第23話 討伐依頼
小さな剣は呼び出しを受けて冒険者ギルドへとやってきた。
タイミング的にはミルナを冒険者ギルドがどう扱うのかの話だろうとマルコは予想していたが、実際は魔物の討伐依頼だった。
「実はラッタス湖に
エレーヌが申し訳無さそうに言って頭を下げた。
前回の依頼も今回の依頼も、本来ならば小さな剣は休んでいる期間である。
命懸けで魔物と戦う冒険者にとって、休んで気力と体力を回復させる事は重要だ。
小さな剣の様な高ランク依頼を受注する上位ランクの冒険者でなくとも、依頼の後にはしっかりと休暇期間を取って次の依頼に備えるのが多くの冒険者の普通になっている。
疲労を溜めた状態で依頼に行けば思わぬ怪我をしたり、最悪の場合は死んでしまう事だってある。
十分な休みを取らせずに冒険者ギルドが次の依頼を頼むのは、冒険者側から非難を受けたって仕方のない話なのだ。
小さな剣の場合はマルコを背負って長距離を歩き、重い殺戮岩兵をぶん投げたにも関わらず、ディアナがピンピンとしているので問題は無いのかもしれないが。
「良いわよ。あたしはそんなに疲れてないから。マルコはどう?」
「僕はほら、ディアナに背負って貰えるから疲れは取れてるよ」
二人の反応を見て、ホッと胸を撫で下ろしたエレーヌ。
今日は二人への申し訳なさの方が勝って、可愛いロウを見る余裕は…少ししかない。
「近頃高ランクの魔物が増えてますね」
「そうなんですよね。この10日あまりで3件目ですから。それに他の街の冒険者ギルドでも高ランクの依頼が増えているみたいなんです。ギルドマスターも何か原因があるだろうと考えているみたいなんですが…。物騒ですよね…」
同時期に強い魔物が増える背景は幾つか考えられる。
一つ目は魔物が活性期に入った可能性。
歴史上で見ても数十年に一度は魔物の活性期というものが訪れ、多くの魔物が進化して魔物の強さが底上げされる。
二つ目は
魔物の大行進も数十年に一度は起こっており、こちらは局地的に大量の魔物が生まれて、その中に強大な魔物も生まれてしまうというもの。
魔物の大行進は指揮個体が種族を超えて魔物を統率し、大群となって街や村へと押し寄せて大きな被害を引き起こす。
三つ目は誰かが魔物を進化させている可能性だが、これは目的や方法がわからないと何とも言えないので調査が必要となるだろう。
何にせよ、冒険者がやるべきは出現した魔物を討伐する事だ。
調査に関しては国や冒険者ギルドの上層部でやればいい。
小さな剣は大湖蛇の討伐依頼を受けて、クロムにコンタクトを取ってからガントの鍛冶屋へと向かった。
「ガントさん、こんにちは。一つお願いがあって来ました」
ガントは今日もマルコを完全に無視した。
「マルコを無視してるんじゃないわよ。魔法を使う魔物の討伐に行くから盾を貸して」
今回の討伐対象である大湖蛇は、水魔法を使う討伐推奨ランクBの魔物である。
ランクはBだが湖の中に生息している事と、湖面に姿を現しても遠距離から魔法で攻撃してくるので、討伐の厄介さは実質Aランクと言っても良い。
特に魔法が使えないマルコとディアナにとっては相性が悪く、厄介極まりない魔物である。
そういった遠距離から攻撃してくる魔物に対する場合、ディアナは盾を使ってマルコを守る戦い方をする。
ディアナは盾を扱うのがあまり好きではない。
ディアナの目指す英雄像とは、敵の攻撃を剣で防いで強烈な剣戟で敵を倒すスタイルだ。
攻撃こそが最大の防御というスタイルを目指しているディアナにとって、盾は邪魔でしかないのだ。
そもそも盾を使う戦い方は格好良くないと思っていて、やはり剣だけで戦う英雄こそが最高に格好良いと思っている。
仲間であり憧れの存在のマルコがそうである様に。
しかしマルコを魔物の攻撃から守る為ならば、ディアナは盾を持つ事も辞さない。
但し盾は持っていないので、毎回ガントの鍛冶屋で借りた物を使っているのだが。
「おうおう、ディアナじゃねぇか!いつもの盾があるから持って行け!そろそろ俺に専用の盾を作らせる気になったか!?」
「たまにしか使わないからいらない」
「マジかー!作らせてくれよ!お前に似合う大盾を作るぞ!」
「絶対に使わないからいらない」
ディアナは店先に飾られているラウンドシールドを手に取って鍛冶屋を出た。
翌日。
ベルートホルンの街を出たディアナは左手にラウンドシールドを着けていた。
本当なら歩く時は両手を開けておきたいディアナだが、背中にはマルコを背負っているし、腰に盾を着けるのは邪魔になるから仕方がない。
大湖蛇が出現したラッタス湖は比較的ベルートホルンに近く、街道を通って片道半日の距離にある。
街道から近い分、飲み水を補給したり水浴びに使われる頻度が高いので、放置すれば何も知らない者達が近付いて犠牲者が出る可能性が高い。
冒険者ギルドから注意喚起はされているが、全ての人間に周知されている訳では無い。
話を聞かない冒険者や情報を手に入れる手段が少ない村人、注意喚起が出された時には既にベルートホルンに向けて出発していた貴族や商人などなど。
可能性を言い出したらきりがない程なので、冒険者ギルドが小さな剣に急ぎで依頼を出したのは納得ではある。
特に危険な魔物にも出くわさず、小さな剣はラッタス湖へ到着した。
森の木々に囲まれた湖は見回せば端から端まで視界に収まるぐらいの大きさで、湖畔から覗き込めば魚や水棲の魔物が目視出来るぐらいに水が澄んでいる。
そんな綺麗な湖のラッタス湖で、非常に運が無い一団が既に大湖蛇との戦闘を繰り広げていた。
「ファイヤーボール!」
「ウインドカッター!」
「どどど、どうしますの!?あんな化物、貴方達に倒せますの!?」
剣とバックラーを構え、鎧を身に着けた騎士が3人とローブを着た魔術師が2人。
それに加えて長い金髪を縦巻きにしたドレスの令嬢とメイドが1人。
大きい物になると20mを超える大湖蛇の鱗には魔術を弾く効果があると言われていて、剣が届かない範囲から攻撃する大湖蛇へ放たれた魔術は効いていない。
大湖蛇は水の中に生息しているが陸上でも普通に動ける魔物なので、背中を見せれば一方的な狩りが始まる。
冒険者ギルドからの依頼が1日でも遅れていれば、あの一団は確実に全滅していただろう。
「はぁ。面倒ね。クロム、どうしましょうか?」
ディアナは距離を取ってついて来ているクロムを呼んで判断を仰いだ。
普段ならマルコに意見を求めるディアナがクロムを呼んだのには意味がある。
クロムもそれを理解しているので、すぐに頭の中で状況を整理して、5秒と掛からずに判断を下した。
「まずはあいつらの前に出て大湖蛇の意識を引いてくれ。その間に俺があいつらを街道まで下がらせる」
「了解。マルコもそれで良い?」
「うん。ロウは…「アンアン!」興味津々だね。ミルナはどうする?」
「んあ?ご飯の時間?出たぁ!30年ぶり28回目のデカ蛇!ミルナはお家に隠れて見学してるわよ」
全員の意志を確認して、小さな剣は行動に移った。
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