第21話 アルクスの里の提案
「ふぅ、なんとか……終わったか」
「はい。我々も怪我人が出ましたが、幸い死者はおりません」
「そうか。動ける者は里の者達を手伝ってやってくれ」
「かしこまりました」
ルークはそう言って兵士達に今のことを伝えに行く。
俺は今一度周囲を見回す。
周囲では亡くなった方達が集められていた。
バメラルの村の時とは状況が違う。
村の兵士に被害は当然出ていたが、襲ってきた野盗達に勝ったという高揚感があった。
でも、今は民達が殺されて、悲しみにくれている人達ばかりだ。
「……」
そんな人達は俺は見つめていると、1人の女性が近寄ってくる。
「ユマ様……でよろしいでしょうか」
「ああ、そうだ」
俺がそう答えると、彼女はスッと頭を深く下げる。
「アルクスの里を救って頂いてありがとうございます」
「気にするな。お前達が無事でよかった」
「はい。ありがとうございます。あなたが居なければ……この里は滅んでいたと聞いています」
「そんなことはない。お前達だけでもきっと問題はなかっただろう。その強さに誇りを持つといい」
「ありがとうございます。しかし、あなたが助けてくださったこと、決して忘れません」
「ああ」
「失礼いたします」
そう言って彼女は歩いてどこかに去ってしまう。
俺はどうするべきか。
何か手伝えることはないかと誰かに話しかけようとすると、アーシャに声をかけられた。
「ユマ様」
「ん? どうしたアーシャ」
「父さんが呼んでいる。来てほしい」
「分かったすぐいく」
俺は彼女について行くと、俺が寝泊りしている里長、ナーヴァ達の家だった。
「入って」
「ああ」
それから彼女の案内で、ナーヴァの執務室に入る。
中には彼の他に、かなり高齢の老人が1人立っていた。
「おお、良く来て下さった。感謝します」
ナーヴァはそう言って、部屋の中にあるソファを俺に勧める。
俺はそこに座ると、反対側にはナーヴァが座りその後ろにはアーシャと老人が立つ。
「俺を呼んでいるということだが、何かあったのか?」
「何かあったか……と言われれば、今回の襲撃のことです」
「俺の責任だとでも?」
この重たい雰囲気に、何か嫌な物を感じる。
もしかして、俺がここに来たから、襲われた……とでも言うつもりだろうか。
……いや、流石にそれはないだろう。
だが、何か重要なことではあることは確実だ。
「滅相もありません。そのようなことは口が裂けても言いません。我々がお願いしたいことは、このアルクスの里をグレイル領に編入……もしくは、ユマ様の直轄地として、受け入れていただけないでしょうか」
「……はい?」
俺は思わず目をシパシパさせて彼に聞き返す。
俺の聞き間違いでなければグレイル領に編入……もしくは俺の直轄地にしたいとか聞こえたけど。
「ユマ様にこのアルクスの里を治めて頂きたいのです」
「ふー……」
それは息を吐いてソファの背もたれに体を預ける。
助けるつもりではあったけれど、まさかそこまでのことになるとは……。
ここでいいよ! って言うこともできるけれど、そんなことをしたら議会とのこととか……どうなるんだろう。
考えるだけでも面倒だけれど、とりあえず、言い分を聞いてみよう。
「とりあえず、その結論になった理由を聞こうか」
わかんないと思われないように、俺は威厳たっぷりに言う。
「はい。今回のこと、議会の提案だと聞きました。それに、その議会が今回、かなり強引に我々を消そうとしているようです。なので、このまま独立を保つことはできない。であれば、信頼できるユマ様に治めていただきたいと思っています。ユマ様に治めていただければ、グレイル領になるということで、議会の彼らも手出しできないと思ったのです」
「なるほどな」
「それに、ユマ様にもメリットはあるかと。今はヘルシュ公爵の領地にいますが、我が里の弓部隊がそちらに派遣されています。その全てを、今後ユマ様に指揮していただけることになります。この国を代表する弓の里だという自負はあります。ですので、受け入れていただけませんか」
「ヘルシュ公爵……」
俺はその名前に警戒心を覚える。
ヘルシュ公爵は主人公ルートでもユマルートでも敵に回るとても厄介な奴だ。
統率や武力は高くないけれど、知力と政治がかなり高く、からめ手も使ってくる厄介な敵。
そう考えると、今回のことももしかしたら……。
「分かった。その提案を受け入れよう。お前達アルクスの里は今後グレイル領に編入とする」
「ありがとうございます! しかし、父上に相談しなくてもよろしいのですか?」
「ああ、父上なら歓迎して喜んでくれるだろう。それに、これは急いだ方がいい気がするからな」
今回奇襲のような形でことが起きてしまった。
また同じように何かしてこないとも限らない。
だから、急いでここに兵士を派遣できるように、さっさと編入してしまった方がいいだろう。
「ではすぐに手紙を送る。足の速い者を選んでおいてくれ」
「ありがとうございます。ユマ様。今後、一生をかけてこの御恩を返させていただきます」
「……しかし、いいのか? 他の者達に相談しなくて」
「すでに相談しております。ユマ様であれば、問題ないと」
「分かった。すぐに手紙を用意する」
それから、俺はことのいきさつを急いで書き、シュウにここに兵士を送ったりできることを対応しておいてくれと書いた。
その際に、俺の名前を使ってもいいと言うことも書いておく。
「ま、シュウならきっとなんとかしてくれるだろう」
俺は手紙を書いて、それを連絡係の者に渡す。
******
僕はシュウ、ユマ様とベイリーズ様の代理でグレイル領の政務を代行していた。
一応、監視ということで、ゴードン殿が僕を見張っている。
彼はそんなことしなくてもいいだろうと言ったのだけれど、僕が居てもらう様に頼んだ。
裏切るつもり等全くないが、他の臣下が疑う可能性がある。
その可能性を少しでも潰すためだ。
コンコン。
「入れ」
「失礼します」
入って来たのは、先代から側に居てくれる腹心の部下だ。
彼は目くばせでゴードンに出て行ってほしそうにする。
ゴードンもそれを感じ立ち上がろうとするが、僕はそれを止めた。
「お待ちください。ここで話しても構わない」
「しかし、よろしいのですか?」
「ええ、それで?」
ゴードン殿の言葉に僕は返して、部下に先を促す。
「ユマ様です。緊急でアルクスの里を守るための兵士を派遣するように……とのことです」
「何?」
訳が分からず聞くと、彼はそっと手紙を差し出してくる。
そこには信じられないことが書いてあった。
あの剛弓で誇るサギッタの里の兵士達を切り倒し、アルクスの里を守り切った。
さらに、その里をグレイル領に編入することを決めてしまうなんて……。
サギッタが……いや、議会がそこまで強引な手に出てくるのは想像できていなかった。
でも、ユマ様はそれを知っていたのだろうか? そんな危険な場所に送り込んでしまった後悔はあるが、ユマ様の功績を聞くとそんなことをしていられない。
「流石……流石です。ユマ様。まさかここまでとは……」
「お手紙を拝見しても?」
「ええ、どうぞ」
僕は手紙をゴードン殿に渡す。
「これは……」
「すごいでしょう? アルクスの里の人を紹介したのは僕ですが、繋がりでも作れればいい。それくらいで考えていました。ですが、それ以上のことをあの方はやってくださる。しかも、今後のことを僕以上に見えているのかもしれません。これから、色々と手を打ちます。ユマ様はすでに承知しているでしょうが、一応ゴードン殿もご確認ください」
「え、ええ。分かりました。何をなさるのですか?」
「まずは……」
僕はそれから、ユマ様が望んでいるであろうこと。
そして、懸念していることを払拭するために伝令を各所に送った。
ここまでやっておけば、ユマ様の希望に応えられただろうか。
その答えはすぐに出るだろう。
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