第37話 何度も繰り返した
それからすぐに目的の場所に到着する。
斥候からの報告では、ゲームでやった時と同じような陣形で敵が布陣していた。
違うと思いたかったが、敵は最初からわかっていた。
『ルーナファンタジア』の主人公レックスだ。
本編が始まるよりも前の時間なのに、こうなってしまったことに何か理由はあるのか。
知りたい気持ちではあるが、誰か教えてくれる訳ことはない。
それに、敵は遠く言葉をかわすことはできない。
舞台は山の中の盆地と森だ。
真っすぐに進めばレックス達ジェクトラン領の兵士が1500人くらい待ち受けている。
こちらは500人で、すぐにでも切り込みたい所だ。
しかし、そんなことをしたらすぐに全滅する。
こちらとあちらの間は1キロもないくらいだ。
けれど、その間には様々な罠が隠されている。
落とし穴や対馬用の柵が地面に埋められていて、このまま突撃したら殺される。
「お前達、回り込むぞ」
「ユマ様!? 周囲は森です! 一列になりただでさえ寡兵なのに更に数の差が出てしまいます!」
「敵が待ち構えているということは何か仕掛けているということだ。一度森の中に入り、奴らの右後方から襲う」
「森の中を突っ切るというのですか!?」
「道はある。俺について来い!」
「! かしこまりました」
バメラルの村を焼いた奴らのことは許せない。
そのことで頭に血が上り、激情に突き動かされているのは間違いない。
だけれど、今もこの状況、俺がユマ・グレイルとして、ゲーム主人公のレックスを上回るために、戦うという状況にどこか冷めて見ている自分がいた。
「俺に続け!」
俺はそう鼓舞して兵士達を引き連れて森に入る。
「しかしユマ様。昔この辺りはシュウ達がいなければ道に迷ってしまいませんか?」
動き出した俺達に向かって、ヴァルガスが聞く。
「安心しろ。奴らへの道は俺が知っている」
何度も何度も繰り返した。
最初に始める際に、何回も何回も俺は手を変え品を変えてユマ・グレイルをハメ殺してきた。
だからこそ知っている。
奴らがどこに罠を仕掛けるのかを、どんな罠を仕掛けるのかを。
そして、殺され方も。
俺を先頭にして森の細い道を駆け抜ける。
そうして行くと、途中に2手に別れた道があった。
「ここは右に行く! 左には決して行くな!」
「了解しました!」
彼らは俺の言葉を聞き、全員で右の道を進む。
もしも今左の道に行っていたら、木が倒されて動けなくなった所を削り取られていくことになっただろう。
「次も分かれ道です!」
「次はその手前にある細い道に入る!」
「そんな場所に!?」
「信じろ!」
「ずっと信じていますよ!」
俺はそう言って分かれ道に入る前に、細道に入っていく。
あそこの分かれ道はどちらも同じ盆地に出るだけで、そこで矢を射かけられて削られる。
俺達が進んだ道はまた元の太さに戻り、若干広く展開できる。
それから、森を駆けていると、両サイドで火の手があがる。
「ユマ様! 火計です! 今すぐにお戻りを!」
「ならん! 俺達が駆け抜ける時間はある! 全軍速度を上げろ! 進まねば焼かれるぞ!」
「おお!」
そんな火計を抜けた後、俺はどうしようもない物を見つける。
「ユマ様! 前方に丸太が大量に置かれています! これでは進めません!」
「っ! ルーク! 来い!」
「はい!」
俺はルークを読んでいる間に魔法に集中力を高める。
「ルーク! 魔法で吹き飛ばす準備をしておけ!」
「ユマ様!? あの大きさは」
「準備をしろ!」
「はい!」
それから、俺達が後10メートル。
それくらいの距離になった所で、俺は魔法を放つ。
「はぁ!」
俺は地面に置かれている丸太を全て斬り飛ばす。
「す、すごい……」
「ルーク! やれ!」
「! はぁあああああああ!!!!」
ブワァ!
ルークは先頭に躍り出て、ハンマーを豪快に振って風を起こして丸太の残骸を全て吹き飛ばした。
「よくやった!」
「はい! ユマ様のお陰です!」
「気を抜くなよ!」
「もちろんです!」
俺が知っている罠や、魔法で対処できることばかり。
これならなんとかなる。
そして、その責任を取らせてやる。
俺は注意深く、かつ迅速に進む。
そうやって記憶を頼りに敵の罠を推測し、かき分けていく。
そうすると、ヴァルガスが大声で叫ぶ。
「次は3つの道があります!」
「よーし! ここは中央だ! そうしたらすぐに奴らの後背に出る! そのまま斬り裂くぞ!」
「おお!」
罠が張られた長い道を駆け抜け、俺達はレックス達の待つ盆地に切り込んだ。
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