第28話 武芸大会開幕
「わあああああああああ!!!」
俺が相手の選手と会場に出ると、割れんばかりの歓声が降り注ぐ。
それから少しばかり魔法使いに有利そうなお互い結構離れた位置、20メートルほどの位置に立つように指示される。
俺の武器は木剣だけれど、相手の武器はトネリコの木で作られた杖の魔道具。
ちょっとこれは魔法使いに有利過ぎじゃないか? とは思わないでもないけれど、俺も魔法を使うからいいか。
『それでは第一試合! 我らがハムロ伯爵領のご意見番! 昔からその魔法で我々を守って下さった英雄バリン様!』
「わああああああああああああああ!!!」
先ほどよりもすごい歓声があがり、バリンという男の積み上げてきたものが分かる。
『そして対するはグレイル領が次期当主! ユマ・グレイル! 彼は最近手柄をあげまくっているグレイルの星と聞いております! さぁどちらが勝つのか! それでは試合開始!』
実況のセリフでバリンは杖を掲げて魔法を使ってくる。
彼の魔法は結界魔法、反対側が見えるくらいの薄墨色の結界を自身の前面に5枚ほど作り出す。
そして、それを俺に向かって射出してくる。
「これくらいならかわせるな」
俺はその結界魔法を避ける。
大して速くないから簡単だ。
しかし、
「うお、追尾もできるのか。すごいな」
結界は俺を追いかけてくるので、いずれ捕まる。
それどころか、バリンは新しい結界を作り出していた。
「これは壊さないといけないか。まずは……こうだ!」
バリン!
俺がかなり力を込めて木剣を結界に叩きつけると、音を立てて割れ散った。
「お、結構簡単に割れるな」
『おおおっとおおおおお!!! 100の弓矢も通さないと噂のバリン様の結界があっという間に壊された! あの木剣がすごいのでしょうか!? それとも何か魔法なのでしょうか!?』
「え? いや……使ってない……」
誰に聞こえる訳ではないけれど、そう呟いてしまう。
それから残り4枚を力加減をしながら木剣を振るっていくと、半分くらいの力でちょうど一撃ということが分かった。
剣の練習にちょうどいいかな……。
そんなことを思い始めていると、バリンが叫ぶ。
「まだまだ若い者には負けんぞ!」
バリンはそう言いながら魔法を使っているけれど、顔には脂汗が浮かんでいてちょっと苦しそうだ。
「老人に無理をさせるものではないか」
俺は半分くらいの速度でバリンに接近する。
「消えた!? いや! 見えておるぞ!」
バリンはそう言って結界魔法の板で俺を囲もうとしてくる。
「同時なら壊せんじゃろう!」
「ふむ」
別に剣を振ればいけないことはない。
でも、このままでは練習にならないだろう。
なら、せっかくなら魔法の練習でもしてみようと思う。
「はぁ!」
俺は居合の要領で木剣を振り抜き、魔力を込めて結界魔法を全て両断させる。
バリン!
「お、上手くいった」
5枚全ての板は簡単に真っ二つになり、形を維持できなかったのかそのまま崩れ去った。
「そ、そんな……ワシの……ワシの自慢の結界魔法が……」
「相手が悪かったな。降参するか?」
「降参する」
俺が彼の首筋に木剣を突きつけると、彼は両手をあげて降参した。
『決まったあああああああああ!!!! これがユマ・グレイル! これが若き力! 圧倒的な強さで英雄バリン様を打ち破ったああああ!!!!!』
「すげーな! どうやったんだあれ!」
「強すぎんだろ! 余裕そうだったぞ!?」
「どんな魔法使ってんだよ!? てかあの木剣が強いのか!?」
「な訳ないだろ! あの木剣は貸出のボロボロの奴だぞ!?」
「そんなんでバリン様の結界を割れる訳ないだろ!?」
「だからすげーって話してんだろうが!?」
「そっかそりゃすげーわ!」
「てかどうやったんだよあれ!」
観客達は楽しそうに今の試合を口々に語り合っている。
合っているかどうかは関係ない。
ただ楽しそうにしているのだ。
それを見て俺はこういうのもいいものだと思う。
「ま、次の相手も楽しませてくれるといいんだけれど」
それからの戦いは中々の相手が続いてかなり良かった。
飛び道具を使って俺の動きを封じようとした奴がいたり、魔法の霧で視界を塞いで、全体攻撃で俺を倒そうとしてきたり、あらゆる武器を使ってきた奴らだ。
飛び道具はキャッチして投げ返したら、相手はピクリとも動かなくなった。
視界を塞いできたのは剣を強く振って霧を晴らしたら後は簡単だった。
あらゆる武器は持ち替える間に剣で武器を弾いていったら武器はなくなった。
見えない中での攻撃をかわすのも良かったので、今度ぜひとも訓練をして欲しい。
武器の連中も是非とも訓練したい。
そんな風に楽しみながら戦っていると、あっという間に決勝戦になっていた。
「もう決勝か……早かったな。金ネ〇キみたいに50戦とかないかな」
「あら、もう終わったつもり? まだあたしがいるわよ?」
「お前は……」
******
僕は笑うのを必死で抑えて、ハムロ伯爵を見る。
彼の顔は真っ赤になったり真っ青になったり七色に変わっていて楽しい。
あれだけ自信満々に送りだした連中を、ユマ様は戦いというよりも訓練程度にしか考えていなかった。
最初のバリンもそうだし、裏では狙われたら命はないと言われる暗器使いだったり、出会ったら逃げろと言われる恐怖の魔法使い、無双と名高い老戦士。
そんな連中の攻撃を、ユマ様は楽しそうな顔でしのいでいるのだ。
今回ばかりはハムロ伯爵に同情してしまうかもしれない。
しかし、その当人はというと、
「まだだ、まだ終わっておらん。決勝はあの『焼尽龍姫』だ。いくらユマと言えど……」
もう隠す気はないらしいけれど、確かに相手は恐ろしい相手だ。
でも、ユマ様ならきっと勝ってくれるはずだ。
「大丈夫。ユマ様なら勝つ。わたし達の里も救ってくれたんだもん」
「ですね」
アーシャは祈りながら、ユマ様のことをじっと見ていた。
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