第29話 焼尽龍姫
「お前は……」
「初めましてーあたしはシエラ。あなたは強い人ー?」
「そうだな。少なくともお前よりは強いよ」
「あは! それは楽しみ!」
楽しそうに笑っている素晴らしいスタイルを持つ綺麗な女性はシエラ。
薄紫色のマーメイドドレスは右足にスリットが入っている。
左手には魔法使いの杖を持っていて、いつでも戦える準備は万端だ。
髪は黄緑色で、それをハーフアップにしている。
でも、大事なのはそんなことじゃない。
彼女はルーナファンタジアで中々ゲットできないレア武将なのだ!
ステータス的にはこう。
名前:シエラ・ログレス
統率:55
武力:95
知力:67
政治:23
魅力:76
魔法:97
特技:旅上手、火炎魔法、烈風魔法
特技に関しては上の3つは最低限持っていて、貴重な2属性持ちに加えて出会ったタイミングで他にも増えたりもする。
そして、何がレアかと言うと、絶対にこの条件で仲間にすることができるということはない。
仲間にするには、その領地で登用というどの陣営にも属していないキャラを仲間にするコマンドがある。
その登用をした時に、ランダム……それもかなりの低確率で仲間になるキャラなのだ。
何百週としたけれど、数えるほどしか仲間にできていないレアかつ優秀なキャラ。
是非とも欲しい。
「そんな熱心に視線をくれて、あたしは安くはないわよ?」
「あー……そういう意味じゃないんだが」
いかん。
ゲーマーとして優秀なキャラを欲しいという自分が出てこようとしてしまう。
でも今は一応武芸大会ということで来ているんだ。
それに、誰が相手であっても負ける訳にはいかない。
相手を登用したいからって、手を抜くようなことをしてはいけない。
そんなことを考えていると、実況の声が観客を盛り上げる。
『それでは決勝戦です! ここまで圧倒的な実力を魅せてきたユマ・グレイル選手! 今回もその圧倒的な力を魅せつけてくれるのか! 私もファンになってしまいそうです!』
「やれー!」
「その剣技もっとみせてくれー!」
「最高だぞー!」
『そしてこれまで一歩も動かずに敵を倒して来たのはシエラ選手! その魔法は誰が立ち向かえるというのか!? 圧倒的な魔法は楽しみです!』
「結婚してくれー!」
「愛してるー!」
『観客の皆さんも待ちわびていますね! それでは、決勝戦! スタート!』
開始の合図と同時に、俺はシエラに向かって突っ込む。
正直、この相手に手加減なんてことをしている時間はない。
それよりも、少しでも距離を詰めなければ負けてしまう。
「あはは! いい速度ね! そら! これはどう!」
シエラはそう言いながら俺の前に炎の壁を作り、妨害をしてくる。
「その程度で止められるとは安く見られたな!」
俺は木剣を振り、炎の壁を消し去る。
その壁の向こうには、すぐ近くにシエラの笑顔があった。
狂気に満ちていると言ってもいいかもしれないが。
「じゃあ次はこれ!」
「うお!?」
彼女の笑顔の後ろから見えないなにか、おそらく風が俺を襲う。
「とと、驚いた」
しかし、少し態勢を崩した程度で吹き飛ばされるようなことはない。
「いいねぇいいねぇ! 楽しいよ!」
「もっと魔法をみせてくれ!」
彼女の魔力の練り方はとても早く、俺が接近する頃には新しい魔法が完成している。
そして、その隙間を縫って接近しても、風魔法で跳び上がって距離を稼がれる。
というか、2属性使えるからって、それぞれの魔法を使えるというのも化け物だろう。
「ほらほら! こっちよ!」
「なら待ってくれよ! すぐに追いつくからさ!」
「あはは! ダメダメ! ちゃんと追いついてくれなきゃ!」
そんなことをやりながら戦っていると、このままでは時間がかかり過ぎる。
彼女の魔力量は桁違いに多いだろうし、ヘタをしたら観客に攻撃が飛び火してしまうかもしれない。
なので、俺も魔法を使って彼女の魔法を斬る。
「こういうのはどうだ! ハァ!」
「嘘!? 魔法が斬られた!?」
彼女は風魔法かなにかで上空に浮かんでいたが、その浮かぶ魔法を俺は斬った。
戦場で空中に浮かぶと矢の的になるので普通はやらないが、こういう時は最強レベルで強い。
だが、それはダメだ。
上で安全圏で魔法を放つだけなんていうのはいただけない。
「こんなの初めて! もっと魅せて! ほら!」
彼女は魔法で衝撃を吸収して器用に着地し、細い炎を何十本と作ってそれを俺の周囲を囲みドンドンと逃げ場を奪っていく。
「こういう使い方もあるんだな、面白い。だが、俺には効かない」
俺は斬魔法で正面の細い炎を断ち切り、彼女に向かっていく。
でも、距離は稼がれているから、大きな魔法は使われてしまうだろう。
「すごいすごいすごい! もうあたしはこれを使うしか選択肢がないよ!」
「それなら結構だ。勝たせてもらおう」
「うふ! それはこれを乗り切ってから! おいで! 可愛い可愛いトカゲちゃん!」
少し離れた所にいるシエラはそう言って楽しそうに両手を頭上に掲げる。
すると、そこから長い火炎で出来た龍が姿を露わす。
「それがお前の選択肢という奴か」
「あは! まだだよ!」
「なに?」
それから彼女の周囲では風が徐々に徐々に強まり、龍がドンドンとその姿を大きく、巨大化していく。
「お、おいいい!!! あれはやばい奴じゃなかったか!?」
「こっちは大丈夫なんだろうな!? あれは1000の敵を焼き払ったっていうやつじゃねーのか!?」
「そんなやばい魔法なのか!?」
「2つ名の『焼尽龍姫』ってのはあれからとったはずだ! 大丈夫なんだろうな!?」
観客達が騒ぎだし、シエラはそれに楽しそうに答える。
「あはは! 大丈夫! 拡がらないようにユマ様に行くようにしているから! ユマ様! 受け取って! 100回は身体が燃え尽きるあたしの全てを!」
なんて厄介な物だろうか。
彼女が作った火炎の龍は体長が50メートルはあるような魔法。
こんな大きなものは、俺が何とかできるのだろうか。
「できるさ。俺はユマ・グレイル。最強の男とは俺のことだ」
俺は向かってくる火炎の龍を両断するために、木剣をしまって居合の形を取る。
俺に向かって一直線にくる火炎の龍。
「おい!? 諦めたのか!?」
「本当に死ぬぞ!?」
「逃げて! 降参したら止めてくれるから!」
「やばいやばいやばい!」
観客達の声を遠くに聞きながら、俺は一度目を閉じて想像した通りになるように目を開いて木剣を振る。
「ハァ!」
俺が木剣を振り抜くと、火炎の龍は俺の目の前で動きを止めた。
「え……」
パシュン。
それから、数秒もしたら魔力が断ち切られて形を維持できなくなったのか、火炎の龍は何も存在しなかったように消え去った。
沈黙が会場を包む。
逃げ出そうとしていた人達も動きを止め、誰もが息をするのをためらう。
その空気は数秒で打ち破られた。
「すげえええええええ!!!!」
「何今の!? 魔法を消した!!!???」
「どうやったの!? 何が起きたの!? 奇跡でも起きた!?」
「分んねぇ! 分かんねぇけどすげえ! こんなことを生で見られるなんて思わなかった!!!」
「まじでやばいぜ!? こいつはガチで世界最強だろ!?」
観客達は口々に言っているが、俺は油断しない。
一応まだ勝負の途中だし、降参の言葉を聞いていないからだ。
俺がシエラに向かって歩いて行くと、彼女は感情が抜け落ちた顔でじっと今起きた場所を見ていた。
近づいてもピクリとも動かない。
彼女まで残り1メートルくらいの距離で、俺は剣を突きつける。
「さて、シエラ。これで降参してくれないか? 無駄に剣を振る必要もないからな」
「……して」
「ん? なんだ?」
「結婚して! 子供産ませて!」
「なんだって!?」
俺は突然のことに驚くと、彼女は杖を捨てて俺に抱きついてくる。
その豊満な体にドキドキしながら、俺は肩を触って離そうとした。
「待て! まだ戦いは終わってないだろ!」
「降参するよ! あたしより強い人をやっと見つけた! だからね! 結婚しよ! 子供もたくさん欲しい!」
「話が飛び過ぎている! というか服を脱ごうとするな!」
俺はどうしたものかと彼女を止めるのに10分以上は費やした。
試合時間よりも長く、試合中よりも疲れたと言っておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます