第6話 ルーク視点 次期領主

 オレはルーク、グレイル兵の兵として働いている。

 今オレの首筋には木剣が突きつけられ、周囲では歓声が湧いていた。


「すげえええええ!!!」

「ユマ様今勝ったの!? どうやって!?」

「ありえないことをしてたんだよ! 剣で風圧を起こして打ち消したんだ!」

「あいつのハンマートルネードを消せるほどの風なんて、剣で出せる訳ないだろう!?」

「出してたからすげーんだよ!」


 そうだ。

 オレのこの技は強い。

 ただ、この世には強い人は何人もいる。

 副騎士団長のヴァルガス様や騎士団長もそうだ。


 彼らにはオレのこの技は通用しなかった。

 でも、彼らはかわしたり、魔法で打ち消すということで対処してきた。

 それをあんな……あんな風圧で消してくるなんてことは、今までされたことはない。


 自分よりも年下の次期領主様。

 そんな方に負けたのはいいことなのかどうか……。

 弱い兵士達と思われるか、それとも、使えないと見下されるか……。


 そんな心配をしているオレに、ユマ様はオレの前に回り込んで声をかけてくださった。


「ルークと言ったか」

「は、はい」

「いい振りだった。食らったらと思うとひやりとした。普段から鍛えて努力しているのだな。この調子で頑張ってくれ。これからもグレイル領のため、働いてほしい」


 信じられなかった。

 前に見た時はかなり粗雑そざつで、擬人化したゴリラのようだと言われていたくらいだ。

 我々兵士に何か害が及ばないように、領主様が隔離してくれていたとも聞いた。


 そんな人が、オレに期待している?

 正直信じられなかった。


 ユマ様はそれからさらに信じられないことを言う。


「さて、今は1対1だったが、次は俺1人と2人でかかってきて欲しい。誰かやる気のあるやつはいるか?」


 オレに勝ったのに、更に戦うというのか。

 強さへのあくなき探求心は、尊敬せずにはいられない。


「ルークの仇は俺がとってやる!」

「ルークの屍は乗り越えてってやるよ!」

「勝手に殺すんじゃねえ!」


 同じ小隊の仲間がそう冗談を言いながら出てきてくれた。

 俺は気心の知れた仲間に言い返す。


 ユマ様はそれを見て言う。


「いい仲間を持ったな」

「はい!」


 それから、ユマ様とオレ達の戦いは続いた。


 ユマ様は正真正銘の天才というか化け物で、最終的に1対10人でも勝っていた。


 そんな時、ヴァルガス様が途中で抜ける。


「ユマ様。北の方で山賊が村を襲っているようです。我々はその討伐に向かいます。こちらはもう大丈夫でしょうか?」

「ああ、問題ない。民達のこと。任せたぞ」

「もちろんでございます!」


 そう言ってヴァルガス様は兵士達を半数ほど引き連れて行く。

 残ったのは新兵や、この街の守備のための最小限の兵だけだ。


 兵士を集めたいとはヴァルガス様は言っていたけれど、そうそう集まるものでもない。


 かといって新兵から訓練するのも大変で、それに村から徴兵したらそちらの手が足りなくなる。

 ということらしい。


 オレはあまり頭がよくないので、詳しいことは分からないが……。


 そんなことを考えながら訓練をしていると、昼飯の時間になる。


「野郎ども! 飯の時間だ! 手を洗って列に並べ!」

「やったぜ! このために鍛えてんだ!」

「当たり前だ! 一番飯は俺がいただく!」


 皆元気よく走っていき、料理担当者達から飯を受け取る。


 オレもそこに並ぼうとすると、声をかけられて足が止まった。


「ルーク。少しいいか?」

「はい? なんでしょうか?」

「俺があれに並んで食べてもいいのか?」

「!?」


 何を言っているのだろうかこの時期領主様は。

 普通に時期領主様ということで、屋敷に戻って美味い飯でも食べればいいのに……。


「……いいかと思いますが、量はあってもお口に合うかは分かりませんよ?」

「構わない。では並ぶか」

「……はい」


 ということでオレ達は列に並ぶ。


「ど、どうぞ」


 だけど、前の人が先をどうぞと譲ってくる。


「必要ない。俺もお前達と一緒に並んで食いたいだけだ。気にする必要も、遠慮する必要もないぞ」

「は、はぁ……」


 譲ってくれたようとした彼はかなりドキドキしているようで、緊張が伝わってくる。

 時折振り返ってオレになんとかしてくれと目線をくれるが、オレだってなんとかしてほしい。

 次期領主様に粗相そそうをして首を飛ばされるのはたまらない。


 そんな気持ちで並び、オレ達の番が訪れる。


「大盛で頼むぞ! いっぱい食べて強くならねばならんからな!」

「はい。こちらをどうぞ」


 オレ達と同じものを食べるといいながら、実際には特別な物を食べるのだと思っていた。


 だけど、ユマ様は本当に同じものを食べるつもりのようで、隣に並んで食べる。


「うむ! まぁまぁの味だな!」

「そ、そうですね。やっぱり量を作ることを考えると、こうなってしまって……」

「もうちょっといい味にしてやりたい……父上に少し交渉してみるか」

「そ、そんなことまで……?」

「ああ、お前達だってさっき楽しみだと言っていただろう? なら、できるだけいい物を出してやりたいじゃないか」

「ユマ様……」


 ただのパフォーマンスだと思っていた。

 でも、そうやって真剣に考えるために一緒に食べてくれたというのが、オレはとても嬉しかった。


 自分だけは特別ということを言うのではなく、オレ達と同じ目線で、同じものを食べる。

 そんな行動が、オレは彼に従っていきたいと思えるように感じた。


 ユマ様は食べながらもどこか遠くを見ていて、何かを気にしているようだった。


「何か見ておられるのですか?」

「ん? いや……そういう訳じゃないんだが……だがそうだな。今この時、南の方で問題が起きた時はどうするのか……と思ってな」

「流石に同じ日にそんなことある訳……」


 オレがそう言っている途中に、大声で怒鳴り込んで来る者がいた。


「急報! 南のバメラルの村で野盗が出現! 救援を請うとのことです!」


 ユマ様の言葉は……当たっていた。

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