第13話 シュウが配下になって半年

 シュウを配下に加えてから半年、領内が少しずつだけれど着実にいい方向に変わっていた。


 俺の配下になった彼は、まずは情報収集の部隊の創設を提案し、俺はそれに同意した。

 領内の異変に加え、近隣の領地の情報もかなり詳細なところまで入ってくるようになった。


 最初は難色を示していた父上も、今では毎日熱心にシュウとグレイル領の運営に関して話し合っている。


「シュウ、それでは頼んだぞ」

「はい。領主様。ユマ様もその方向でよろしいですか?」

「ああ、問題ない」


 2人が政治の話をする時は、俺も大体連れて来られていた。

 次期領主なのだから……と、言われると断るに断れない。

 本当だったら剣を振ったり、ヴァルガスと戦いたいんだけど……。

 最強になりたいとは思っていても、領地自体も最強にしておかないと本当に死にかねない。

 政治の話も手を抜くことはできないのが戦略ゲームの難しいところだ。


 そんな話をしていると、父上が席を立つ。


「さて……私は議会に行く。領地をあけるが当分の間なら政務も問題ないだろう。ユマがシュウを連れてきてくれたお陰で、領内の治安も良くなったからな」

「シュウが優秀なだけですよ」


 俺が答えると、シュウが首を横に振った。


「ユマ様がいなければ、僕はグレイル家に仕えようとは思いませんでしたよ」

「そうだぞ。領主として、有能な配下に好かれるということはなににも代えがたい素質だ。誇っていいことだぞ」


 そう言われるけれど、俺としてもどうして好かれているのかよくわからない。

 普通にしているだけだと思うんだけどな……。

 なので、話を戻す。


「父上、議会はいいのですか?」

「そうであったな。ではいく。後のことは任せるぞ、ユマ、シュウ」

「はい」

「かしこまりました」


 そして、父上は議会に向かった。


 議会は以前説明した通りだが、定期的に開催されていて、父もその1人であるため駆り出されている。

 父上は帰ってくる度に面倒と言って表情を暗くするので、あんまりいい場所でもないのだろう。


 でも、行かないという選択肢はない。

 話し合う内容は俺達が住むノウェン国をこれからどうしていくかということについてだ。

 それに、話し合って決めたことを公表して、こうするように……という風な指針を出す。

 絶対ではないけれど、破れば力ある10の貴族が敵に回ることになる。

 ほぼ法律と言ってもいいようなものだろう。


「それでは、僕も自分の仕事に戻らせて頂きます。何かあればお呼び下さい」

「ああ、俺も訓練に行く」

「はい。お気をつけて」


 そう言って優しく微笑んでくる彼と別れ、俺はヴァルガスの元に向かう。


「ヴァルガス! 勝負してくれ!」

「ユマ様! もちろんです! お前達も来い! 今日こそは全員でユマ様をボコすぞ!」

「かかって来い! 俺に一発でも入れられたら褒美をやるぞ!」

「流石ユマ様! 太っ腹だ! 豪快な一発を入れてみせます!」


 ということで、俺達は散々訓練をして汗を流す。


 流石に10対1の訓練は練習になっていい。

 今のところ負けたことはないけれど、それがあるからこそ、負けることは許されない。

 ユマ・グレイルは最強。

 故に、多対一だろうが負けることは許されない。


 そんなことを考えていると、ヴァルガスが俺に聞いてくる。


「そう言えば、ユマ様は遠距離攻撃の練習はされないのですか? 弓か魔法は習得してもいいと思うのですが」

「実は騎士団長の彼女に魔法を習おうと思っているんだがな……帰って来ないんだ」

「あぁ……今は北方の領地が不穏でかかり切りですからね。しかし、グレイル家には優秀な魔法部隊がいるではありませんか?」

「ああ、いる。だが、俺は基本魔法部隊を率いて戦う訳ではない。戦場で馬を駆りながら魔法を使うからな。本職の人間に習いたいんだ」

「なるほど、それでは、弓を習得してはいかがですか? そちらの使い手ならそれなりにいると思いますが」

「なるほど……」


 そう言えば、バメラルの村で突撃を慣行している時に弓矢で邪魔が入った。

 あの時は打ち払い、突撃することに集中していたが、弓矢が使えたら反撃で倒せていたかもしれない。


「よし、では俺に弓を教えてくれ。すぐに使いこなしてみせる」

「はい。アルクスの里やサギッタの里ほどではありませんが、弓を使える者を連れてきましょう」

「助かる」


 アルクスの里やサギッタの里とは、腕利きの狩人が数多く暮している里のことだ。

 ちなみアルクスの里はグレイル領と2つの外領が接する領地の間にあり、ほとんど独立が認められている。

 サギッタはちょっと遠いけど、同じような感じだったはず。

 ゲーム的な要素としたら、そこ出身の弓兵はとても強く、最後まで使うような優秀なキャラがいる。 この国において、最も弓が強いキャラはほぼ確実にどちらかの里出身になる。


 ただ、アルクスの方はゲームが始まったころにユマのせいで滅んでいて、そこの出身者にはかなり怨まれているのだ。

 でも、この世界の俺はそんなことはしていないから、ちゃんと存在はしているが……。


「何がきっかけか分からないからな」


 何でユマが里を滅ぼすことになるのか分からない手前、あんまり彼らに近づきたくない。

 なので、ここの面子だけで弓を習得できるのであればそれでいいのだ。


「俺は強くなる。そうして、絶対に死ぬ運命からは逃れてみせる」


 理不尽なまでのルートはすぐに来てしまうだろう。

 だから、少しでもできることはしておかねばならない。


 ここで理不尽さの例を紹介しよう。

 例えば、ユマの武力が95に到達していなかったら、サイコロを振って6が出なければゲームオーバー。

 やり直しは2時間かかります! とか言うふざけた……正直これゲームなのか? と思わされるような場面すらあるからだ。


 だから、俺は鍛えて、強くなって、生き残る。

 俺は決意を胸に、剣を振った。


******


***ヴァルガス視点***


 俺はこの半年で、ユマ様の忠実な部下となったシュウの元に向かう。


「シュウ一つお願いがあるのだが」

「なんでしょうか?」

「ユマ様に弓を教えたい。だが、普通の弓兵ではユマ様には足りないだろう。だから、最高の弓の技術を教えることのできる人を呼んで欲しい」

「なるほど、ユマ様はそこまでお強く……」

「そうだ。俺達では到底届かないいただきにまで登っておられる。そして、ユマ様の素晴らしいところはそこよりも更に上を目指そうとされる姿勢だ。配下として、ぜひとも支えるべきではないか?」

「なるほど、ヴァルガス様がそこまで言うのなら分かりました。こちらで手を回しておきましょう」

「助かる」


 俺は、新参ではあるがその手腕には舌を巻く彼に頭を下げる。


 ユマ様のためになるのであれば、これくらい安いことだ。


「いえ、ユマ様のお力になりたいと思っているのは僕も同じです。共に支えていきましょう」

「ああ」

「最高の弓使いをお呼びしますよ」

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