第16話 ベイリーズ・グレイル視点 議会では

「それで息子がな? 突然人が変わったかのように素晴らしくなったのだよ。強かったが今はそれ以上で、民達にも人気が出始めてな。そろそろここにも連れて来ようかと迷っているんだ」


 私はベイリーズ・グレイル。

 グレイル領の領主である。

 今は国政を定めるための議会の場所に来ていて、同じ派閥である2人に自慢の息子の話をしていた。


「ベイリーズ、何度その話をするつもりだ……」

「しかし今後を一緒にするのであれば、知っておくべきではあろう?」

「だからと言って1時間も自慢をしているだけではないか……」

「それくらい知っておいてもらわねばならないのだ。仕方ないだろう」

「親バカが」


 彼がそう言って来たので、そんなことはない。

 私が返事をしようとした時、部屋がノックされる。


「失礼します。準備が整いましたので、会議室までお越しください」

「分かった」


 私は同志2人と共に、会議室に行く。


 そこには既に他の者は席についていて、私達が席につくのを待っていた。


「それでは始めようか」


 議長である国王がそう言う。

 彼はこのノウェン国の王であり、威厳ある表情にそれに相応しい服を着ている。

 年は40を過ぎたあたりだが、衰えは全く見えない。


 彼が死なないように見えることが、今私にとって息子の次に大事なことかもしれないと思う。

 彼が生きているから今この国はまとまっていて、この議会も決定的に割れずにすんでいるからだ。


 議会は今、国内の悪い雰囲気を払拭するための方針で割れていた。

 隣国に戦争を仕掛け、領土や利権を奪いにいこうと主張する急進派閥の3人と、それに反対する私達の穏健派閥の3人、そして、国王がバランサーとなっている中立派閥の4人で構成される。

 それぞれが主張を持ちつつも、王が間に入っているので、なんとかバランスは保たれている。


 そんな国王が話を続ける。


「本来は事前に定めた議題だが、緊急の議題ということで、先に提案があるのだな? ヘルシュ公爵」

「はい。実は不届きな噂を耳にしまして、その調査を行いたいと思っております」


 国王の声で立ち上がった彼は20代後半の男。

 服はきっちりとしているが、戦いやすいように動きやすい服を選択している。

 派手ではないし場にそぐわなくもないが、常在戦場でも意識しているのだろう。


 彼は私達全員を見て問う。


「実は今現在アルクスの里の者達が、陛下を暗殺しようとしているのではないか。そう言われているのをご存じですか?」

「聞いたことがないな」


 ばかばかしいが、一応貴族として答えない訳にはいかない。


 彼は話を続ける。


「当然でしょう。彼らは狩人の一族、里の中に籠り戦争の時にだけ力を貸す。そんな者達ですから」

「だから?」

「その彼らが暗殺しようとしている。という話があるのです。なのでその調査を行いたいと思いまして」

「何を根拠に……」

「今も彼らは戦場に向かっています。私の領地の戦場で矢を放っているでしょう。だからこそ、不安に思うのですよ。この力が我々の敵になったら……とね」


 私は面倒だと思うが、誰かが止めなければならない。


「彼らは雇われれば確かに戦場に向かう者達だ。しかし、我々の敵になったことは一度もない」

「これからもそうとは限りません。ですので、その調査をしたいと思うのです。では採決を取りましょうか」

「は? いきなりだと? そんなのが通るものか!」


 通常であれば新しい議題はそれをここで提案し、次回以降に各々が判断をして採決を取る。

 今回のこれは強引過ぎる。


「では反対の者」


 私達穏健派閥の3人しか手を上げなかった。


「な……」

「では賛成派は」


 私達と国王以外の6人全てが手を上げる。


「では決まったようですね。こちらで既に準備は整っております。すぐに調査をいたします。その際に抵抗にあった場合、武力行使も辞さない。国王陛下のお命を狙うことですから、ご了承ください」

「な! 最初から狙ってのことか! 許されるはずがない!」


 私はそう言うけれど、ヘルシュ公爵はにこやかに笑って首を横に振る。


「しかし、これは議会の可決で決まったこと。お守り頂けないのは、どうなるかご存じでは?」

「……」

「では、問題ない……ということで。それでは、次の議題に進んで頂きましょう」


 私はそれ以上何も言えず、淡々と進む議会の進行を見守るしかなかった。


*******


 部屋には急進派閥の3人が同じ卓を囲っている。

 周囲には狩人の格好をした男が1人立っていた。


 ヘルシュ公爵は、仲間を見て口を開く。


「いやぁ上手くいって良かった。後はアルクスの里が滅ぶのを見守るだけだな」


 彼がそう言うのに、動揺した表情を浮かべる者はそこにはいない。


「事前に国王以外の中立派にもかなり工作を仕掛けましたからね。そちらは問題ありません」

「里の方もサギッタの里の精鋭100人を派遣しているのでしょう? アルクスの里の戦力はほとんどがヘルシュ公爵の領地にいる。里を滅ぼして、後はヘルシュ公爵の領地にいる奴らを反逆の名目で殲滅したらもう邪魔はいないですからな」

「ああ、大人しく我々に忠誠を誓っていれば生き残ったのに……なぁ?」


 ヘルシュ公爵は立っている男に向かって言う。


 彼はニヤニヤと笑って揉み手をして、彼らに言葉を返す。


「はい。我々サギッタの里は皆さまに忠誠をお誓いします。ですので、これからもよしなに……」

「ああ、お前達を囲い、アルクスの里を潰せば遠距離戦で敵はいなくなる。そうなれば、いずれ邪魔者共を消すときに有利に働くだろう」

「ええ、あの腰抜け共もケツに火が付かねば、理解せんでしょう」


 答えるのは急進派の貴族だ。


 それを聞いたヘルシュ公爵は鷹揚おうように頷き、話を続ける。


「奴らが国王様を狙っている。そのための証拠も作ってある。奴らの長は里から出ないからな。それも利用させてもらおう」

「はい。しかし、国王様はなぜ我々に賛成しなかったのでしょうか? 普通、自分の命が狙われていると知っていれば、賛成するとは思うのですが……」

「自分の命を理由に今回のことに賛成したら、毎回それが使われるかもしれん。だからこそ、賛成も反対もしなかったのだろうな」

「なるほど」

「後はアルクスの里の嫌疑が議会により公表され、滅びるのを待つだけだ」


 ヘルシュ公爵はそう言って、ゆったりとした仕草で紅茶を飲む。

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