」
「なるほど」
これは確かにそうだけれど、相手を断定することができない。
なんせユマルートはほとんど全てが敵になるようなルートと言ってもいい。
ゲームの時は、急進派、中立派、他国とどれかの勢力がジェクトラン領で問題を起こしていた。
首謀者はネイトという鉱山労働者だが、その後ろで煽る奴等の判断材料はない。
だから、実際に行くまでどうなるか分からないのだ。
それに行ったとしても分かるかどうか……。
ゲームでは後々の敵があの時……と教えてくれるけれど、今すぐに教えてくれることはないからだ。
「ユマ、お前が必要な人選をしろ。誰を連れて行く?」
「そうですね……シュウとアーシャを連れて行こうと思います。後は兵士を20名程度でいいでしょう」
「何? それだけか? もっと連れて行ってもいいと思うのだが……」
「そうよ。それにどうしてあたしがいないの?」
そう言ってくるのは先ほど扉を開けて入ってきていたシエラだ。
気付いていたけれど、聞かれても問題ないので放っておいた。
でも、彼女は答えるまで許さないというように、その綺麗な顔を俺に近づけてくる。
「シエラ。今回は治安維持……と言っても、名目上は適当に監査とか、調査というものになる」
「うん」
「そこにお前を連れていったら変だろうが」
「どうして?」
「調査をするのが目的の集団に、殲滅が得意な『焼尽龍姫』が居たらどう思う?」
「きっとバカンスだと思うわね!」
「なわけないだろう……。調査の名目で、潰しにきたんじゃないのか……と警戒されてしまうかもしれない」
『焼尽龍姫』という名前はそれほどに大きな二つ名なのだ。
調査目的の人数に気軽に連れて行くような名前ではない。
「むぅ……ダーリンのケチ」
「それに、シエラには頼みたいことがある」
「え? 何々?」
「俺達がジェクトラン領に行っている間、もしグレイル領で何かあった時は助けて欲しい」
「いいけど……でも、騎士団長もいるんじゃないの?」
「父上が議会に行くことになっているから、彼女はその護衛だ」
俺がそう言うと、彼女は首をかしげる。
「最初は領主が行く予定だったんじゃないの?」
その言葉に、父上が答える。
「議会に行く前にジェクトラン領へより、そこで数日仕事をしてから議会に行く予定だったのだ」
「なるほど、そっか……ユマ様にそう言われたんなら仕方ないか。じゃ、また今晩♡」
俺が何か言う前に、シエラはそう言って部屋から出て行く。
「本当に自由な奴だな……」
「はっは! いいではないか。彼女がいた方が明るくていい」
「父上……まぁ、それはあると思いますが」
「だろう? では、早速シュウとアーシャに打診をしておけ」
「かしこまりました」
ということで、父上との面談を終え、俺はシュウとアーシャを探す。
とりあえずどこにいるか分かりやすいアーシャを探すと、いつものように訓練場にいた。
服装はいつも狩人の服で、目深に被っているフードの隙間の目は閉じられている。
ただ、隠蔽魔法を使っているからか、すごく気配が察知しにくい。
今の状態で矢を撃たれたら気づけるかわからないだろう。
アーシャの機嫌には気を付けないと。
「アーシャ。少しいいか?」
俺はそんなことを思いながら彼女に声をかける。
「なに?」
彼女は魔法を止め、俺の方に向きなおって答える。
「実は今度ジェクトラン領に行くことになった。そのごえ「行く」
早い。
とても早い。
なんでそんな食い気味なんだと思いつつも、頷いてくれたのだからいいだろう。
ただ、危険性はしっかりと伝えておかなければならない。
「どれくらいの期間かかるかわか「行く」
「荒事になるか「行く」
「分かった。頼む」
「うん。任せて」
彼女の少しだけ見える目元は笑っているようだった。
ということで、アーシャの説得は完了した。
「シュウ。やっと見つけた」
「ユマ様。いかがなさいました?」
俺がシュウを探し始めて1時間、彼は色々と動き回っていたらしく、最終的に俺の執務室にいた。
「実は今度ジェクトラン領に行くことになった。そこで、シュウにもついて来てほしい」
「かしこまりました。ですが、3日いただいてもよろしいですか?」
「3日? 何かあるのか?」
俺がそう聞くと、彼は少し俯き、悔しそうに答えた。
「以前ジェクトラン領から手の者を引き抜いたことを後悔していまして。今度こそは全ての情報を集めてからジェクトラン領へ行こうかと」
「何を言っている。あれは俺も問題ないと言っただろうが。だからあれは俺自身が招いた事態であって、お前の責任ではない」
「いえ……そんなことはありません。僕の考えではあの領地の者はあんなことをするはずはなかったんです」
そうとても後悔しているようなシュウのことを思うと、ここで時間をあげてもいいと思った。
治安に問題があると言っても、3日程度ではすぐに問題も起きないだろう。
「分かった。3日後に出発する。それまでに情報を集めておけ」
「! ありがとうございます! 必ずや完璧な安全安心旅行計画を作り上げてみせます! 失礼します!」
シュウはやる気を
旅行ではないんだがな……と思ったけれど、彼のやる気を削ぐのも違うかと思い放置した。
後は必要な護衛の手配を済ませると、いつもの訓練に戻って行く。
「準備は整ったな?」
「はい。完璧です」
「よし、ではジェクトラン領へ向けていくぞ!」
それぞれの準備を始めて3日後。
俺達はジェクトラン領へ向かう。
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