第34話 シュウとシエラ視点 ユマの行動は

***シュウ視点***


「見たか我が息子は! 資源探索を提案していた時からきっとこうなることを予想していたに違いない! 我が子ながら末恐ろしい!」

「ほっほ、確かに今後のグレイル領の発展が楽しみですな」

「だろうじい! 本当だったらすぐにでも議会に連れて行きたい所なのだがな? 流石にもう少し待った方がいいかもしれんと思ってな。ユマは優秀ではあるが、あまり腹芸は得意ではなさそうだからな」

「それは一本芯の通った素晴らしい性格とも言えるでしょう」

「うむ……だが、それだけに、心配は尽きんのだ」


 そう言って領主様は視線を床に落とす。


 なので、代わりに僕が答える。


「お任せください。僕が何としても、ユマ様をそういったことから守ってみせます」

「シュウ……お前が仕官してくれたこと、嬉しく思うぞ。お前からもたらされる情報はいつも役に立っている」

「はい。お力になれるように、今は特に急進派の方に情報収集を行かせていますから」

「ああ、だが、ジェクトラン男爵領は減らしたんだったな?」

「ええ、あそこの領主はかなり出来た方……と伺っていますが? 心配はないかと思ったのですが……」


 僕は間違ったことをしてしまったのか、少し不安になる。


 領主様は首をゆっくりと横に振り、僕の言葉を否定する。


「いや、領主はかなり出来た奴だ。男爵でありながら先代の領地を発展させ、今なお維持しているのだからな。優秀に決まっている。ユマ以下だがな」

「はい。それはもう」

「だが、奴の息子はどうなのか……と思ってな」

「レックス・ジェクトランでしたか」


 情報を集めた限りではかなりまともそうな者に思えた。

 法を守り、民草にも分け隔てなく接する素晴らしい後継者……と。


「出来た人物と聞いていますが……」

「ああ、確かに、舞踏会で会った時も、誠実な印象だった」

「では……」

「しかしな、ゴードンが不穏な物を感じたそうなのだ」


 領主様がそう言うと、今まで黙っていたゴードン殿が口を開く。


「舞踏会でですが、僕はずっと主様に付き従っておりました。その時、レックス・ジェクトラン様が不審な気配を一瞬ですが、出したような気がするのです」

「不審な気配……ですか?」

「ええ、あくまで一瞬です。なので、気のせいかとも思ったのですが、どうにも心に引っかかってしまいます」

「なるほど……では、情報員を送って、調べてからにしますか?」


 僕はそう提案をするけれど、領主様に止められる。


「いや、最近移したばかりなのだろう? なら、あまり頻繁に移すと怪しまれるかもしれない。それに、あくまで気のせい……ということもありえる。だから、そこまで心配はしなくてもいいだろう」

「かしこまりました」

「それよりも、ユマの素晴らしいところをだな」


 と、領主様がユマ様をほめちぎり、その会議は解散となった。


******


***シエラ視点***


 あたしは会議の終わりに、アーシャを誘って同じベッドに座る。

 いわゆるパジャマパーティだ。


「で、どうしてこんなことを?」


 そんなアーシャはちょっと冷たい目であたしを見る。


「別にいいじゃない。同じ男を好きになった者同士さ」

「!」


 ブンブンと、アーシャは顔を真っ赤にして首を横に振る。


 何を今さら……と思うけど、彼女には何かあるのかもしれない。

 その何かを集める兼、今後重要そうな人物だから仲良くなっておきたいということもある。


「そんな嘘付かなくても……分かった! 分かったから! 弓を持たないで!」


 あたしの言葉に、アーシャはベッド脇にある弓矢に手を伸ばしたので止めた。


「いい、そんな話がしたかっただけ?」

「んーそれもあるけど、ユマ様ってどんな人なのかなって。アーシャから見たらどんな人?」

「強い」

「うん」

「頼もしい」

「うん」

「かっこいい」

「う、うん」

「優しい」

「……うん」

「わたしなんかと比べられないくらいすごい」

「うん」


 なんでここまで言っておいて好きじゃないって言えるの?

 ここまでいい感情しか出てこないのだけれど?


 でも、ちょっとだけ彼女が考えていることが分かったかもしれない。


「釣り合わない……って思ってる?」

「! ……別に」


 無口な癖に顔に出やすすぎる。


「そんなこと言ってると、あたしが取っちゃうかもよー?」

「釣り合わない」

「じゃあ誰なら釣り合うのかしら?」

「……王女様」

「確かにいるけど……流石に中立派の誰かとくっつけるでしょ。情勢的に」

「知らない」


 アーシャはそう言って唇を尖らせている。

 絶対王女相手でも納得していなさそう。


「まぁでも、ダーリンほどすごい人は見たことないわね。あたしもそれなりに強い自信あったけど、あそこまで完封されたのはビックリよ」

「ユマ様なら当然。でも、あそこまで早く強くなるとは思ってなかった。わたしだって努力はしてるのに……」

「ふふ、そうね。でも……それは当然かもよ?」

「どうして?」


 そう不思議そうに可愛らしく首をかしげる彼女に、あたしはどうしてかを教えてあげる。


「夜の寝る時間に何回かユマ様の部屋に……って、弓を取るのはやめなさいよ」


 まだ話が始まったばかりなのに。


 アーシャに弓を元に戻させ、話を続ける。


「何回かあるんだけど、全部の時でユマ様は本を読んでいたのよ」

「……本を?」

「そう。話を聞くと戦略とか、戦術とか、残ってるかもわからない昔の法律とか、他の国の文化とかなんでも読んでいるらしいわ。なんの情報が役に立つかわからないからって」

「……」

「彼は本気でこの領地のために、民達のために頑張っている。あれだけ訓練をして、政務に励んで、勉強までこなす。そんな人の努力に勝てると思う? それだけやらないと死ぬかもしれない。そんなレベルのことを毎日やっているのよ?」

「……」


 あたしがそう言ったきり、アーシャは考えを深めていた。


 それから、彼女は思いついたのかあたしの顔を正面から見つめて聞いてくる。


「わたしに魔法を教えてほしい」

「あら、勉強じゃなくていいの?」

「いい。考える必要のあることはユマ様やシュウがやってくれる。でも、戦場でユマ様の援護ができるのは、限られるし、わたしにしかできないことがきっとある。隠蔽魔法はユマ様も褒めてくれた。だから、あたしに出来ることをする。だから教えてください」


 アーシャはそう言って素直に頭を下げる。


 思い切り頭をわしゃわしゃしてやりたい気持ちになる。

 けれど、射貫かれるかもしれないから、いや、大事な仲間だからそっと言葉を返す。


「いいわよ。でも、あたしは感覚派だから、結構適当だけどいい?」

「いい、ユマ様の力になれるかもしれないなら、なんでもする」

「ふふ、なるほどね。それなら練習しましょうか。あの人を一人にしないためにね」

「うん。頑張る」


 それから、翌日に響きそうなくらい夜更かしをして、翌日の訓練に遅れてしまった。

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