第20話 決断

「さぁ! 早くその女の首を刎ねろ!」


 アルクスの里を焼いている男は叫ぶ。


「……じゃあな」

「……なん……で……」


 俺は目の前の男の首を刎ねた。


 奴の目は驚きで見開かれていて、こと切れる最後の瞬間まで大きく開いていた。


「いいの?」

「何がだ?」

「だって……これは議会の……国の決定なんでしょう? それを破ったりしたら……」


 アーシャの言うことは当然俺だって分かっている。


 だが、こんな一方的に里を焼くのが国のすることだなんて思えない。

 もしそうだとしたら、俺は絶対に許さない。


「アーシャ。俺はこの里には今日来たばかりで、詳しいことを知っている訳じゃない」

「なら」

「でも、こんなことをされるような人達だとは思わない。こいつらの言葉がたとえ真実で、議会からの派遣だったとしてもここまでのことは許されないだろう。だから俺はこのアルクスの里を守るために戦う。問題あるか?」

「……ない。協力感謝する」

「いい。今は1人でも多く助けるぞ」

「うん!」


 それから俺達は里をぐるりと回る感じで敵を殲滅していく。

 途中結構な敵も倒れていたので、恐らく里の中から反撃を食らったに違いない。

 そして、50人以上倒した頃には、周囲は静かなものになっていた。


「アーシャ。一度里の中に入ろう」

「うん」


 俺達は撃たれないように慎重に里の中に入る。

 隣にアーシャがいてくれたお陰か、撃たれることはなかった。


「アーシャ! こっちに!」


 そうしてゆっくりと里の中に入ると、建物の中からナーヴァが声で呼ぶ。


 俺達はその建物に入ると、中は負傷者と女子供で座り込んでいる場所だった。

 そこで、ナーヴァはアーシャを抱きしめる。


「無事だったか!?」

「うん。ユマ……様が助けてくれた」

「そうか……ユマ様。この度は本当になんと感謝していいのか……」


 ナーヴァの言葉に、俺は淡々と返す。


「気にするな。それよりも消火はいいのか?」

「したい所ですが、まだ敵の兵力はどれだけあるのか分かりません。不用意に出ては……しかし、ユマ様はよくご無事でしたね……。敵に狙撃されてもおかしくないのですが……」


 そう言って彼は後ろにいる狩人達を一瞥いちべつした。


「敵の数は恐らく100人。そのうち50は切り捨てた。後はお前達がどれだけ倒したかだな。必要であれば俺もまた出撃しよう」

「そんな……いつの間に……」

「俺達は魔力の訓練をしようとしていたからな。それのお陰で里の外から敵を狩れたんだ」

「ありがとうございます……そのまま逃げる選択肢もあっただろうに……」

「ない。俺にお前達を見捨てる選択肢はないぞ」

「……」


 俺がそう言い切ると、ナーヴァは黙り切ってしまう。


「それで、これからどうする。沈黙している時間はない」

「そうでした。失礼いたしました。ですが、問題が一つ」

「なんだ」

「敵の中でもっとも強い者がまだ生きております。先ほどから村の中に強烈な矢を打ち込んでいるのです」


 ナーヴァがそう言ったかと思うと、近くの建物で爆発音がした。


 ドッゴオオオオオオン!!!


「これは……俺達が見過ごしたか?」

「相手はサギッタの里でも《暗雲轟雷》の異名を持つ奴です。敵が近くにいれば雲のように隠れ、矢を放つ時は轟雷の様に撃ち抜く。油断できない相手です」

「なるほどな。なら……そいつを倒さないことには話は進まない訳だ」

「ですが、私よりも飛距離も長く、場所も分かりません」

「なら、こうするしかないな。アーシャを借りるぞ」

「ユマ様!?」


 俺はそう言って、堂々と建物の外に出る。


「アーシャ、俺が奴の場所を特定する。後は分かるな?」

「わたしでいいの?」

「お前に背を預けたんだ。次も頼むぞ」

「……うん」


 それから俺は弓矢を持ち、そして、右手に剣も持った状態で進む。


 そして、森に目を凝らしながら進むと、アーシャの声がした。


「来る」


 俺の正面から高速で飛来する何かに向かって、俺は瞬間的に矢を放つ。


 バギ!


 しかし、その矢は相手の豪弓で弾き飛ばされる。

 でも、少しでも弱った矢なら。


 ダン!


「フン!」


 俺は強く踏み込み、その矢に剣を叩きつける。


 バギャァ!


 俺がその矢を叩き壊し、敵の方をにらみつける。

 でも、これはあくまで囮。


「ありがとう。後は……任せて」


 シュパッ!


 アーシャが矢を放ち、それから矢が飛んでくることはなかった。


 確認のために森の奥に入ると、遠くの場所で新しい血が滴り落ちた跡があった。


「ごめんなさい。仕留めきれなかった」

「いや、俺では見えない敵に当てただけでも十分だ。それに、今は里の者達を助けるのが先だ。戻ろう。むしろよくやってくれた」

「ううん。ユマ様のお陰、あなたがいなかったら、わたしか父が死んでいた。ありがとう」

「それは……とりあえず里を助けてからだな」

「うん」


 それから俺達は残りの敵がいないか入念に確認しつつも、里の消火作業にあたり、夜が明ける頃には全てが終わっていた。

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