第36話 バメラルの村

 俺は早朝から訓練をしていた。


「じいや騎士団長達はもうついているかな」

「問題がなければついていると思いますよ」


 そう言って来るのは、一緒に訓練をしているヴァルガスだ。


「そうか、なら上手く行くといいんだが」

「ですね。そう言えば、今日はアーシャやシエラ殿はおられないのですか?」

「ああ、なんでも森で集中した訓練をしたいとかで数日はあけるらしい。ついでに父上やシュウも近くの町で行う施策があるとかでいない。訓練を心行くまで出来るぞ」

「それでは今夜は徹夜で斬り合いましょうか」

「はは、いいな。それでこそ訓練のし甲斐がいがある」


 俺達がそんなことを喋っていると、伝令兵が駆け込んできた。


「ユマ様!」

「どうした」

「バメラルの村が燃えています!」

「なんだと!? 他に情報は!?」

「どこかの兵士らしき軍が襲撃しているようです!」

「軍だと……」


 俺は理解が出来ないが、起きたことには対処が必要だ。

 大声でこれからやるべきことを指示する。


「ヴァルガス! 騎士団を集めておけ! ルーク! 馬に乗れる兵士を緊急で招集しろ! 30分で集まるだけでいい!」

「は!」

「かしこまりました!」


 2人は即座に返事をすると、すぐに駆けていく。


「新たに伝令兵を送る! 父上の所に緊急で同じことと俺がそのまま出撃することを伝えよ! 後はゴードンに領都の守りを任せる! 警戒態勢を取らせるために、招集をかけておけ!」

「かしこまりました!」

「後は斥候も派遣せよ! 接敵したらすぐに引き返して構わない! すぐにいけ!」

「はっ!」


 俺はそれから自分も準備を整えて、騎士団と兵士を合わせて500騎揃える。


「これよりバメラルの村に行く! 戦闘になる可能性が高い! 気合を入れていけ!」

「おう!」


 野太い声を聞き、俺は満足して号令を出す。


「行くぞ!」


 それから俺達は街道を駆け、バメラルの村に向かう。

 これくらいの速度であれば、バメラルの村を救えるかもしれない。

 以前盗賊を相手にしていた時も問題なかったし、きっと今回もなんとかなる。

 その時の俺はそう思っていた。



「これは……」


 バメラルの村はすでに焼き払われた後だった。

 村の中では兵士らしき者達の躯が捨ておかれていた。


 家という家は焼かれ、打ち壊されている。

 そこら中には様々な物が転がり、確か俺に人形をくれようとした女の子が持っていた人形も転がっていた。


「……ヴァルガス。半数を使って至急生き残りがいないか調べろ。残りの半数は周囲の警戒だ」

「かしこまりました!」


 ヴァルガスはそう答えてきびきびと動き始めるが、俺は手に持った人形を見つめることしかできなかった。

 守らないといけなかった。

 守ると決めていた大事な民達がいなくなっていた。


 俺は……俺は……。


 1人考えている所に、ヴァルガスが走って戻ってきた。


「ユマ様!」

「ヴァルガス。何人生き残っていた」

「誰も」

「!」


 俺は向けるべきでない相手に殺気をぶつけた。


 しかし、彼は無言でそれを受け止めてくれた。


「すまない」

「いえ、それよりもこれを」


 ヴァルガスはそう言って、俺に1通の手紙を差し出してくる。


「ユマ様。生き残りはいませんでしたが、死体もほとんどありませんでした」

「死体がない?」

「ええ、そのことについて、ここに書かれています」


 俺はその紙を受け取り読んだ。

 そこには、ここの生き残った者達を返して欲しければ、今日中にある場所に来いと書いてあった。


 その場所……というのは、『ルーナファンタジア』でユマ・グレイルがレックス・ジェクトランの罠に掛かって死ぬ場所だった。


「これは罠です。行っても死にに行くようなもの。兵力が集まり次第全軍をあげてそこに行けばいいと思います」

「それではバメラルの者達が死んでしまう。今日中に行かなければ、村の者達は串刺しで見せしめにする。そう書いてあるんだぞ」

「ですが、ユマ様がここへ行き、死んでしまっては元も子もありません!」

「俺が死ぬと?」

「相手はユマ様の実力を知っているはずです! でなければこのようなことはしません!」

「だが、ここで行かずに逃げられたらどうする?」


 俺は味方であるはずのヴァルガスにすら、威圧感を抑えきれずにそう話す。


「し、しかし、それはシュウ殿や他の者達が必ず見つけ出し、報いを受けさせます! ですからどうか!」

「ヴァルガス」

「は、はい」

「ここで見逃せば、自領の村を焼かれ、焼いた者達をみすみす見逃した腰抜けと言われるだろう。助けられる命をみすみす見殺しにした愚か者は敵からも味方からも蔑まれるだろう」

「……」

「別に腰抜けと言われることくらい構わない。だが、それでその腰抜けの領地なら攻めても問題ない。そう思われたら、今回のようなことが再び起こる。そして味方からは見捨てられるのではと不安に狩られ、安心して暮すこともできない者も出てくるだろう」

「それは……」

「だからこそ、ここで決めなければならないんだ。わかるか?」


 俺の言葉に、ヴァルガスは視線を落とす。


「……はい」

「故に、俺は今回の奴らを見逃すことは出来ん。斥候をその場所に放ち情報を集めよ。それと同時に、俺達もすぐに行く! この様な殺戮者共を血祭りに上げるぞ!」

「おお!」


 それからすぐに斥候を放ち、俺は全員が集まってから出撃した。


 なぜこんなことをしたのか、必ず問い詰め責任を取らせる。

 俺はそう決意し、軍を進めた。


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