やはり一人が好きな僕

@atun2

  

一人は嫌いだ。

一人は寂しいから。


一人でいることが好きだ。

一人でいた方が楽だから。



そんな矛盾を僕は抱えている。


-----


「こんばんわ」

「こんばんは」


 今日は待ちに待った特別な日。

今日の事を想像して緊張して、はや一週間。

いよいよ思いを告げられると、興奮している自分と緊張している自分がいる。


「今日は来てくれてありがとう」

「別にいいよ、暇だったし」


 言葉を交わすたび緊張が和らいでいく。

やっぱりこの子といると安心する。


「次のお客様どうぞー」


「ん、呼ばれた」

「行こう」


 店員さんに呼ばれて、席まで案内される。


「こちらの席へどうぞ」


「どうも」

「ありがとうございます」


 四人席のテーブルに案内される。

周りを見てみると、このお店は四人席以上しかないようで二人で座るには少し広かった。

 一緒にきた彼女は、奥の席に座った。

なるべく目を合わせて喋れるように、向かいの席に自分も座った。


「何食べようか」

「うーん、メニューが多すぎて悩む」


「私はこれとこれが気になるかな」

「確かに、それ美味しそう」


「じゃあ、この二つを頼もう、で、ジャンケンで勝った方が先に届いたやつを食べるってのはどう?」

「いいね、乗った」


 時々やるこの決め方を僕は結構気に入っている。

長いこと悩むよりもすぐに決まるし、結局美味しいご飯が食べれるからだ。


「いくよー」

「よしきた」


「「ジャンケン〜ぽん」」


「やったー、勝ったー」

「くっ、負けた…」


「やっぱジャンケン強くない?」

「そう」


「うん、いつも負けちゃうよ、何かコツでもあるの?」

「コツねー、うーんと、よく手を見ることだよ」


「手を見てどうするの?」

「なんとなく何を出すか感じる」


「えー、なにそれ全然わからないよ」

「なんとなーくわかるんだよ、なんとなく」


「えー」


 無駄話もそこそこに店員さんを呼び決めた食事を頼む。

 少しの間、無言の時間ができてしまった。

何か話題がないか頭の中でぐるぐる考えていると、彼女が喋り始めてくれた。


「今日学校で、凛ちゃんがね、教科書貸してーって言うからしょうがないなって思って貸してあげたの」

「うん」


「それでね、次の授業で使うから返してもらったんだけどさ」

「うん」


「先生が、『54pを開いて下さい』って言ったから開いたの」

「うん」


「そしたら、教科書に出てくる人物に髭が落書きされてたんだよ」

「何それ」


「もしかしてと思って他のページ開いてみたら、他のページにも髭が落書きされてたの、酷くない」

「あはは、ひどいね」


「まあ、そのあと『人の教科書に何てことしてくれんだ』って、凛に怒ったんだけどね、そしたら、『退屈な授業してる先生が悪い』とか言って全然謝ってくれなかったんだよね」

「それは、謝ってくれてもいいのにね」


「だよねだよね」

「うん」


「お待たせしました、こちら和風ハンバーグとなります」


「おー、美味しそう」


 そんな感じの会話が続いた。

 僕は話すことが苦手なので、相槌を打つか時々意見を言うくらいしかできなかった。

だけど、僕は彼女の話を聞いてるのが好きだ。

 友達の愚痴とか、最近会ったこととか、色々なことを話してくれる。

時々、自分には理解し難い話もあるけど適当な相槌でやり過ごす。

他の男の話が、出て少しムッとうることもあったけど。

 とても楽しかった。

 この時間がずっと続いてくれたらいいのに。

そう思った。

 けれど、今日の食事が終わったあと、この関係も壊れてしまう。

 いい方に転んでも、悪い方に行っても。

それでも自分の、この気持ちを彼女に伝えたい。

  伝えないまま終わりたくない。

だから、僕は今日…


「美味しかったねー」

「すごく美味しかった」


 お腹も膨れとても満足な気持ちでお店を出る。

家に帰るために駅に向かう。


「ごめんね奢ってもらっちゃって」

「いや、僕も楽しかったからいいの、それより他の言葉の方が欲しいなー」


「ご馳走様でした」

「どういたしまして」


 それから他愛のない話をして、歩く。


「じゃあここでお別れだね」

「うーん、今日は送っていくよ」


「どうしたの珍しいね」

「ただの気分」


「そっか、じゃあお願いしようかな」

「ええ、送っていきますとも姫様」


 僕が膝を付き、手を伸ばして言う。

結構恥ずかしい。


「やめてやめて」


彼女は慌てた様子で周囲を気にしながら言うので、仕方なしやめる。


「君ってこう言うところあるよね」

「こう言うところって」


惚けて聞き返す。


「突拍子のないってゆうか、変な行動を時々する」


彼女が膨れた様子で、こちらを睨む。


「ごめんって」

「はー、今後はやめてよね」


 今後、今後か、この先もこんな調子でずっといられたらいいのにな。

 きっとこの気持ちに蓋をすれば、この関係も続けられるだろう。

 僕がそんな思いを抱えていても電車は進む。

 

 電車が駅に着きおりる。

 駅から出てしばらく歩く、彼女の家まで15分くらい。

 それまでが猶予だ。

 

「ねえ、なんで今日は二人で食事なんてしたいって言い出したの?」

「…」


「何か悩みでもあった?

あ、もしかして好きな人でもできた?」

「あはは」


彼女の家が近くなってきた。


「なんか、口数減ってきたね、どうしたの?」

「すーー」


 緊張する。とても緊張する。

きっとこの言葉を言ったら、この関係が壊れてしまうから。

壊してしまうのが怖いけれど言う。

きっと今日が最後だから。

だから。


 「ずっと君のことが好きでした。

どうか僕と、付き合って下さい」

「…」



「ごめんね」



「私他に好きな人がいるの」



「だから、ごめんなさい」


「あはは」


「そっか、こっちもごめんね困らせちゃって」



「家まで送ってくれてありがとう」

「うん、ばいばい」


 彼女を送り自分も帰路に着く。

不思議と、悔しいとか、悲しいとか、そう言う気持ちが湧かなかった。

 それはきっと、断られるのがわかっていたからだ。

 だけどそれだけじゃない。

自分の思いがその程度だったのだ。

その事を、自覚すると反吐が出る。


「はあ〜

また、一人か」


やはり僕は一人が好きだ。

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