第5話 兵士との訓練

 翌日、俺は朝から訓練場に向かっていた。


「さて……強い奴はいるかな。いや、まぁヴァルガスを除いたら騎士団長くらいだからな……強いやつ。流石にいないだろうけど、違った方は鍛えることができるだろう」


 俺は最強になると決めた。

 そして、それを達成したいと思うけれど、戦う力は何も武力だけではない。

  ここで一度俺の攻略時のステータスを見よう。


名前:ユマ・グレイル

統率:99

武力:100

知力:97

政治:92

魅力:95

魔法:98

特技:突撃、鼓舞、斬魔法、猛将、破軍、一騎当千、神速、神将


 となっている。

 この時に、戦場で兵士をまとめ上げる力は武力ではなく、統率が物を言う。

 全軍突撃の時に、俺一人が突撃しても意味はない。

 軍隊が一丸となって突撃をしなければならないからだ。


 それを可能にするのが、この統率のステータスである。


 そして、このステータスは1人では決して伸びない。

 一番簡単なのは戦場に出て兵を率いればいいのだけれど、それでは本末転倒。

 ならどうしたらいいのか……という時に使えるのが兵士達と共にする練兵だ。

 これからやると少しではあるが統率があがるのだ。


 それに俺がお前達を率いると言えば彼らは兵士だから聞いてくれるだろうが、共に訓練をして意思疎通を図った方がいいに決まっている。


 そんなことを考えながら訓練場に行くと、そこでは大勢の男達が木剣で打ち合っていた。


「せい!」

「死ねぇ!」

「くたばれ!」

「地獄に落ちろ!」

「……」


 俺は思わず唖然あぜんとする。

 ののしり合いながら戦っているのに驚いてしまったからだ。

 それに男達は上半身裸の筋骨隆々で、めっちゃ強面こわもてだ。


 元々ゲーマーだった俺に、このノリはきついかもしれない。


「お前達! 整列!」


 ちょっと帰ろうか……とか思っていると、俺に気づいたヴァルガスが兵士達を集めてくれる。


 そして兵士達は即座に俺の前に並び始めた。


 これでは帰るに帰れない。

 どうしようか……と思っている間に、ヴァルガスが説明を始める。


「こちらにおわすのはお前達の主になるユマ・グレイル様だ! 今日はお前達の訓練に付き合ってくれるそうだ! 心して訓練をせよ!」

「おう!」


 野太い声に、俺は思わず倒れてしまうかと思ったほどだ。

 ただこれはとても心強い。

 ここにいる者達は皆味方なのだから。


「それでは訓練を再開する! 途中、ユマ様も訓練に参加なされるそうだが、本気で殺しにいって構わないそうだ! 男をみせろ!」

「おう!」


 さっきよりも大きい声が響いた。


 おい。

 次期領主を殺そうとするんじゃない。

 と思うけれど、ヴァルガスは俺の力を見せてやってくださいよと言わんばかりにへたくそなウインクを送ってくる。


「だけどまぁ……ちょうどいいか」


 人は強い者に従う。

 これは本能だ。

 自分よりも弱い者に従うには、そうするだけの何かがあるのだろう。


 だが、強さを見せることは、相手にそれだけでついて行くと納得させる一番手っ取り早い行動だ。

 俺がまずはやることは……。


「ヴァルガス」

「はい! なんでしょうか?」

「この中で一番強いやつと戦いたい」

「かしこまりました! ルーク!」

「は!」


 元気良く返事をして集団の中から出て来たのは、俺の身長の倍はあろうかという大男だった。


「ルーク! お前の本気をユマ様に見せてみろ!」

「は! しかし……」


 ルークは本当にいいのかという目をヴァルガスに向ける。


「構わん! 貴様が本気でやろうがユマ様は倒せん!」

「かしこまりました」


 ということで、俺とルークの戦闘が始まる。

 そしてなぜかもよおしもののように、俺とルークが中心となり、兵士達が周囲を囲っている。


「ルーク! 男をみせろ!」

「お前に銀貨1枚かけるぜ!」

「俺は晩飯をかけてやるよ!」


 周囲では楽しそうに俺とルークが賭けの対象になり始めている。


 それを見たヴァルガスが謝ってくる。


「ユマ様。大変申し訳ありません。あのような不敬なこと、すぐに取りやめさせます」

「いや、いい。その方が面白そうだ。それに、ずっと訓練続きでは心もすり減っていくだろう。少しはやらせてやってもいい」

「……ユマ様の寛大な処置、ありがとうございます」

「気にするな。これから沢山働いてもらうのだからな」

「は!」


 ということで、賭けが結構で揃い、俺とルークの戦闘が始まった。


「それでは、始め!」

「行きますよ!」

「こい」


 相手は大柄で、手に持っているのは俺の半分くらいはある大きな木槌きづち

 正直あんなので殴られたら死んでしまうような気がしないでもないけれど、本気でこいと言ったからには責任はとらなければ。


「はぁ!」


 彼は少しためらったように木槌を振りかぶり、叩きつけてくる。


「遅いな」


 手を抜いているからか速度は遅い。


 俺は最小限の動きでかわして木槌の上に乗る。

 彼の目をじっと見つめて言う。


「ルーク」

「は、はい」

「本気で来い。俺はお前の攻撃では死なんぞ」

「わ、分かりました!」


 俺はそう言うと彼から5メートルほど距離を取った。


 これで彼も本気になってくれるだろう。


「今度は……殺す気で行きます!」


 そういう彼の目は炎で燃え上がっていて、全身に力が漲っている。


「うおおおおおお!!! ハンマートルネード!」


 彼は俺に向かって吠えながら走ってきて、少し手前で木槌を横に振る。


「おいバカ! 訓練で使うんじゃねぇ!」

「逃げてください! 当たったら死にますよ!」


 彼の技を見た俺の後ろにいた奴らは慌てて逃げていく。


 それは風の竜巻といったところか、地面が削られながら俺の方に向かってくる。


「俺には効かん!」


 俺はそう叫ぶと、剣の腹で風を起こし、ルークの技にぶつける。


 目の前で風と風がぶつかり、そして相殺された。


「うそ……」

「戦場で棒立ちになったら死ぬぞ?」

「え?」


 俺は風を相殺した次の瞬間にルークの背後に回り込み、首筋に木剣を突きつける。


「ま、参りました」


 ルークは降参し、周囲では歓声が爆発した。

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