第32話 資源捜索

「それでは斥候の派遣先ですが、急進派の所を優先的にする。ということでいいでしょうか?」


 そう聞いてくるのはシュウで、俺達は2人、執務室で政務について話し合っていた。


「ああ、いいと思う。このまま行くと当たりそうだからな」

「はい。引き抜くのはジェクトラン男爵領やその周辺からでいいと思います」

「鉄鉱石が取れるんだったか」


 ジェクトラン男爵領はゲーム主人公の最初の領地だ。

 だからそこから引き抜くのは問題があるかなとも思うけれど、まだ本編が始まっていないし、敵対的な行動もとっていないから流石に大丈夫だろう。


「その通りです。鉱山の底が見え始めている。という話もありますが、今すぐに……ということでもないでしょうし、今の所は安定しているかと」

「分かった。それでいい」


 シュウとそんな話をしていて、あることを思う。


 俺はユマ・グレイルに転生して、生き残るために最強を目指している。

 だけれど、俺個人だけが強くなっても、生き残れない可能性があるのだ。


 極論を言うと周囲の領地が全部同時に攻めて来たり、手に負えない魔獣が出現したり、超ピンポイントな災害が降り注いで復興できない被害を被ったりといったことだ。

 そうなることがないように、助け合えるように周囲の領地と関係を良好にしておかなければならない。


 なので、ゲームで今後……発見できる資源を今のうちに発見し、それを有効活用したい。

 資源があれば、それだけ領地が潤い、それを周辺と分け合ったり、手助けすることができる。

 そうして、他の領地との関係をしっかりと築いておく必要があるのだ。


「そういえば、グレイル領に採取できる資源はないんだよな?」

「? ええ、豊かな土地と、温暖な気候を使った農作物が売りですからね。資源があるに越したことはありませんが……それが?」

「ないかなーと思ってな」

「それはあったらよりよくなりますが、そこまで都合は……。ダメ元で調べてみますか?」


 俺は少し考えてやはりやるべきだと決めて答える。


「そうだな……豊かな今のうちにやっておく方がいいか」

「そうですね。今は問題ありませんが、何かあった時の保険に探しておくのがいいかと」

「よし、だったらジェクトラン男爵領との境界の山があったな? あの辺りを探してみてくれ」

「構いませんが……何か理由が?」

「ジェクトラン男爵領では鉄鉱石が取れるのだろう? なら近くであるあそこでも取れないかと思ってな」

「昔探したと思いますが……それでもやりますか? 可能性としてありますが」

「やってみてくれ、昔よりは技術も進んだしな」

「かしこまりました」


 ということで頼んだけれど、これは確実に見つかる。


 ゲーム知識として、知っているから出来ることだからだ。


 俺はいつもの様に訓練に向かう。

 その途中で家庭教師のじいと会う。


「おお、ユマ様、お変わりないようで」

「じい。そちらこそ元気か?」

「ええ、ユマ様に教えることがなくなって退屈しておる所ですがな」

「それは悪い」

「いえいえ、ユマ様が優秀であられる証拠、領民として喜ばずに居られましょうか」


 そう言って穏やかに笑いかけてくれる。


「そうだといいんだがな」

「ええ、間違いありません。ワシとしてできることは多くはありませんが、何かありましたらお気軽にお命じ下さい。使者としてどこにでも行きましょう」

「そうか。確かにそういうこともできるのだな」

「ええ、これでも一応バメラルの村を預かっているのですからな」

「そう言えば、盗賊の被害からはもういいのか?」

「はい。以前よりも人も増えているくらいです。それもこれも、ユマ様のお陰です。感謝いたします」


 彼はそう言って頭を下げる。


「気にするな。これからも父上を助けてくれ」

「命ある限り」

「ではな」


 俺は彼にそう言って、訓練に向かう。


******


 シュウに新たな資源の捜索を命じて2週間、俺は一人森の中で魔法の練習をしていた。


「まずは……斬る!」


 俺は居合の要領で剣を鞘から抜き放ち、斬撃を飛ばす。


 シュパッ!


 目の前にある木が綺麗に断たれ、斜めに滑り落ちていく。


「よし……これは完璧にできるようになったな」


 魔法の訓練は毎日やるように、騎士団長とシエラからの教えだ。


「では次は……こう!」


 シュパッ!


 今度は剣を振る動作なく、意識だけで斬撃を飛ばす。


 そして、俺の背後の木が倒れていく。


「よし……振り抜くのは流石に分かりやすすぎるからな。後は……これを……」


 俺は今まで以上に集中して、一瞬の意識を解放して魔法を放つ。

 それを行おうとした瞬間……。


 次の瞬間、遠くで俺の名を呼ぶ声が聞こえた。


「ユマ様! 派遣した捜索隊ですが、本当に鉄鉱山を発見しました!」


 そう言って、シュウが飛び込んできた。

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