第19話 アルクスの里、炎上
「急いで戻る! アーシャはそこで待っていろ!」
「わたしも行く!」
俺が走り出すと、彼女もそう言ってついてくる。
「戦場になっているかもしれない! それでもいいのか!」
「わたしは狩人! いつだって戦う準備は出来ている!」
「分かった! だが無理はするなよ!」
「うん!」
俺達は走って向かう。
一応、護身用と訓練のために剣と弓矢は持ってきてある。
そして、里に向かっている途中で、俺とアーシャに向かって矢が放たれた。
キィン!
俺は持っていた剣でそれを弾いて大声で問う。
「誰だ!」
「……」
しかし、それに返事はない。
「あそこ!」
アーシャは突然高さ5ⅿくらいの高さの木の上を指す。
「! 食らえ!」
俺はアーシャに教えてもらった箇所に矢を放つが、敵は素早いのか当たらなかった。
というか、まだ教えてもらって数日。
実戦で使うには早すぎるか。
「なら……こうするしかないな」
俺は比較的距離の近い木を壁蹴りの要領で登っていき、敵がいる木の上に出る。
「な! どうやってぎゃあああ!!!」
敵は狩人のような見た目をした相手で、話すことすらせずに矢を向けてきたのですぐさま切り捨てた。
俺はその死体を持ってアーシャの元に向かう。
「こいつを知ってるか?」
「その服装は……サギッタの里の……」
「サギッタ? なんでサギッタの里の連中が……」
「分からない。でも、わたし達と仲良くはない。だから、里に急がないと」
「分かった」
それから村に近づくに連れて、状況が分かっていく。
村には火が放たれていて、中で狩人が必死に戦っているけれど、多勢に無勢。
敵は暗い森の中から、火で明るい村の中にいる人々に矢を放って殺していた。
村の中には老人も女子供も関係なく倒れていて、この村そのものを滅ぼすつもりのようだ。
「許さない……」
アーシャの瞳は燃えていて、無表情な顔は激情に歪められている。
そんな彼女の顔を見て、俺は即座に提案した。
「俺が先陣を切る。お前は俺の後ろから矢を撃って援護してくれ」
「あなたは関係ない。これはわたし達の里の問題」
「ナーヴァには弓矢と魔力操作を習っているんだ。関係ないとは言わないだろう」
「……」
「話している時間がない。周囲の敵をとりあえず掃討していくぞ」
「分かった」
俺達はそれから里を囲っているであろう敵を見つけ次第即座に切り飛ばしていく。
基本的に里の中を狙うことしか考えていないのか簡単だった。
「ユマ様すごい……おいて行かれそう。わたし、役に立ってる……?」
「アーシャの援護、頼りにしている」
「ユマ様が先を行ってくれるからできてるだけ」
「なら俺はアーシャが後ろを守ってくれるからいけるんだ」
「………………」
そんなことを話しながら進む。
そんな後ろにいたアーシャの援護はとても助かった。
登るのに苦労しそうな敵を撃ち抜いてくれたおかげで、敵を殲滅するのがずっと速くなった。
このままいけば周囲の敵を一掃できる。
そう思っていた。
だが、
ゴゥ!!!
「!!??」
ガィン!
俺はなんとか剣で矢を止めるけれど、思い切りのけ反り木の上から地面に落ちる。
なんとか着地は出来たけれど、即座に横に飛び込む。
ドゴォン!!!
俺のいた位置に矢が突き刺さり、矢とは思えないような爆音と土が舞う。
「クソ……これが魔力操作を使えるやつ……ってか」
ナーヴァが見せてくれた魔力操作がされた矢だ。
俺は大木の後ろに姿を隠すが、ここからどうするか……。
ドゴォン!
「何?」
音がして、もしかして……と思ったが違った。
俺のいる木を貫通させようとしているのではなく、奴は里の中に向かって矢を放っている。
「ぐあああ!」
俺が来たことを知ったからか、里の中の連中が障害物を使って援護の矢を放つ。
そして、その反撃に障害物ごと貫通して殺されていた。
「やばいな……」
俺が今いるこの木はなんとかなるが、これより細い木では貫通されてしまう。
そして、俺もこのままではただ里の中の人達が殺されるのを見ていることしかできない。
死にたくない。
俺は死なない為に強くなろうとしていて、この1年間やってきた。
だが、ここで行ってしまったら……。
「だけど、領地の民達が殺されるのを、見ているだけ……それは違うよな」
心の奥底でユマが叫ぶ。
彼らを守れと、お前はそれだけの力があるんだと。
「行くか」
俺は覚悟を決めると、瞬時に木影から飛び出す。
「出たぞ!」
「バカが! 貫いてやる!」
その声で敵の大体の位置は分かった。
あとは……賭けだがやるしかない。
俺は声のした方を凝視し、来たと思った瞬間、少しだけ右にそれる。
ドゴォン!
俺の左頬を矢が掠め、そのまま俺の背後の地面をえぐる。
「かわした!?」
「次を撃て!」
そして、更に次の一発も俺はかわし、奴らの木に近づく。
「く、来るぞ!」
「慌てるな! 登ってくる瞬間を狙え! その瞬間なら無防備だ!」
「そ、そうか!」
正解だ。
俺がまた壁登りの要領で同じことをしたら、俺は剣で弾くことはできない。
だから、このままでは俺は殺されるだろう。
だが、
「ぐぁ!?」
「何!?」
奴らは、俺を貫こうと木の下を見るために乗り出している。
そんな如何にも撃ってください、という奴は俺の後ろから飛んできた矢に貫かれて落ちる。
もう一人が上で慌てているのが分かる。
俺はその隙に木を蹴って上に登った。
そして、敵が振り返る隙を与えず、弓の弦を切って首筋に剣を当てる。
「さて、お前は偉そうだな。一応聞いておこう。ここにお前達の狩人は何人来ている?」
後は剣を横に引くだけ。
それだけで奴の命は斬り落とされる。
奴は腰を抜かし、木の上に両手を付きながら命乞いをする。
「た、助けてくれ。話す。なんでも話すから……」
「それで、何人だと聞いている」
「100人だ! 100人で囲っている!」
「そうか……なぜこんなことをしている?」
「議会! 議会の命令なんだ! だから俺は悪くねぇ!」
「議会?」
俺は信じることができずに、思わずそう漏らしてしまう。
父上が今回のことに加担している?
だとしたら……俺はそれを邪魔している?
そんな俺の様子を見て、奴はいやらしそうに二ヘラと笑う。
「へへ、そうさ。そうなんだ。これは議会の決定だ! つまり、お前は法に逆らっている! このノウェン国全てを敵に回すつもりなのか!? その格好、この里の人間じゃないんだろ!? ならお前は殺さなくてもいい! ちゃんと上にも報告してやる! だからちゃんと考えろ!」
「……」
「違うと思うなら! その後ろにいる女の首を刎ねろ! そうしたら今回のことはなかったことにしてやる!」
俺の後ろにはいつの間にかアーシャが来ていた。
彼女は何も言わず、じっと俺を見ている。
「さぁ! 早くしろ! ノウェン国全てを敵に回すのか!」
「……」
俺はその言葉に、行動でもって答えた。
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