第22話 急進派では
「ふざけるな!」
「ひぃ」
そう怒鳴るのはヘルシュ公爵で、その怒りは報告したサギッタの里の者に向けられていた。
部屋には以前と同じように急進派の3人に、サギッタの里の者しかいない。
「どういうことだ? アルクスの里の急襲に失敗した……そう聞こえたが?」
「は……はい。里に恐ろしく強い者がいたらしく、生き残りは10人もいない……と」
「貴様らはそんなにも無能だったのか!?」
「ち、違います! ユマ・グレイルという者のせいです! 奴のせいで精兵達の半分以上が殺されたと聞いています!」
「ユマ……グレイル?」
ヘルシュ公爵は少し考えて、机に拳を叩きつける。
「グレイルの……あの腰抜けの息子か! 余計なことをしてくれて……」
ヘルシュ公爵は激情に駆られているが、それを静めるべく急進派の1人がなだめようとする。
「まぁまぁ、公爵殿。アルクスの里の兵士達はこちらの手の中にあるのです。その者達を処刑してしまえば、アルクスの里の自体の戦力低下は避けられません」
「それができればさっさとしておる! だが、今となってはそんなことはできん!」
「は……何故ですか?」
「アルクスの里の者がグレイル領に編入されることはすでに決まり、グレイル領に直ちに戻すように、そう言った指令書が我が領地の代官に届いていて、その旨を代官が了承した」
ヘルシュ公爵はそう言って頭を抱えながら答える。
その言葉に、急進派の貴族が顔をしかめた。
「なんと無能な……」
「いや、今回は仕方ない。嫌疑をかけられているというだけで処刑等したら我々が何かやりましたと言っているようなものだ。その嫌疑の元である里を滅ぼしてからでなければできん。だから、そうならないように、里を襲い証拠を作ってからさっさとやろうとしたのだが……防がれてしまってもう無理だ。強引に処刑をすることはできるが、そんなことをしたらベイリーズが本気で我々に牙をむく」
「蹴散らしてしまえばよろしいのでは? 所詮は穏健派、そこまでの武力はありますまい」
「グレイル領には優秀な者がいる。騎士団長は今忙しくしているそうだが……そろそろ落ち着くだろう。それに、勝てたとしてもこちらの損害がバカにならん。我々が疲弊した所を王達中立派閥や、他国に持っていかれることも阻止したい」
「なるほど……」
「問題は他にもある、今回のことでユマ・グレイルの名も広まるだろう。その勇名、やつの元部下になりたいと言う者も増える。戦力差はまだあるが、戦争になるようなことは今はまだ避けねばならん」
彼がしばらく考えている所に、もう一人の貴族が話しかける。
「では、奴らの息子を攻める。というのはいかがでしょう?」
「どういうことだ?」
「今回、ユマ・グレイルという者が名をあげてしまった。ですが、それを……我々の手で、公衆の面前で分かりやすく落すのです。これをすれば、奴らの力が増すのを防げるのでは?」
「どうやって?」
「半年後ですが、我が領地にて武芸大会を開くことが決まっております。王都ほど大規模ではありませんが、それでも多くの者が来るでしょう。そこに奴を呼び寄せ、強者ばかりが当たるようにするのです。そうすれば、奴がいかに強かろうと負けるでしょう。そうなれば名声は地に落ちるかと」
「なるほど。それはいい案だ。そのために我々の領地の強者も送ろう」
「はい」
ヘルシュ公爵はいい案だとでも言う様に、その言葉を聞いて笑う。
「では、奴の名声を落とす。そのためには……あいつにも働かせるか」
「あいつ……とはあいつのことですか?」
「ああ、扱いずらいが魔法に関しては一級だ。働かせよう」
「お待ちしております」
そう話が決まったところで、サギッタの里の者が口を開く。
「あ、あの……アルクスの里にかけた嫌疑は……晴らされたのですか?」
「その話か……ああ。情報を集めると、無理だ。本来であれば、里に引きこもっているのをいいことに嫌疑をかけようと思ったが、何を思ったかその期間をグレイル領で過ごしている。グレイルというか、ベイリーズは国王の信頼も厚い。だからそこに嫌疑をかけると国王も徹底的に調べようとしてくるし、中立派もそこまでになったらこちらの言葉を聞きはすまい。こうなっては無理だ」
「かしこまりました……」
「それと、お前達の里で少し生贄を用意しておけ」
「はい? それは……どういう……」
サギッタの里の者は驚いて目を丸くするが、公爵は当然だろうというように面倒そうに彼を見る。
「お前達が失敗したのだ。その責任は取らなければならない。今回は嫌疑を確かめるはずだったが、お前達の一部が暴走した。という筋書きだ。理解しろ」
「……し、しかし。つい少し前に精兵が減ったばかりで……」
「お前達が弱いのが悪い。それとも何か? アルクスの里の代わりにお前達が消えるか?」
「……かしこまりました」
公爵達は今後のことについて話し合う。
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