木村が大先生と呼ばれた訳~その発言に『‥‥‥え??』てなる瞬間~
「ほう、ストーカーしたん?」
私も言わないで良いのに、つまらない悪ノリをしてしまった。
冗談でも言うべきじゃない、こんなこと。
少なくとも私のその後の過剰な大嫌いキャンペーンで彼が学内で不利な立場に追いこまれたのだから。
「ストーカーはしたかどうか……あ、それっぽいこともしたとか言ってたなあ」
ハハハっと滝川は笑う。どうやら成れ染めを一部始終聞いているようだった。
「なんしすぐにはどうこうなかってん。その子は毎月二人以上から告白されて、たとえサッカー部の主将だろうと野球部のキャプテンだろうと、柔道部の主将だろうと、軽音部のギタリストだろうと、学校の先生だろうとYESは言わなかった子やねん」
(最後のやつ、立場的に良いのんかあ……?)
でもその話からすると……
「まさか、木村がそんな女子をゲットしたん?」
「おお、そうやで」
「ええーっ!!」
「ええーっ!!」
なぜかあまり知らないはずの美乃莉までも同じ驚きの声を上げる反面、咲幸は『フフッ』としたり顔をした。
色んな、実はこうなんでしょ? 的なマイナス要素を想定した。
――実はその子、滝川が言うほど美人でもなく、そこら辺の子よりは少しキレイなぐらいの子じゃないの?
――めっちゃタイミングがハマっただけちゃううのん?
――実は裏で何か隠しているんちゃうの?
――金で釣ったとか?
――親同士が決めた仲だったとか?
――催眠術にでもかけたのか?
――何か彼女の猥褻な秘密を握ってそれで脅したのか?
――彼女の気まぐれで一度か二度だけの関係じゃないの?男は気にするけど女にしたらそんなものカスった程度のもんなんだからね……最初ならそうでもないかな?
どんどん想像が猥雑な方角へと向かって行く。自分の発想の乏しさが悲しくなる。
とりあえず知っているか聞いてみよう。
「どうやってそんな子ゲットしたん?」
「しかも向こうから、女の子の方から『好きだから付き合ってください』って言ってきたんだって」
「しえーっ!!」
「ええーっ!!」
完全に私の猥雑な想像を反対の聖なる側から超えて行った。
――ありえへんありえへんありえへん、木村みたいな底辺なやつが! なんでなんでなんでなんで??
「絶対なんか裏技使っているわ、せこーい裏技を!」
また何かしら下劣な手段で奪い取ったと思いたい。
――じゃないと、じゃないと困る! 私がフッた木村がそんなええ男やったら、そんな木村をその後も横柄に扱ってイジメを起こしてしまうようなことをした私の見る目が、全くないと周囲に露呈されたようなもんで、困るねん!
既に見る目ないのは良く分かっている。今までの自分の人生の結果と預貯金の推移がそれを証明している。
でも私のスクールカースト絶世時代のこの空間、神輿の上で華麗に飛び跳ねている私の時代の空間の中で、
――その現実突きつけるのは止めて!!
「裏技と言ったら裏技かなあ」
「ほらほらほらほらー絶対何かしてるって絶対!」
あくまで悪いことをして無理矢理付き合うようにはめ込んだ、私が平家蟹にやられたように、木村もどこかでテクニックを覚えて落とし込んだとしたい。
むしろ自分よりもっと下の人間なんだから、私よりもっとアンフェアな手段であって欲しい。
例えば強姦とか。木村はストーカー癖があるから、つけて行って強姦して、たまたま女は誰でもいいからヤラれたかっただけ。
それで女からもうちょっと付き合ってって言った、変わった状況、特異なシチュエーションだったのよきっと。
「その子……村尾さんて子やってんけど、親がなんかややこしくって、俺もそこはチラッとしか聞かされていないんだけど、父親が本当の父親じゃないとか。それで母親も含めてなんか揉めていたらしい。それを木村が時間かけて村尾さんと今の親とを和解させたんよね」
「……………………」
夢の中で走っていて突然地面が消えてしまった時のように、気持ちが落とされたような感覚になった。
私が呆気に取られて口だけを鯉のようにパクパクしていると、
「それって……裏技やなくて、すご技やん……ちゃう?」
美乃莉がばっさりと言ってくれる。
そう、私の考えていた平家蟹が使ったような所謂強引さや口車的な裏技ではなく、それは人に対する「尽くす姿勢」のすご技だった。私は自分の想像があまりにも低俗過ぎたのと、違い過ぎたので言葉が出なかった。
「そうやなあ、裏技と言えば裏技やけど、すご技やなあ。そもそも付き合いたいからしていたわけでなくて……」
「ほう」
「隣の席同士やってん、木村と村尾さんって。木村は村尾さんの陰のあるところにいち早く気が付いてたらしいねん」
(席が隣……私も隣やったんやけど)
「俺らからしたら最初から仲良かったように見えたんだけど、そうじゃなくて、最初村尾さんは木村を突き放して、結構辛辣な物言いで、つっけんどんな態度をとっていたらしいねんけど、木村が言うにはそれでもどこか『助けて欲しい』と感じるところがあって、『角谷さんとは違ってた』んだって」
(あいつそこ言わんでいいって、マジで)
私はストーカーもどき事件があって、彼と席が隣でも交流を全面拒否していた。
一方村尾さんは掴みはどうだったかは知らないけど、木村と席が隣で交流をしていた。
「『だからどっかケンカや言い合いはするけれど、村尾さんから離れて行くことはなくて、逆にどんどん近づいてきたように思えたんだ』だってさ」
――絶対変わった子や、そうや、そうに違いない! そういうことにしよう!
まだ粘る。醜くなろうがかつての王者が底辺野郎に負けるわけないとまだ粘る。
(私、何してるの? 何にそんな意地張ってんの?)
この私はかつては存在しない私だったのではないだろうか。それか無視をし続けてきたのか。もう一人の私に対して、もう一人の私が冷静になれと促す。
「村尾さんって最初の時は友達もおらへんかってんなあ」
――ほらほら、来た来た、変わった子や変わった子!そうに違いない!
やっぱりもう一人の私が行ききってしまおうとする。
「女子らの間でも話しかけたら最低限話し返すだけの子やった。いっつも一人で平気そうに無表情に本を読んだりワイヤレスのイヤホンで音楽聞いたりやったんやけど……」
「けど?」
美乃莉の興味が完全に滝川が話す木村と村尾さんの展開に持って行かれている。
『けど』があるということはその逆説があるということ。その事実が目前に迫った時もう一人の行き切ろうとした私は「キーッ!!」と意味不明な断末魔を心の中で上げて、大きな鉄の壁にぶつかってしまっていた。
「木村と一緒におるようになって段々変わっていて、最後は多くの友達に囲まれてカラオケ行ったり、買い物行くようになってなあ。大きな声で笑う声も良く聞こえるようになったんよ」
「うぉ、めっちゃええやん、木村とおってええ風に変化して行ったんやあ。木村ってめっちゃええ男やってんなあ」
「最初は『家でもややこしいのに、学校内の友達関係でややこしいのんとかスクールカーストとかそういうのんが絶対に嫌』やったから心を閉ざしていたみたいよ」
「スクールカーストとかに拘っているやつホンマダサいなあ」
咲幸の発言に『え?』ってなる。
「おお、ダサいダサい!」
滝川が応じて咲幸の言葉に味方する。
「……………………」
(咲幸……中学校の時、私についてきてたのに……)
心の中で完全にぶちのめされて、真っ白になっていく私がいる。
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