第7話 急報

「急報! 南のバメラルの村に野盗が出現! 救援を請うとのことです!」

「……」


 そう声をあげて報告をしてくるのは、かなり軽装をした伝令兵だった。


 しかし、まさか本当に野盗が出るなんて……。

 いや、今はそんなことをしている場合ではない。


 俺は伝令兵に向かって声を張り上げた。


「数は!」

「300ほどかと!」

「現状は!」

「今はバメラルの村が自力で防衛をしております! しかし、それもいつまで持つか!」

「村の規模で防衛できるのか?」

「こんなこともあろうかと柵が作ってありますので! しかし、簡易なもので、そこまで時間は稼げません!」

「ここから馬で飛ばせばどれくらいだ!」

「半日ほどです!」

「分かった。下がって休め」

「は!」


 彼はそう言って来た道を戻っていく。


 休むのなら兵舎で、そっちにはないだろうに……と思うが、今はそんなことは後でいい。


「ゴードン! 父上に報告に向かえ!」

「かしこまりました!」


 途中から訓練を見ていたゴードンにそう命令し、俺は兵士達に指示を出す。


「300か……ルーク! こちらで馬に乗れる者は何人いる?」

「は! ここには50ほどしか……騎士団の大部分は北部の治安維持に出ていますし、防衛のための戦力は居ますが、機動力のない者達しかおりません……」

「そうか」


 俺が今いるこの場所はグレイロードという場所だ。

 ここはグレイル領の領都とでも言うべき場所で、城壁も持ち、兵力もたくわえている。

 だが、今は領内の治安維持をするためにかなりの兵力を領内に散らばらせていた。

 ここを防衛するために、兵士や弓部隊、魔法部隊はいるけれど、どれも足は遅い。

 彼らを連れて行けば確実に勝てるが、到着した頃には全てが終わっている可能性もある。


「ルーク。馬に乗れる者達に準備をさせろ。すぐに出るぞ」

「ユマ様がですか!?」

「俺以外に誰がいる」

「し、しかし、相手は野盗と言えど300はいます。ユマ様が行くほどでは……」

「俺が行く。これは決定事項だ」

「かしこまりました。すぐに伝えてきます」

「頼む」


 俺はそれから、父上に報告がてら、出撃の許可を取りに向かった。


 父上は執務室で甲冑の準備をしている。


「父上? どうされたのですか?」

「どうされたもこうされたもない。私が向かおうと思ってね」

「いえ、俺が行きます。領主である父上にもしものことがあってはことです」

「なに、その時はお前が継いでくれればいい。お前なら私よりも上手くできるだろう」


 そう言われて、俺は背筋に嫌な汗が流れる感じがした。


「そんなことは言わないでください。それに、俺も前線に立たねばと思っていた所。俺に任せてください」

「私もたまには領主として戦場に立たねば」

「俺がやります。全ての戦場には俺が立ちます。だから任せてください」

「ユマ……」


 ゲームでどんなやり取りがあったのか分からない。

 でも、父上がこの辺りで……それも野盗討伐で死んだことがあったはずだ。


 だから、なんとしても、ここで父上に行かせる訳にはいかない。


「お願いします。俺に任せていただけませんか」

「……そこまで言うなら仕方ない。ゴードンをつける。だから……」

「いえ、兵士達だけで俺が討伐してみせます」

「お前……それは……」

「信じてください」


 俺は強く言い切り、父上の目を見つめる。


 正直どこで父上が死ぬか分からない。

 だから、できる限り安全に、護衛に囲まれていて欲しい。

 領地の経営を1人でこなし、他の場所よりも大分豊かなのがこのグレイル領だ。

 今父上に死なれては本当に困る。


 父上はしばらく俺を見た後に、嘆息たんそくして頷く。


「分かった。だが、無理だと思ったら兵士を見捨ててでも帰ってこい。お前にはそれだけの価値があるのだからな」

「分かりました。では、すぐに出立します」

「任せた。民達を頼む」

「はい」


 俺は父上にそう言って、外に出ると馬に乗った者達が待っていた。


 先頭にいたルークが声を張り上げる。


「騎馬兵50騎! すぐに出立出来ます!」

「よし! 俺の馬を引け!」

「ここ!」


 ルークの隣には誰も乗っていない馬が一頭立っている。

 俺はニヤリと笑って馬に飛び乗った。


「よし! 目指すはバメラルの村だ! 野盗共を狩り取るぞ!」

「おう!」


 俺はそれから50騎を連れて、バメラルの村に進む。


 ただ、道中思う。

 ケツが痛い……あれだけ格好をつけた手前、馬に乗れないとは言えなかった。

 体はなんとなく覚えているのかもしれないけれど、日本で育った俺が馬に乗った経験などない。


 だからなんとしても、早くこの野盗どもをしばきあげて、馬の乗り方を教えてもらうことを決めた。


 それから村を一直線に目指して進み、火の手が見える。


 ルークがそれを見て叫ぶ。


「あれはバメラルの村の方角です!」

「全軍! 急ぐぞ!」

「は!」


 俺達は馬を飛ばし、大分近づいた所で、村を囲っている野盗を見つけた。

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