第31話 あんなこと言っていたのに

「あんなこと言っていたのに……その結果がこれか」


 ハムロ伯爵に法を犯していると言われてから3か月後。

 俺は自分の執務室でシュウ、アーシャ、シエラと一緒に届いた手紙を見ていた。

 手紙は議会に参加していた父上からの物で、内容はハムロ伯爵が言っていた法律違反についてだ。


「領主様はなんと?」

「ハムロ伯爵が提出した俺の法律違反は違反とは見当たらず、むしろ、時代にそぐわない法律が残っていたとして削除されたそうだ」

「なるほど」

「しかもその削除に反対したのはハムロ伯爵のみ、急進派の連中も削除に賛成していたんだと」


 あんなに意気揚々と言っていたのに、その結果がこれとは。


 俺がそう言うと、シュウが頷いて答える。


「まぁ、それは当然でしょうね。もしそれがこれからも機能するということになったら、彼らは人材獲得の機会を著しく失いますからね」

「そうなの?」


 アーシャが首を傾げて聞くので、シュウが続ける。


「ええ、彼らは国境の領地ですからね。近隣の国から人材をそもそも獲得できない。敵対していますから。そして、ノウェン国の他領から戦力をいつも募っています。戦功を上げたい者達も出世を目指して彼らの所に行く。しかし、今回のことが通れば、穏健派からの派遣はほぼ不可能。そして、中立派相手にも顔色を伺わなければならなくなる。もしそうなったら、彼らは急進派としての力を失うでしょう」

「なるほど。でも、それなら穏健派や中立派は現状維持をして、急進派に人がいかないようにしたらいいんじゃない?」

「その場合、立身出世を求める者は他国に行ってしまうだろうね。それはノウィン国自体の国力が落ちる」

「そっか」


 アーシャは納得したのか、頷いている。


 話しは終わったばかりに、シエラが俺に近づいてきた。


「さ、面倒なお話も終わったし、そろそろ子供欲しくない?」

「話が飛び過ぎてるんだよ。俺はこれから仕事に訓練があるって話しただろう?」

「えーじゃあ代わりに今夜こそ……ね?」

「……今はそんなことをしている場合じゃない」


 正直、彼女はとても魅力的だ。

 でも、本当にそんなことをしている時間はない。

 俺は最強になり、この領地を絶対に守り切る。

 そう心から決めているのだ。


 朝と昼は訓練や政務で時間を使わねばならないのに、夜まで彼女と……その……そういうことをしていたらきっと死んでしまう。


 それに……。


「(ぎろり)」


 アーシャの目がとても怖い。

 狩人の獲物を狙っている時の目というか、一匹も逃がさないというような目をしていて、シエラもその目にはちょっとタジタジなのか俺に引っ付いてこようとしない。

 別に残念になんて思っていないからな。

 本当だからな?


「もう……そんな目を毎回して、それならアーシャも来たら? ダーリンならそれくらい問題ないでしょ」

「!?」

「シエラ……なんてことを言うんだ」


 アーシャはそう言ったことが苦手のようだ。

 シエラがその話をすると、毎回鬼のような形相になるからだ。


「射貫く」

「ちょ、ちょっと待ってよ。冗談、冗談よもう……」


 アーシャが弓矢を取り出したのを見てシエラも流石にやめる。

 そして、急いで話を変えた。


「それにしても、この領地はいい場所ね。ヘルシュ公爵の所はかなり息苦しかったし」

「そうなのか?」

「ええ、戦争戦争はい戦争ってね。小競り合いってことだったけれど、結構な数の兵士達を動かしていたわよ。それに比べてここは天国よ。まぁ、たまには敵に魔法を放ちに行きたい所ではあるけれど」

「俺の訓練相手になってくれ」

「嫌よ……もうあたし勝てないし。魔法の技術も教えることなんてないもの。夜の対戦だったらいいけど」


 そんな軽口を言ってくるけれど、シュウが話を戻す。


「シエラさん。ヘルシュ公爵の所は兵力はどれくらいあるのですか?」

「んーあたしにも隠してたみたいだから詳しいことはわからないわね。でも、領都には結構いたわ。国境にもそれなりに貼り付けてると思うけど」

「なら、今回の件でこちらにケンカを吹っ掛ける気はないのですね」

「流石にないでしょー。隣国と戦いながらグレイル領と戦うなんて2正面作戦は流石にないって」

「それを聞いて安心しました。治安は落ち着いてきたので、より豊かになれるようにした方がいいですね」


 シュウはそう言って俺を見てくるので、当然と言う様に頷く。


「ああ、騎士団とアルクスの里のお陰で治安はかなり良くなった。隣り合っている他の貴族との関係も悪くはない。だから交易を活発化させるべきだな」


 ゲームでも戦争をがっつりやったりする時と、ちゃんと交易などをして領土を富ませることは戦略ゲーでは必須だ。

 なので、これからはそのパートになるのだろう。


 一応ゲーム知識もちゃんと使っていかないとな……と思いつつも、とりあえず殺されないために訓練を優先してしまっている。

 後は父上とシュウがいて問題ないので、俺の出る幕がないのもあるだろう。

 俺が何かするなら、まずは領内を回ってちゃんとどのような場所か把握することをやったりしてもいいかもしれない。


「はい。ユマ様は聡明であられますから、言う必要はないでしょうが」

「そんなことはない。シュウの言葉には助けられている」


 ゲームではあれをやっておけというとやってくれる。

 けれど、現実になった今はそれを具体的に指示しないといけない。

 シュウはやっておいてと言ったらやってくれる素晴らしい人材だ。


「ダーリンは強いしね? もう完璧じゃない?」

「まだまだだよ。俺はもっと強くならないと」


 最強はこんな物ではない。

 いずれくる乱世や……その先のためにも。


「……ユマ様はすごい優しい」

「アーシャ……ありがとう」

「ん」


 彼女はそう言って俺の袖を掴む。


 なんだこれは。


 わかんない。

 そう思っていると、シエラが口を開く。


「あらら? やっぱりアーシャあなた……」

「ん!」


 シエラが煽り、アーシャが怒って、俺がなだめて、シュウが話す。

 そんなのんびりとした、楽しい日々が訪れる。


 こっちの世界に転生して、出会ってきた仲間。

 彼らは今を生きていて、とても素敵な素晴らしい仲間だ。


******


***???視点***


 俺は議会からの連絡の書状を読み、握りつぶす。


「いかがされた」

「奴は悪だ」

「は、左様にございますか」

「ああ、奴は悪だ」


 俺は許せなかった。

 奴は悪で、そしてその力を私利私欲のためだけに振るっている。


 その力があれば、この国を……世界を変えることができるかもしれないのに。

 いい方向に使えば、素晴らしいことになったかもしれないのに。


 しかし、そうはならなかった。

 奴は悪、これまでの行いを見てくれば分かる。


「直接確認したのではないのですか?」

「ああ、奴は……悪だった」

「……」

「悪は滅ぼさなければならない。そうしなければ、この国は……この世界は正しい方には進めない。俺が正す。奴を……いや、この世界の全てを俺が正す」

「あなた様なら、可能でしょう」

「ああ、俺が……正義だ」

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