第18話 ナーヴァ視点と魔力操作訓練
「それでは、魔力を感知する訓練から始めましょうか」
私はナーヴァ。
このアルクスの里の長で、アーシャの父だ。
今は娘やユマ様、それに彼の護衛である兵士達に魔力操作の基礎を教えているところだが……。
「化け物だな……」
私の呟きは誰の耳にも入っていない。
でも、人前で言っていい言葉ではないだろう。
だが、それを言いたくなるほどに、ユマ・グレイルという男は桁違いだった。
最初に弓を教えろ、そう依頼が来た時は顔が曇ったけれど、あのシュウと、ヴァルガスの言葉であれば耳を貸してもいいと思った。
そして、実際に教えてみて想像を超えるような存在と出会う。
弓を教えてすぐに課題はクリアし、もっと先へ、もっと多くをという様に行動している。
あれだけ簡単にできる才能があるのに驕らず、ただ愚直に訓練を続けていた。
私の訓練は確かに効果があることは自負している。
だけれど、それの道中は平坦でつまらないことが多い。
それを乗り越えられるかどうかが分かれ目なのだけれど、ユマという男はそれを黙々とやる。
まるで、やらねば死ぬというほど追い詰められているのか。
そう錯覚してしまいそうなほどだ。
これだけの若さであぐらをかかず、さらに夜には自主練でやり続ける。
領主の息子で無かったら息子にしたいくらい優秀でいい男だ。
アーシャも気にしていたし、してもいいかもしれない……。
いや、今はそれではない。
彼のやる気と才能を認め、より上の訓練をさせようと里に招いた。
その結果、彼の才能は自分が考えていた以上だと言うことを知ることになる。
「どれだけ天は彼に与えれば済むのだ」
今、彼は魔力を感知し始めていた。
そして、それを扱う寸前まで来ている。
1週間で天才だと思っていたアーシャを抜き、戦いの才能が花開こうとしている。
そんな彼を見ることができて、私としては満足してしまう。
これほどの高みに昇る存在に1週間だけとはいえ、師匠として名乗る栄誉を預かれるのだから。
だからこそ、私が教えられることは、全て彼に教えてみたい。
私が教えた更に先に、彼は辿りつけるかもしれないのだから。
私は、彼らに付きっきりで魔力操作を教える。
これができれば、彼らはより強くなれるから。
******
「さて、今日はそろそろいい時間です。魔力操作の訓練はこれくらいにしましょう」
「ああ」
「……はい」
「ありがとうございました……」
俺はそこそこ、アーシャは我慢している、ルークはへばっている状況だった。
木の洞の中でじっと自然を感じ続ける。
よくわからないが、精神的には確かに疲れた。
でも、これで……本当に強くなれるのか、少しは疑問が残る。
「さて、せっかくなのです。皆さんが魔力に力を使う時はどうするのか。それを最後にお見せしましょう」
「おお、見てみたかったんだ」
「では、これは……サギッタの流儀の剛弓です」
ナーヴァはそう言って、弓に矢を番えて力いっぱい引き絞り、岩に向かって放つ。
岩!?
と思う間もなく、目にもとまらなぬ速度で矢は宙を切り裂き、岩を貫通した。
ズドォン!!!
俺は岩の後ろに見に行くと、矢は岩を1ⅿほど貫通し、後ろの木に突き刺さっていた。
「すごいな……」
「ええ、ユマ様。戻って来てください」
「? ああ」
「そして、これが我がアルクスの里の流儀です」
ナーヴァはそういいつつ、弓を軽く引き絞り、さっきの岩の右辺りに矢を放つ。
ググ!
「おお!」
その矢は先ほどの速度はないが、左にググッと曲がった。
その先は、先ほど木に突き刺さった場所と寸分たがわぬ場所に突き立っていた。
「この精密射撃が我々アルクスの里の流儀です。ユマ様にはぜひとも教えたい所です」
「教えて欲しいぞ!」
「では、まずは魔力操作を覚えて下さい。それを覚えたら、魔力を武器に流し込む訓練です」
「分かった! やるぞ!」
これを覚えられたら、遠くにいる敵をやり返せる。
以前のバメラルの村の時の敵もやれたはずだからだ。
「はい。ですが、今日はこれまでです。里の周辺は安全とは言え、迷ってしまいますからね」
「この魔力操作の訓練は建物の中でもやっていいのか?」
「できればこの木の洞のように、自然の中でやることをおススメします。その方が感知しやすい。建物等の死んだものには魔力は宿りませんから」
「なるほど、分かった」
ということで、俺達は宿に戻り、食事を終えて湯あみをする。
それから、俺は早速外に出ようとしたのだけれど……。
「今日も訓練?」
「……ああ、アーシャは?」
「わたしも行く」
「分かった」
じっと魔力操作の訓練をするだけなのにどうして……?
と思わないでもないけれど、強くなりたいというのであれば止めるつもりは基本的にはない。
っていうか、殺さないで欲しいので少しでも好感度を高くしておかないと。
それから、アーシャの案内で俺達は先ほどと同じ静かな場所にいき、魔力操作の訓練を始める。
結構な時間を集中して過ごしていると、なんだか里の方で変な感覚を感じた。
「これは……?」
俺は目を開け、里の方を見る。
隣にはアーシャも感づいたのか、俺の隣に立っていた。
でも、俺の視線は里の方に釘付けになるしかなかった。
「里が……燃えている?」
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