第14話 アルクスの里の2人

 俺は朝早い時間に、街の外の結構な広さがある草原にいた。


 ヴァルガスが弓を教えてくれる人を連れてくると言ってから1週間。

 やっと連れてきてくれたのだ。


 なんでこんなにかかるのか聞いたら、その者は優秀だから呼ぶのに時間がかかる。

 ということを言われていたのだ。


 そして、その相手が来てくれたのだが……俺はめちゃくちゃ緊張していた。


「初めまして、アルクスの里の長、ナーヴァです。こちらが娘の」

「アーシャ。よろしく」


 そう言ってあいさつをしてくるのは、ゲームで俺が滅ぼすアルクスの里の2人だ。


 ナーヴァは狩人の格好をした40代中盤の男で、くすんだ赤髪を後ろで適当にまとめて垂らしている。

 体格は細身だけれど引き締まっていて、現役で戦えるとすぐに分かるほどに鍛え上げられていた。


 アーシャは父と同じく狩人の格好をしていて、俺の胸程度しかない小柄な少女だ。

 髪は真紅でそれをポニーテールにしていて、表情はほとんど動かず、動きやすそうなスレンダーな体型をしている。


 正直に言うと、会いたくない。


 この2人……特にアーシャは本当にまじで会いたくない。


 その理由として、ゲームでのナーヴァはすでに死んでいるところからスタートする。

 そして、彼を殺した原因が俺なのだ。

 だからか、アーシャはゲーム主人公の所に身を寄せていて、俺を絶対に殺すという恐ろしいほどの執念を持っていたキャラになる。

 そんなキャラのステータスがこれ。


名前:アーシャ

統率:93

武力:81

知力:68

政治:20

魅力:80

魔法:88

特技:弓術、潜伏、隠蔽魔法、狙撃、森林適性


 普通にめっちゃ強い。

 優秀で欲しい。

 でもゲームではそんな彼女に狙われ、主人公を倒したとしても、常にアーシャが生きている限りどこかから狙撃……それも、気配を極限まで断った矢で狙われまくる。

 彼女の存在もまたユマが主人公でやるうえでの難しさをあげている存在だった。


 そんなある意味、俺が殺して殺される相手が目の前にいるのだ。

 ここで緊張せずにどこで緊張しろと言うのだろうか。


「よ、よろしく頼む」


 何とかそう言えただけで褒めてほしい。


 もうここまで来ているのに断ることなんてできない。

 でも、こうなったら本気で習おうと思う。

 これ以降関わることは決まってしまったのだから。


「はい。では弓の持ち方から指導させていただきますね」

「頼む」


 それから、俺はナーヴァにとても丁寧に弓の使い方を指導してもらう。

 彼の指導はとても分かりやすく、すぐに自分の弓の腕があがっていくのが分かった。


「ユマ様は天才ですね……」

「何を言う、ナーヴァ殿の指導が上手いのだ」

「そんなことはありません。まだ始めて半日ですよ? そうですね……あの20m離れた的を狙ってみてください」

「分かった」


 俺は習った通りに矢を弓につがえ、引き絞って放つ。


 トン。


 矢は狙いをたがわず的に命中した。


「出来たぞ」

「半日でそれができるのは天才しかおられないと思いますが、いかがですか?」

「そうなのか?」


 俺は弓の習得にかかる期間とか知らないからな……。


「そうですよ。アーシャも天才だと思っていましたが、それ以上の才を見るのは……親として悩みますが」

「そんなことはない。アーシャはきっといい狩人になるだろう」

「本当は里で平穏に暮らしてくれると嬉しいのですがね」

「だろうな」


 俺もそうしてくれた方が命の危険がなくていいと言う所だった。


「さて、休憩も挟んだことですし、アーシャも参加しなさい。顔見せのつもりでしたが、ユマ様がここまでできるのであれば、一緒に教えても問題ないでしょう。ユマ様、アーシャが一緒でも構いませんか?」

「問題ない。アーシャのような人と時間を一緒に出来て嬉しく思う」

「……」


 彼女はじっと俺を見つめてくる。

 も、もしかして嫌われた?


 出来るかぎり友好的な言葉を言って、敵対しないように、命を狙わないようにお願いしたいと思っていたのだけれど……。


「申し訳ありません。アーシャは人見知りで」

「構わない。それよりも弓の指導を頼む」

「はい」


 それから俺とアーシャはナーヴァに弓の扱い方を教わる。

 といっても、内容はいかに正確な矢を放つのか、ということに重点をおいていて、流石に20m先の動く的には俺でも外してしまう。

 20m先の動く的に常に当てられるようにする。

 というのがナーヴァの練習方法だった。


「難しいな……」

「ユマ様であれば、1週間もあれば習得できるでしょう。20m先の物に何回か当てるくらいならできますが、ユマ様のように100発100中はできません。ここまでできるのは普通に半年はかかるのですよ」

「そうなのか?」


 やべ、俺、やっちゃいました?

 と言いそうになるが、これくらいは出来ておかないといけない。

 最強を名乗るには、もっと……先を見据えて鍛えなければならないからだ。


「はい。アーシャを見てください。ユマ様をじっと見て嫉妬していますよ」

「してない」

「ははは、蹴るのはやめなさい」


 アーシャはゲシゲシとナーヴァを蹴っている。


 そうやって適度に話したりしながら訓練をして、日が傾いてきた頃に俺達は訓練を終える。


「ではここまでですね。お疲れさまでした」

「ああ、助かった。弓がこんなにも奥深いものだとは思いもしなかった」

「そう言っていただけると助かります。それでは戻りましょうか」

「そうだな」


 それから俺達は屋敷に戻り、それぞれ別れる。


 彼らは1週間ここに住んでくれている。

 特に、ナーヴァはアルクスの里長であるのに来てくれているのだ。

 彼の時間を無駄にさせないということと、俺自身の時間も無駄にしないために、夕食を食べた後に1人で裏庭に来る。


 空には星々が輝いていて、夜ではあるが十分に明るい。

 その明かりを頼りにして、1人矢を放ち続ける。



 彼は気づかなかったが、彼を密かに見ている者がいた。

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