第23話 あれから半年

 アルクスの里のことがあってからだいたい半年後。

 俺は領都であるグレイロードで矢の訓練をしていた。


「では、次は剣に魔力を流してみましょう」

「分かった」


 俺はナーヴァに言われた通りに剣に魔力を流す。


「アーシャ! やってください!」


 シュパッ!


 100メートルほど遠くにいたアーシャは頷いて、魔力の籠った矢を俺に向けて放つ。

 彼女の矢は放物線を描き俺に向かってくる。


 キィン!


 俺は矢の軌道を読み、剣で叩きふせた。


「流石ですユマ様。半年でここまでの技量になられるとは……」

「ナーヴァの指導のお陰だよ」

「いえ、ユマ様の努力と才能のたまものでしょう」


 そう言ってくるナーヴァに、俺はなんとも言えない。


 日本人としての謙遜けんそんと、この体の才能の果てのなさを考えるとなんと言ったものか。


「しかし、それだけ教えるのが上手ければ、魔法を教えてはくれないのか?」


 騎士団長に教えてもらう。

 そう思って父にも打診していたんだけれど、騎士団長は未だ北部を離れられないらしい。

 そろそろ帰ってくるとは聞いているけれど、全然来ない。


「残念ながら私はそこまで魔法の扱いが得意ではないのですよ。なので、指導するのはご遠慮させてください。それに……そろそろ私の指導もする必要はないと思います」

「そうか……残念だ」


 彼の指導はとても上手で、彼らをグレイル領に編入してから半年間、とてもよくしてくれた。


 アーシャもなぜかついてきてくれたけれど、一緒にする訓練は楽しかった。

 まぁ……ほとんどしゃべらないので、どう思っているかは分からないけど。


「それに、流石に里を開け過ぎました。長老達がやってくれているとはいえ、そろそろ戻らないと……」

「そうか……無理に引き留めることはできんな」

「その代わりと言ってはなんですが、アーシャを置いて行きます。戦場にも連れていってください。きっとお役に立つでしょう」


 彼はそう言ってアーシャを見ると、彼女はいつの間にか戻ってきていた。


「うん。わたしも戦場に立つ」

「……いいのか?」

「構わない。あなたの力になる」

「そうか。助かる」

「いい、むしろ、もっとやって欲しいことがあったら言ってほしい。なんでもするから」

「なんでも……そんな気軽に言う言葉じゃないぞ」

「……」


 俺がそう言うと、なぜだかちょっとブスッとした顔になる。

 本当にちょっとだけだけれど、彼女と一緒にいる間に少しずつ分かってくるようになった。


「……」

「……」


 なんだろうか。

 黙ったまま見つめられると矢を撃たれそうで不安になるんだけど……。


 しかし、それからはナーヴァがちゃんと取りなしてくれて、訓練をやった後に部屋に戻った。



 訓練の後は、政務の時間だ。

 俺は自分の執務室に戻ると、シュウが声をかけてくる。


「ユマ様。最近の領内の治安ですが、北側が落ち着いてきていますね。騎士団長と、ユマ様のお力で配下になったアルクスの里の弓部隊のお陰ですね」

「ああ、最初はどうなることかと思ったが、何とかなって良かった」

「ユマ様でなければできませんでしたよ」

「それにしても、議会というか急進派も大人しいな? 攻撃してきた奴らが議会を名乗った時は焦ったぞ」


 半年前に、アルクスの里が襲撃された。

 襲ったやつらは議会と言っていたけれど、俺はその相手を切り殺した。


 だから、後からお咎めがあるんじゃないのかと思っていたけれど、全く問題なかった。


「あれは議会の名を使って強引に行った軍事行動と、急進派も引き下がりましたからね。現場のサギッタの里の者が勝手に行ったこととして、何人か首が飛びました」

「ああ、現場の里の者が勝手に襲撃するなどあるか……とも思うがな」

「ほぼ確実に急進派の指示でしょうね。襲撃失敗の責任を取らされたにすぎません」

「だな……」


 俺は無事に問題がなくて良かった。

 法を犯す……なんて言われると、やはり日本人としてちょっと戸惑う部分があるからだ。


「議会の決定に関して、法を持ち出して言ってくる連中もいなかったな」

「そうですね。議会の決定と言っても国王暗殺未遂の件だけですし、その容疑も晴れました。まぁ、急進派はユマ様が法律違反を犯したと広めているようですが、まともな者達は取り合わないでしょう」

「俺が法律違反とは?」

「自治が認められている場所に勝手に侵入し、配下に置くのは許されることではない……と。なんのための自治なのか……といったことですね」

「そんなむちゃが通るとでも?」


 アルクスの里に行ったのもナーヴァに誘われたからだし、配下においたのだって彼らが申し出たからだ。

 そんなことで法律違反と言われても納得できる訳がない。


 それにはシュウも賛成なのか、苦笑して頷く。


「ええ、まともな者は思わないでしょう。それに、彼らの領地は今色々と危ないですからね。外に敵を作っておくという意味では効果がないわけではありません」

「まぁ……そういうものか」

「ええ、ですので、気にしないのがよろしいかと」

「分かった」


 コンコン。


 そんなことをシュウと話していると、部屋がノックされた。


「誰だ?」

「ゴードンです。ユマ様。旦那様がお呼びです」

「分かった。すぐにいく」


 俺はシュウに目で付いてくるか確認すると、彼は首を横に振った。


「では行ってくる」

「はい。いってらっしゃいませ」


 ということで、俺はゴードンと共に父上の執務室……といっても2部屋だけだが……隣に行く。


「おお、良く来た我が息子よ」


 そう言って父上は笑顔で俺を出迎えてくれた。


「父上、どうかしましたか?」

「ああ、お前がアルクスの里を我が領に迎えてくれただろう?」

「はい」

「彼らの活躍があってな。北部の治安維持が本格的に終わりそうなのだ」

「ということは……」


 俺が期待していたことが?

 と、そんな眼差しを父上にむけると、彼は笑顔で頷く。


「ああ、騎士団長が帰ってくるぞ」

「本当!?」


 転生してから、待ちに待った騎士団長が帰ってくる!

 これで本格的に魔法を習うことができるはずだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る