第4話 父上の相談
俺は父上に呼び出されて、父上の部屋に向かっていた。
「なんだろう……」
元々の俺は夜一緒にご飯を食べていたみたいだけれど、最近は剣の練習で毎日鍛えていた。
だから夜ご飯は一緒に食べず、1人で食べることが多くなって会えてなかった。
だから何かあったのかな……と思ったんだけど……。
よくわからないけど、とりあえず父上の部屋に到着した。
コンコン。
「入りなさい」
「失礼します」
部屋の中は高級な執務室といった感じで、手前には来客用のソファ等があり、奥には窓を背にして大きな机が置いてある。
そこに座っているのが、俺の父であるベイリーズ・グレイルだ。
彼は俺と血がつながっているはずなのだが、そう見えないほどに弱々しい。
髪はすっかり色が抜け落ちていて白く、体も骨と皮ばかりが残っている。
顔には柔和な笑みが浮かんでいて、俺のことは歓迎してくれているようだ。
「どうかしましたか?」
「最近、頑張っているようだね。ユマ」
「はい。俺は強くならないといけないので」
「そうか……そうだな……お前がそんなことを考えるようになるとはな」
「どういうこと? 俺はいつだって考えてるよ」
俺がそう答えると、父上はゆっくりと首を横に振る。
「いや……今までのお前は体を鍛えるといっても、自分の強さをひけらかすように戦っていただけ。今は真に強者になろうと努力しているように見える。変わったよ」
「そ、そう……」
「ああ、父としても、グレイル侯爵としても嬉しい。誇りに思う」
「任せてよ。父上や先祖が守ってきたこの土地を絶対に守ってみせるから」
「ああ、期待している」
俺はこういったけれど、どうしてなんだろうとも思う。
俺は『ルーナファンタジア』のゲームは好きだし、この世界で生きていたいし、死にたくないと思っている。
でも、この土地を守りたい、そう思うのは、この体の……ユマ・グレイルという男の物なのかもしれない。
彼はどんな悲惨な最後になろうが、この土地から逃げることはなく、死に際にあってもこの土地に帰ろうとしていた。
俺個人としても、この土地を守ることに否はない。
と、決意を固めたはいいけれど、父上とは話し中あったことを思い出す。
「それで……呼ばれた理由はそれだけですか?」
俺がそう聞くと、父上は思い出したように手を叩く。
「そうだった。ユマ、お前に相談があるんだ」
「相談?」
「ああ、ヴァルガスが持って来た話なのだが、兵士達と共に訓練をしてみないか?」
「兵士達と一緒に? どうしてですか?」
「多対一の訓練ができるし、今の情勢だ、いずれお前は戦場に立つことになるだろう。その時に、自分と共に戦ってくれる者達と時間を過ごすことも必要だとは思わないか?」
そう言われて、俺は頷く。
「そうですね。その通りです。一緒に訓練を受けてみたいです!」
これは戦略ゲーム。
あくまで国対国の戦争システムにより、1人の力では絶対に限界が来る。
だから、信頼のおける精鋭兵を作ることに問題はない。
でも……。
「あの……少しだけお願いがあるんですが……」
「なんだ? 言ってみるといい」
「魔法の授業を受けたいのですが……」
「魔法……とはあの魔法か?」
「はい」
「一度魔法を教えようとしたら、お前は逃げて1日帰って来なかったな? また習いたいと?」
「はい」
「私はそれでも魔法は必要だからと、魔法を教えようとしたが、お前は教師を殴って逃げ出したこともあったな? それでも習いたいんだな?」
「はい」
ユマは一体どれだけ魔法の授業が嫌いだったんだ。
父上から聞かされるセリフにちょっと引きながらも、できることをお願いしておく。
魔法は最初は人から習わなければ覚えるのが大変なのだ。
自分でやってもいいけれど、やはり人から習った方が効率がいい。
それに、ユマ・グレイルの魔法は単体最強と名高い。
だから最強を目指す上では覚えることが必須に近いと言ってもいいだろう。
父上は少し右手でこめかみをほぐしたあと、頷いてくれた。
「そこまでいうのであれば分かった。手配しよう。ウチで雇っている者でもいいか?」
「贅沢を言ってもいいでしょうか?」
「誰だ」
「騎士団長にお願いしたいです」
「いいが……すぐには無理だ」
「今……情勢が不安だから……ですかね」
騎士団長は今北部の方の盗賊退治等で忙しいはずだ。
「そうだ。山賊や野盗がかなり出てきているからな。その対応に魔法使いも割かざるを得ない。近隣の領地もかなりきな臭いからな」
「はい」
ということで、今後……ということではあるけれど、魔法の指導をしてもらえるという確約をもらった俺は満足する。
「では明日から兵士達の訓練場に行ってくれ。話はヴァルガスが伝えているはずだ」
「分かりました。お話は以上でしょうか?」
「ああ、今日はもう休むといい」
「はい。……ですが、父上もお体には気を付けてください」
「ふ。分かっている。最近は山賊退治も行っていないからな。たまには行った方がいいかもしれない」
父上のその言葉に、俺は電流が走ったような気がした。
これから何が起きるのかということを隠すように、俺は答える。
「……それは……俺が行きますよ」
「頼りにしている」
「はい。では、お休みなさい」
「お休み」
俺は父上にそう告げて部屋から出る。
「父上に……行かせていけない」
彼と話していて思い出したことがある。
たしかユマ・グレイルの父、ベイリーズ・グレイルは、その山賊の討伐に失敗し、命を落としたのだ。
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