第19話 妖精
掃除屋達の…主に若い労働力達の働きで…殺戮岩兵の解体…もとい採掘は手早く行われた。
岩塊から採取出来たのは金と宝石多数。
宝石は多くが質の悪い物ばかりだったが、少量のダイヤモンドが混ざっていて、こちらはかなりの高値が付くだろうとクロムは話した。
採掘が済むと小さな剣は村へと戻って一泊。
翌朝ディアナと手を繋いで朝の散歩に出掛けたマルコに、突然の不幸が襲った。
「何あの弱っちそうな生き物!ミルナよりも弱っちいんじゃないの!?とぉ!ミルナキーック!」
「ぐふっ…」
マルコは目に見えない何かによって腹に強い(強くはない)衝撃を受け、膝から崩れ落ちて死亡した。
終わり。
なんて縁起の悪い冗談はさておき、内臓を守る筋肉が無いのでマルコは割と大きなダメージを負っている。
一体マルコに何が起こったのか。
マルコとディアナの視界には何も映っていないのだが、唯一ロウだけには何かが見えているらしく、何度も飛び上がっては両前足で何かを叩こうとした。
「ぎゃぁぁ!どうしてミルナが見えてるのよ!って神狼!?どうして弱っちい生き物と神狼が一緒にいるのよ!止めてー!こーろーさーれーる―!」
ロウが何度も何度も続けると、二人にもロウが追う先に何かが飛んでいるのが薄っすらと見えてきた。
ディアナは翅が生えた人型らしきそれの翅を、虫でも捕まえるみたいに指で摘まんだ。
「あっ…。どうもー。初対面で翅を掴むのはマナー違反なので放して頂けると。ミルナ、トンボじゃないんで」
やけに塩らしく話掛けて来たのは、金髪を左右で結んでツインテールにした可愛らしい妖精だった。
ディアナが捕まえた事で姿がはっきりと見え、声も聞こえる様になった。
どうやらマルコに攻撃をしたのはこいつらしい。そう考えたディアナは、マルコに問う。
「こいつ、搾って良い?」
「ぎゃぁぁ!こーろーさーれーるー!」
「あはは。可哀想だから放してあげよう?」
マルコがそう言うならと手を放すと、妖精はくるくると飛び回ってから二人の前で止まった。
そしてグーにした手を両腰に当てて、背中を反らせた偉そうな格好で口を開く。
「見付かってしまっては仕方がないわね!ミルナはミルナ!そこの弱っちい生き物に勝利した事で弱っちい界最強となった妖精よ!」
弱っちい界最強とは一体何の事であろうか。
マルコは首を傾げながら、イラっとしてミルナを搾ろうとしているディアナと、ミルナを玩具の様に追い掛け回して捕まえようとするロウを止めた。
「あんた弱っちいのに中々いい奴ね!ミルナの下僕にしてあげる!」
「やっぱり搾る」
「ぎゃぁぁ!搾らないでー!ミルナの中身全部出ちゃうからー!」
ディアナに捕まって雑巾の如く搾られそうになりながらも、どことなく楽し気なミルナ。
まるで友人と遊んでいる様な雰囲気で、ミルナは体を縮ませたり伸ばしたりしてディアナの手から逃れようとしている。
全く逃げられそうなイメージは湧かないのだが。
マルコがディアナを宥めてミルナを放してあげようとした時、ミルナの表情が曇った。
「ごめんごめん。ちょっと急用を思い出したからさ、放してくれるとありがたいんだけどなー。って言うか放して!お願いお願い!ミルナ逃げなきゃいけないんだった!」
急に下手に出たと思ったら慌てて放して欲しいと懇願するミルナ。
その瞬間、マルコに異変が起きた。
「入った?」
目で見てもそこには何もいない筈だ。
それなのに、何故か【
マルコはディアナの佩いた刀を抜いて、致死線に沿って刀を横ぶりにした。
何かを斬った手応えはまるでない。
しかし、「おあぁぁぁう」と呻き声が聞こえると一瞬だけ人型の靄が見えて、地面に大粒の宝石が転がった。
どうやら【大番狂わせ】が発動した原因は今の靄だったらしく、マルコは重たくなった刀を地面に落とした。
そんな光景を目にして、ミルナは目をぱちくりさせて口を開いた。
「え!?嘘うそウソUSO!?倒したの!?倒しちゃったの!?」
やけに興奮気味のミルナに戸惑うマルコ。
倒したは倒したのだろうが、【大番狂わせ】を発動させて、こんなにも手応えが無かった経験は皆無だ。
マルコが状況を整理出来なくて首を傾げている間にもミルナの口は止まらない。
「わーっはっは!ざまぁみろ!弱っちい界最強のミルナ様を追い掛け回した罰よ!」
まるで自分が倒したかの様に威張るミルナ。
ミルナは一頻り例の靄を煽り倒すと、今度はマルコに視線を向けた。
「あんたミルナより弱っちいのに強いのね!決めた!ミルナはあんたについて行く!だってミルナよりも弱っちいのに強いあんたの傍が一番安全そうだから!」
ついていくとかどうとかの話は別にして、マルコに対して弱っちいと連呼するミルナにイライラを募らせたディアナは、とうとう怒りの沸点が限界に達した。
「マルコ、やっぱりこいつは搾るね」
「止めて!止めて!こーろーさーれーるー!」
マルコの仲裁でどうにかミルナは一命を取り留めたのであった。
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