第24話 騎士団長と魔法の訓練

「ただいま戻りました。ユマ様」

「おお! 待っていたよ! セルヴィー騎士団長!」


 俺は早朝から今か今かと待っていた騎士団長が、昼前に屋敷に到着する。


 彼女は俺の姿を見ると馬から降り、水色の瞳に端正な顔を優しく微笑ませて頭を軽く下げてくる。

 白銀の鎧で身を包み、髪は鎧と同じ白銀で背中に三つ編みにして垂らしていた。

 年齢は確か20台中盤で、結構若いけれど実力は指折りだ。


「ええ、ユマ様もご壮健で」

「ああ! それよりも早く父上にあいさつをしてきてくれ! それが終わったら魔法を教えて欲しい!」


 正直1年以上も待っていたのだ。

 休んで欲しいという気持ちもあるけれど、最初の触りだけでも教えて欲しい。


「かしこまりました。報告したらすぐに参ります」

「頼んだぞ!」


 俺はそれから素振りをしたりして首を長くして待った。


 騎士団長は宣言通りすぐに戻ってきてくれる。


「お待たせしました。それでは、私に魔法を教えて欲しい。ということでよろしいのですか?」

「それでいい! 実戦で使える魔法を教えてくれ!」

「かしこまりました。それではまずは、固有魔法を調べましょう」

「分かった!」


 彼女は父上への報告をしてきた帰りに固有魔法を調べる魔道具を持ってきていた。


「固有魔法を調べていきますが、魔法についてはどの程度ご存じですか?」

「なんとなくでしか知らないから詳しく教えて欲しい!」

「かしこまりました」


 彼女はそう言って説明をしてくれるけれど、俺が攻略本で読んだものとほとんど変わらなかった。


 魔法が使える人は固有魔法を持ち、その範囲の中で魔法を使える。

 火魔法が使える者は一生火魔法しか使えない。

 そして火魔法の範囲とは、想像できる火で作れる影響の範囲だ。


 火魔法で敵を燃やせる想像をしたら、それを実現するように魔法を発動していくことになる。


 例外として2種類以上の魔法を覚える者もいるが、基本的にはほとんどいない。


「私の固有魔法は氷魔法。この様にして使えますね」


 セルヴィーがそう言って手を横に振ると、地面からつららが5本一瞬にしてそそり立つ。


「これで敵を串刺しにしたり、壁にしたりすることができます」

「すごい!」

「では、ユマ様の固有魔法は……」


 彼女は俺の手を握り、俺の身体に魔力を通してその反応を見る。

 その魔力の反応の変化で、固有魔法が分かるらしい。


 と、彼女はわざわざ固有魔法調べてくれているが、俺は知っている。


「これは……斬魔法?」


 斬魔法。

 それはこのゲーム中で持っているのは俺だけというかなりのレアな固有魔法だ。

 効果としては、対象を斬る。

 という単純なもの。


 でも、これは極めればぶっ壊れレベルで強い強力な魔法なのだ。


「斬魔法……これはどういう魔法なのでしょうか……?」

「何かを斬る魔法……ということでいいんだろうか?」


 一応初めて聞きましたというていを取る。


 騎士団長は人差し指を顎に当てて顔を倒して考える。


「多分……そうだと思います。まぁ……とりあえず、やってみますか」

「はい!」


 それから、俺は彼女の魔法指導を受ける。


「ではまずは魔力を感じ取るところからやっていきましょう。木の……」

「あ、それはできる」

「まぁ、本当ですか?」

「はい。アルクスの里の長、ナーヴァに教えてもらった」

「それは素晴らしい。後はそれを自身の想像で現実世界で形作り、魔力を込めて完成させるだけです。私の場合ですと、その視線の先、先ほど出したつららの大きさと全く同じ物をどこでも出せるように決めています」

「なるほど、いつも同じ大きさの物を考えておくことで、発動速度をあげているのだな」

「その通り。素晴らしいですね。ユマ様。早速ですが、私の作ったつららを斬ってみましょうか」


 ということで、セルヴィーが作ったつららを俺が魔法で切り裂くというところからだ。


 魔法を想像して……斬る。

 斬る想像って一体どうやるんだろうか。


 目を閉じて集中する。

 そして、5分ほどハッキリと斬る。

 斬る……というか、その氷柱が斬られた状態になるというイメージ。

 そう意識して、俺はその現実を作るように魔力を込める。


 スパッ!


 目の前のつららの一つが、俺が想像した通りに斜めに斬れた。


「すごいですユマ様! こんな簡単に発動できるなんて……」

「簡単じゃない……戦場で5分も目を閉じていたら死ぬだけだ」

「そうですね。そのことまで考えていらっしゃるとは、とても素晴らしいです」

「もっと教えてくれ。どうやったら発動を早くできるんだ?」


 俺は最強にならないといけない。

 死にたくないのだから、俺は最強にならなければならない。

 そして、逃げる……という選択肢も、俺には残されていない。


 どこか遠くの国に行けば、俺は生き残れるかもしれない。

 でも、体の奥底から湧き出る何かが、それを許さない。


 だから、魔法も最強になるまで習得しなければならないのだ。


 セルヴィーはゆっくりと頷いて教えてくれる。


「慣れです」

「慣れ……」

「はい。ただひたすらに想像して、そしてそれを繰り返すのです」

「それ……だけ?」

「それだけです。強くなることに近道などありません」

「お、おう……」


 それから、俺はただひたすらに想像と魔法の発現を繰り返した。

 セルヴィーはそれに文句も言わず、付き合ってくれる。


「ねぇ、何してるの?」

「アーシャ……魔法の練習だ」

「魔法! もしかして……わたしも教えてもらえたりする?」

「セルヴィー。いいか?」

「もちろん構いませんよ。アルクスの里の方々には北部で助けていただきましたから」


 ということで、アーシャも魔法を習得することになった。


「隠蔽魔法……?」

「そのようですね。これもかなり希少な魔法のはずです。自身の気配を極限まで消せる魔法だったと聞いています」

「待ち伏せに最適」

「ええ、その通りです。ですが、部隊全体にまでかけられるとより凶悪さを増すでしょう」

「できるの?」

「アーシャならできるさ」


 セルヴィーとアーシャの会話に俺は思わず言ってしまう。


「……本当?」

「……ああ」


 ゲーム時代の記憶で断言してしまったけれど、もう引き返せないから頷いておく。


 終盤では強力な弓部隊を相手の本陣の後ろまで隠蔽魔法で連れていき、弓にも隠蔽魔法を乗っけて相手の大将を討ち取ることだってできる強力な魔法だ。

 気付けなければ意味はない。

 気づいた時には死んでいる。

 下手をしたら俺の未来になっているかもしれないとても強い魔法だ。


「わたし、頑張る」

「ああ、頼りにしている」


 後ろから撃たないでねという言葉は飲み込んでおく。


 それから、俺とアーシャはセルヴィーに魔法を習い続けた。

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