第30話 表彰式と追加の人材

「えーごほん。それでは、表彰式に入りたいのだが……」


 武芸大会参加者達は全員集められていて、その前にはハムロ伯爵が立っている。


 彼が主催したこともあり、その表彰を行おうとしているのだけれど……。


「うふふ、ダーリン。今夜は寝かさないわよ」

「離れてくれ……」


 俺に左腕をガッチリとガードするシエラが楽しそうに言ってくるのだ。


「表彰式くらいは普通に受けてくれ」

「えー別にいいじゃない。どうでも」

「良くないんだ。だから頼む」

「もう……ダーリンがそう言うなら」


 彼女は何とか離れてくれたので、これで表彰を受けられる。


 それからはどことなく冷たいというか、嫉妬というか、視線を受けながら表彰式は終わった。


 優勝賞品は1000万ゴルド。

 普通の人であれば一生遊んで暮らせるくらいの金額だ。

 領地の経営を知っている自分としては、すごく多い訳ではないと知っている。

 まぁ、新しい村を興したり、戦争の被害が出た村の保障に使ったりできるし、普通に領地のために使えばいい。


 俺はそれを受け取り、他の者達もそれぞれが賞品を受け取る。

 最後にハムロ伯爵の言葉を聞いて、解散となった。


「ふぅ。終わったか……」

「終わりじゃないわよ! さ! 一緒に宿に行きましょう!」

「いや、シエラは帰らなくていいのか? どこかに雇われていたりするんじゃないのか?」

「問題ないわ! 居候感覚でいただけだし、ユマ様の所で雇って下さるでしょ?」

「まぁ……それは……」


 彼女ほどの優秀な存在を見過ごす手はない。

 それに、彼女は魔法に精通している。

 セルヴィー騎士団長も素晴らしいけれど、他の人にも教えてもらうことだってやってもいいはず。


 俺が言いよどんでいると、シエラは可愛らしい笑顔で腕に抱きついてくる。


「ほら! 決定ね! っていうか、他にも来たい人いるんじゃないの?」

「来たい人とは?」

「あなたの領地に来たい人」

「そんなのいる訳「俺は行きたいです!」

「なに?」


 俺が彼女と話していると、そう言葉を遮ってくる人がいた。

 彼は確か準決勝で当たった魔法使いだった気がする。


「本当か?」

「はい! あなたの強さに魅せられてしまいました! 俺をあなたの陣営で雇っていただけませんか!?」

「おれだって雇って欲しい!」

「オレもだ!」

「僕も!」

「まじか」


 正直腕試しのつもりで来たんだけれど、そこまで俺の陣営……というか、グレイル領に入りたいなんて……。


「なんでだ?」

「もう……ダーリンの強さに皆惚れたのよ」

「強さ?」

「やっぱり戦うなら強い人の所がいいでしょ? ユマ様の陣営に居たら、少なくともユマ様と戦わなくてもいいじゃない? それどころかユマ様の後ろについていけたら、どこまで行けるのか楽しみだし? 何もおかしな話じゃないでしょう?」

「そうか」


 確かにそれもそうだ。

 戦場では一回の敗北が死に繋がる。

 ならば、味方も強い方に従いたくなるのが普通という物だろう。


「そうよ。で、どうするの?」

「そうか、なら全員すぐに登用は出来ないが、我が領で領主である父上の許可があった者は登用をすることに「ちょっと待ちたまえ!」


 なんだか今日はよくさえぎられる。


 俺は声のする方を見ると、そこには顔を真っ赤にさせたハムロ伯爵がいた。


「武芸大会で優勝した君の功績は素晴らしい! しかし! 人の陣営から人を引き抜くのは法に反している!」

「……え?」


 彼は何を言っているのだろうか?

 ゲームでは他の領地からの引き抜きは当たり前だった。

 というか、それが出来なければ魅力とかカスステータスだろう。


 俺は意味が分からないといった顔をしていたけれど、それは他の人にとっても同じようだった。


「いや……俺はここの生まれでもないですけど……」

「おれも外で生まれてここで雇われてるんですが……」

「僕も一緒です」


 そう口々に声があがるので、ハムロ伯爵は大声で説明してくれた。


「それは本来守らなければならない法律がないがしろにされているに過ぎない!」

「本来守らなければならない法律?」

「そうだ! それは領主が認めた領民は、その許可がない限り他の領地に移動することはできないという法律だ!」

「そんなのは聞いたことがないが」


 そんな法律は聞いたことがない。

 それどころかそんな法律があったとしても、誰も守っていないはずだ。


 これはシュウが以前言っていた、貴族は困ったことがあると法律を勝手に作るというもののことだろうか。

 まぁ、俺も貴族だから勝手すぎるとは思うが……。


 俺がそんなことを思っていると、ハムロ伯爵はつばを飛ばしながらしゃべる。


「ある! これは実際にある法律なのだ!」

「なるほど、分かった」

「分かってくれたか。それでは彼らを連れていくのはやめてくれるな?」

「断る」

「……なんと?」

「断ると言った。もしそのような法律が本当にあり、今も守るべきだというのであれば、国王にでも問うてもらおう」


 俺はこうしておかないといけないと思ったのには理由がある。

 今の彼は激情に支配されている。

 俺であればそれを力で止めることができるが、他の者達はどうなるか。


 彼らがどうしても俺の領地に行きたい。

 そう言ってくれた時、彼はその相手を素直に行かせてくれるだろうか。


 それならいいけれど、そうでなかった時のことを考えると敵対する領地に行くのであれば殺されるかもしれない。

 なので、俺はとりあえずでも連れていくことにする。


「ふ、ふざけるなよ若造が! いいだろう。それでは、このことは議会で提出させてもらう! 覚悟しておけ! この犯罪者共が!」


 そんなことを言われて、俺達は帰路につく。


 しかし、その結末は意外とすぐに出ることになる。

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